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患者の「ここが痛い」の裏にあるのは?伊藤和憲先生に学ぶトリガーポイント治療の鉄則

公開日:2026年8月28日

「患者さんが『ここが痛い』と訴える場所に鍼や手技を加えたのに、症状がなかなか改善しない…」
臨床現場で、このような壁にぶつかった経験はないでしょうか。

日々多くの患者さんと向き合う中で、痛みの原因を捉えきれず、治療効果を高める方法を模索することは少なくないのではないでししょうか。その悩みを解決するひとつとなるのが「トリガーポイント(Trigger Point:TP)」の概念です。

トリガーポイントは、「押すと痛い場所(圧痛点)」ではありません。治療家にとってトリガーポイントを学ぶことは、痛みの真の原因部位を見抜き、的確にアプローチするための強力な武器になります。

本記事の前半では、トリガーポイントの定義や筋肉の痛みのメカニズムについてまとめました。

さらに記事の後半では、トリガーポイント研究の第一人者である伊藤和憲先生(明治国際医療大学 教授)へのスペシャルインタビューを掲載!初心者が陥りがちな思考の罠や、臨床で即実践できる触診・治療のコツまで、たっぷりとお話を伺いました。

トリガーポイントの定義と発生メカニズム

トリガーポイントの定義

トリガーポイントとは、「痛みの引き金(Trigger)となる点(Point)」です。骨格筋や筋膜の中に形成される過敏化した局所的な結節(筋肉のコリ・硬結)であり、そこを押圧すると強い局所圧痛だけでなく、離れた部位に痛みや痺れを放散させる「関連痛(Referred Pain)」を引き起こすという特徴を持っています。

つまり、トリガーポイントとは「症状が出ている場所」ではなく、「痛みの真の原因が存在する場所」なのです。

「カッターで切った指」と「腕立て伏せ後の筋肉痛」、何が違う?

「痛み」と一口に言っても、その発生メカニズムには大きな違いがあります。これを理解するために、伊藤和憲先生は「はじめてのトリガーポイント鍼治療」の中で、2つの日常的な事例を挙げて次のように解説しています。

『例えば、指先をカッターで切った時の痛み(皮膚の痛み)はとても鋭く、どの指のどこの部分が切れたのかまで目を閉じても明確にわかります。 しかしながら、 腕立て伏せの後などにしばらくしてから起こる筋肉の痛み(遅発性筋痛)では、 運動した筋肉だけでなく、 あたかも上腕全体が痛いように感じます。 実際に腕立て伏せにより損傷を受けた部分は、 筋肉の中でも筋腱移行部付近のごくわずかな筋線維のみであり、 決して腕全体の筋肉が損傷を受けたわけではありません。 皮膚の痛みは誰にでも明確にその部分をとらえることができますが、 筋肉の痛みは障害を受けた本人ですら痛む部分があいまいなのです。 これはつまり、 肩が痛いと患者さんが僧帽筋を指したとき、その情報だけを頼りにその筋肉へ治療を行えば、 失敗する可能性が高いということです。』

まとめると、

  1. カッターで指を切ったときの痛み
  2. 腕立て伏せを限界まで行った翌日の筋肉痛

前者の「カッターで指を切った痛み」は、皮膚の受容体が直接損傷を受け、その場所自体が痛む直感的な痛みです。

一方、後者の「筋肉痛」やトリガーポイントに起因する痛みは、筋肉の過度な負荷や血流不全、微細な損傷によって引き起こされる「筋肉の痛み(筋・筋膜性疼痛)」なのです。

「痛い場所」の多くは間違い?原因は別の場所にある

臨床で最も注意すべきは、筋肉が痛みの原因の場合、「患者さんが痛みを訴える場所(主訴部位)の多くは、痛みの真の原因部位ではない」という事実です。

前述の通り、トリガーポイントの最大の特徴は「関連痛」を生じさせる点にあります。 例えば、肩こりや頭痛を訴える患者さんにおいて、実際に痛みを引き起こしている原因は、首の深層筋(頭半棘筋など)や背中の筋肉(頭板状筋、僧帽筋)に潜んでいることが多数あり、また、坐骨神経痛のような臀部から足にかけての痺れ・痛みが、実は小臀筋や臀部のトリガーポイントによる関連痛だったというケースも頻繁に見られるとされています。

痛みを発生させているトリガーポイント(原因部位)と、脳が痛みを感じている場所(結果)がズレているため、患者さんが「ここが痛い」と言った場所だけを治療しても、一時的な気休めに終わったり、全く効果が出なかったりするのです。

「痛い場所=悪い場所」という固定観念を捨て、「痛い場所は被害者であり、犯人は別の場所にいるかもしれない」と疑うことこそが、トリガーポイント療法の第一歩となります。

トリガーポイントを学ぶ意義

見落とされがちな「筋肉の痛み」の仕組み

実際に臨床家として様々な患者さんの痛みに出会うまでは、この「筋肉の痛み(筋・筋膜性疼痛)」の詳しい仕組みやトリガーポイントの概念について、必要以上に取り組むことはなかったかもしれません。

解剖学や生理学で筋肉の付着部や神経支配は身に付いていても、「なぜ筋肉の中に索状硬結ができ、それがどのようにして遠くへ痛みを飛ばすのか」といった臨床に直結するメカニズムを体系的に学ぶ機会は多くありません。そのため、多くの施術者が、現場で「原因不明の痛み」に苦しむ患者さんのために、「筋肉の痛み」の仕組みについて深く学び続ける必要があります。

患者の痛みを軽減するために、学ぶ価値がある

痛みの原因がはっきりせず、整形外科や治療院を転々として「痛みを抱えてさまよう患者さん」は世の中に数多く存在します。そうした患者さんの中には、痛む場所だけにアプローチされて、改善の兆しが見えないまま悩んでいるケースもあります。

トリガーポイントの知識と触診技術を学ぶことは、こうした「原因不明と言われる痛み」のカラクリを解き明かすことに役立ちます。

  • 治療の精度が向上する(さらに「効く治療」へ)
  • 難治性の痛みに対する打開策(セカンドオピニオン)を持てることになる
  • 他の治療院との明確な差別化に繋げることができる

手技の種類や治療スタイルの違いを超えて、トリガーポイントは「すべての鍼灸師・治療家が知っておくべき最低限の共通言語・臨床知識」と言えます。

筋肉の痛みの本質を理解し、正しい見立てを行う能力を養うことこそが、患者さんの痛みを根本から軽減し、施術者としての信頼を築くための基本になるでしょう。


【特別インタビュー】「原因不明の痛み」にどう挑むか?伊藤和憲先生が明かすトリガーポイント治療の極意

では、実際の臨床ではどのようにトリガーポイントを探し、治療へとつなげていけばよいのでしょうか。
トリガーポイント研究の第一人者である伊藤和憲先生に、臨床での具体的な考え方やアプローチの鉄則を詳しく伺いました。

伊藤和憲 先生のご紹介

1997年明治鍼灸大学(現:明治国際医療大学)鍼灸学部卒業、2002年明治鍼灸大学大学院(現:明治国際医療大学大学院)博士課程修了。その後、明治鍼灸大学(現:明治国際医療大学)鍼灸学部に入職し、カナダのトロント大学でリサーチフェローとして痛みの研究に従事した後、現在明治国際医療大学鍼灸学部学部長・教授、同大学院鍼灸学研究科研究科長・教授、同大学地域・産学官連携推進センター長を務める。その他、YOJYOnet株式会社(明治国際医療大学学内ベンチャー)CEO を務める。
社会活動としては、日本疼痛学会理事、日本慢性疼痛学会理事、日本線維筋痛症・慢性痛学会理事、京都府鍼灸師会副会長、日本養生普及協会会長、京都丹波ウェルネスツーリズム推進協議会会長、京都府南丹市「文化観光大使」、京都府南丹市「健幸街づくり協議会」副会長を兼任する。

トリガーポイント研究の原点と、迷える「痛み難民」のリアルな現状

――先生がここまでトリガーポイントの研究に力を入れられるようになったきっかけは何ですか。

学部生のころ研究室でお世話になった恩師の川喜田健司先生が、「トリガーポイント鍼療法(医道の日本社)※絶版」を出版されたタイミングでトリガーポイントという言葉や現象に興味を持ち、実際にその書籍通りに調べてみると関連痛が生じる経験をしました。

そこから、トリガーポイントや筋肉の痛みに興味を持ち、大学院で筋肉の研究をしようと思いました。

――病院や治療院を転々として「痛みを抱えてさまよう患者さん」の現状についてどう思われますか。

痛みの原因は複雑であり、明確な原因があるものばかりではありません。特にトリガーポイントのような筋肉の痛みは関連痛を生じることから、痛いところ=悪いところとはならずに、原因を見逃すことがあります。さらに近年では筋肉だけでなく、脊髄や脳などの痛覚受容機構が慢性疼痛に大きく関与していることが明らかとなりました。そのため、明確な痛みの原因がないということも多々見られます。

痛みの原因が明確にならない、もしくは痛みの原因があったとしても、その原因よりも痛みの範囲が広く、痛みが強い場合は、一人で悩まずに痛みの専門家に診察してもらうことが良いと思います。

初心者が知っておくべき可動域チェックと思考の切り替え

――患者さんが痛いと訴える場所(情報)だけに頼って治療するとどのようなことが起きますか?

痛みの原因は痛いと感じているところだけではなく、離れた場所にあったり(トリガーポイント)、脊髄や脳が記憶をして痛いと感じている場所には存在しない場合も多くあり、治療がうまく行えない可能性があります。

そのため、初めは痛い場所を中心に治療を行ったとしても、効果が認められない場合は痛いところには原因がないと考え、違う部位に治療を行うことが大切です。

――患者さんが「ここが痛い」と言ったとき、初心者はまず頭の中でどう思考を切り替えると良いと思いますか?

まずは痛いところを治療してみます。その上で、2~3回治療しても痛みが変化しない時や、治療直後は良くてもすぐに痛みが戻ってしまう時は、その場所に原因がないと考え、別の原因を考えることが大切です。その第1選択肢として末梢の問題であるトリガーポイントの存在を考える必要があります。

ただ、痛みの範囲が広いときや複数個所痛みが存在するときは、トリガーポイントよりも脊髄や脳感作の影響、痛覚変調性疼痛を考える必要があると思います。

――初心者が「これなら自分にも探せる!」と思えるための、姿勢や動き(可動域)のチェックのコツを教えてください。

筋肉の痛みは「短くなると痛くなり、伸ばされると楽になる」という原理になっています。そこで、可動域を調べ、どの動きが痛いかを探すことが大切です。

可動域にはその動作に関係する筋肉が収縮する必要があります。そのため、可動域を調べればその動作に関係する筋肉に問題があることがわかります。その際は、最終可動域(エンドフィールド)あたりまで動かすことが大切です。途中の動きでは痛みを生じない場合があるので注意しましょう。

また、可動域を調べるのが苦手な方は「症状から治療点がすぐわかる!トリガーポイントマップ(医道の日本社)」という書籍を参考に、痛みを訴えている部位からトリガーポイントを探すことも可能です。初心者には痛みの部位から探すのもお勧めです。

狙うべきは圧痛点ではなく「索状硬結」、精度にとらわれすぎず効果を出すアプローチ

――ただの「押して痛い点(圧痛点)」と、治療すべき「トリガーポイント」を見分ける、手の感覚(触診)の最低限のルールはありますか?

圧痛点は押して痛いだけのポイントですが、トリガーポイントは索状硬結という細い爪楊枝ほどの塊の上にできるという特徴があります。また、トリガーポイントを圧迫すると症状の一部が再現するという特徴もあります。

そのため、トリガーポイントを探す際は、圧痛点を探すという考えではなく、索状硬結を探し、その索状硬結の中の一番痛い部位を押すことで症状が再現するかどうかを確認することが重要です。トリガーポイント=圧痛点という考え方はやめましょう。

――痛みの原因箇所(トリガーポイント)を正確に探すことにこだわりすぎて、治療を敬遠してしまうのを防ぐアドバイスはありますか?

トリガーポイントは治療方法の1つでしかありません。まずは、圧痛でも痛い部位でもいいので治療をしてみてください。ただ、2~3回治療しても効果がない場合は、刺している場所が間違っていると考え、違う部位を探すことが大切です。その際、筋肉の痛みの場合は圧痛よりも硬結を見つける方が効果が高いので、硬結を探すことも一つかもしれません。

また、硬結の中で一番痛い部位に鍼治療が行えると良いのですが、それが見つけにくいときは痛いところにこだわらず、硬結に刺すようにしましょう。我々の研究では、硬結上の最も痛い部位に鍼が行えれば効果は一番得られるものの、硬結上であればそれなりの効果を得ることが出来ることが分かっています。そのため、まずは硬結に鍼をすることを心がけましょう。

――これからトリガーポイント治療をめざす学生や若い治療家へ向けて、エールをお願いします。

手技の有無にかかわらず、トリガーポイントは鍼灸師として知っておかなければいけない最低限の知識です。そのため、筋肉の痛みがなぜ難しいのか、どんな特徴があるのかだけでもいいので知るようにしてください。その上で、治療を繰り返して行ってもうまく痛みが軽減しないときの打開策としてトリガーポイントは役に立ちます。また、他の治療院で治療をしてもうまく効果が出ていないときは、治療部位が間違っている可能性があるので、トリガーポイントを利用すると効果が得られることが多いと思います。他の治療院や先生との差別化を目指すうえでも必要な知識ですので、是非書籍を手に取り、学習してください。

――伊藤先生、貴重なお話ありがとうございました。

本記事では、トリガーポイントの基本的な概念から、臨床現場で直面する「痛みの真の原因」へのアプローチ方法について、伊藤和憲先生のインタビューを交えて解説しました。
痛みのメカニズムを正しく理解し、触診技術を磨くことは、これまで「原因不明」とされてきた難治性の痛みに苦しむ患者さんを救う大きな力となるでしょう。ぜひ、手技や治療スタイルの枠を超えた“共通言語”としてのトリガーポイント治療を、日々の臨床や日頃の学習に取り入れはいかがでしょうか。

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