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書籍『犬のツボ押しBOOK』著者インタビュー

公開日:2013年4月22日|最終更新日:2022年3月7日

犬猫の平均寿命は年々延び、1985年に比べ倍以上になっているそうです。同時にペットを取り巻く病気も多様化してきており、人間同様に生活習慣病や運動器疾患が増え、西洋医学以外の代替療法が注目されはじめています。昨年、『ペットのための鍼灸マッサージ』を、この4月には『犬のツボ押しBOOK』を執筆された石野孝先生と相澤まな先生は、かまくらげんき動物病院で、西洋医学と東洋医学を融合させた、やさしい治療を実践されています。マスコミ、セミナーなど多方面でも活躍中の石野先生と相澤先生に新刊の『犬のツボ押しBOOK』について、お話を伺いました。

インタビュー

――石野先生と相澤先生はなぜ東洋医学に興味を持たれたのですか。

石野 私の父は鍼灸師でした。昔、鍼灸院と言えば、暗いイメージがあったので、私も子供ながらに父の仕事を人に言うのが嫌だったんです。ただうちの治療院に来る患者さんたちは父に治療してもらって、元気になって喜んで帰って行くんですよ。鍼灸って暗いけど、こんなに喜んでもらえ、効果があるのなら、それをもっとアカデミックにしたいな、と高校生のとき思ったんです。

人間だとプラセボ効果がありますが、動物の場合はそれがありませんよね。本当に効果があるか、ないか、動物で試せばよくわかるはずだ、動物でそれを検証してみたい、というのが、私が獣医師になった理由なんです。

大学を出て、最初は農業高校の教師になったんです。養豚を担当し、そこで繁殖障害とか、足が悪くなった豚とかに、鍼をしたんです。するとみるみる元気になっていくんです。その姿を目の当たりにしたら、これはもう自分の仕事にするしかない、ということで、農業高校を退職して、中国に留学しました。その後開業し、20年になります。

相澤 私は、鍼灸や漢方などの伝統医学に対する興味があったので、日本伝統獣医学会(当時は獣医東洋医学研究会)に学生手伝いとして参加させていだたいたこともありました。今から20年くらい前ですが、その当時はまだ東洋医学に興味がある獣医学生は結構めずらしかったです。2000年を境に、犬の純血種の飼育頭数が雑種犬を上回りました。その影響で良質なペットフードが作られるようになりました。

また飼い主さんの病気予防、治療への意識の向上等もあり、犬猫が長生きするようになってきました。長生きすればガンなどの病気の種類も増えますし、老犬のケアという病気ではない分野も出てきました。必然的に西洋医学だけでは対応しきれなくなってきたのです。西洋医学をベースにして治療の幅を広げられることが鍼灸や漢方に代表される東洋医学の魅力です。現在は東洋医学や代替医療に興味を持ち、勉強する学生さんは増えています。

鍼灸は大きな設備はいりません。鍼を持っていれば往診先でもできるという強みもあるので、今後さらに拡がっていくのではいないかと思います。

靴ベラを使ったマッサージ。皮膚に負担の少ない道具で体をやさしくこすってあげる。

――犬(動物)のツボはどのくらいの歴史があるのですか? 最初はどういったことで使われたのでしょうか。

石野 ツボというか、動物の鍼は遣唐使が仏教の伝来とともに日本に持って来たんですよ。飛鳥時代から平安時代前期のことです。隋の時代に聖徳太子が小野妹子らを中国に渡らせ、多くの留学生に古代の科学技術や制度等を学習させました。

701年制定の大宝律令の中には馬の臀部や蹄底に対する焼烙(理学療法の一つ。火熱を用い、充血および炎症を誘発することにより治療の促進を図る。腱炎、靱帯炎、骨瘤、化骨性骨膜炎、変形性 関節症などに適用される)の記載があります。804年、随遣唐使として中国に渡った平仲国は獣医学を学び、帰国後多くの弟子を養成し、日本各地にその弟子を派遣、“仲国流”と呼ばれる獣医学派をつくっています。

ですから人間の鍼灸と同じくらいの歴史があるんです。その当時から食医(食事の医者)や獣医がいたそうです。最初は牛、豚、馬といった家畜に対して、鍼灸を行っていました。

――犬のツボは人間と同じ数だけあるのですか? また同じ位置にありますか?

石野 動物のツボは基本的には人間のツボと同じ数だけあります。ただ人間のツボ以外に中国の伝統獣医学のツボというのがあります。弓子、衝天といったツボです。そういうツボは人間にはありません。動物独特のツボです。産業動物由来のツボですので、跛行(足の運動器系疾患)に効果があります。
動物の鍼灸はもともとが牛、豚、馬から発達したものです。牛、豚、馬は指の数が全部違うのです。人間とも違います。馬の指は1本で、中指だけで立っています。牛は2本指、豚は3本指です。犬の場合は後肢の第1指が欠如している場合が多いです。そのように指の数が違うので、指のツボも人間のツボとは違ってきます。同様に肋骨の数も違いますから、位置も違ってきます。


相澤 百会のツボは一番高い所ということで、人間の場合は頭になっていますが、動物は頭と腰にも百会があります。なぜかというと昔は家畜に鍼をしていたので、例えば馬ですと、頭に百会があると人間のほうが背が低いので手が届きません。高くてなかなか鍼が刺せなかったんです。それで頭以外に高いところというと腰。そういうことで、腰の百会としている、と古典には出ています。

体の部位ごとにツボの押し方は異なる。こちらは、頭部のツボである攅竹から糸竹空へのツボ押し。

――本書のお勧めの使い方やツボ押しのポイント、注意点があれば、教えてください。

石野 まず、「この本でツボの探し方を覚えましょう」と言いたいです。ツボは動物の大きさや種類、毛が長かったり短かかったりで、位置が変わります。ですから探し方の基準を覚えてほしいのです。それがわかっていないと位置が全然わからなくなってしまいます。本書で探し方の勉強をしましょう。
それからツボの押し方ですが、指先に力を入れるのではなくて、指先に愛情をこめてツボ押しをしてください。毎日ツボを触ってあげていると、硬かったり、冷たかったり、嫌がったり、うれしがったり、犬の体調の変化がわかるようになります。
そして“いきなりツボを押すぞ”というのではなく、普段触っている延長でツボ押してあげてください。“足の三里を触ろう”というのではなく、触っていて犬が気持ちよさそうにしているところが足の三里だったといった感じでやってもらえばいいと思います。当然、ツボにあたると、動物でも得気を感じ、まんざらでもない気持ちよさそうな顔をしたり、手足を動かしたり、尻尾を回したりします。
またツボ押しをいきなり犬に対して行うのではなく、まず自分のツボを探して押してみて、ここだ(指がツボに吸い込まれる感じの部位)と思う、そこと同じところを犬で探してやってみてください。そのほうが上達すると思います。
スキンシップは犬との絆をつくり、深め、相手だけでなく自分自身をも癒す力をもっています。 “ツボを押す”、“体に触れる”という行為は、そのスキンシップの基本です。本書を使って、大切なワンちゃんの健康を守ってあげてください。

病状ごとのツボ療法を、わかりやすいイラストと実際にツボを押している写真で解説している

●石野 孝(いしの たかし)
1962年   神奈川県出身
1987年   麻布大学大学院獣医学研究科修了 
1992年   中国・内モンゴル農牧学院(現・内モンゴル農業大学)動物医学系修了
1993年~現在 かまくらげんき動物病院院長
2000年   中国伝統獣医学国際培訓研究センター名誉顧問
2002年   (社)日本ペットマッサージ協会理事長、ほか
2009年   中国・南京農業大学准教授
2013年   中国・内モンゴル農業大学 動物医学院 特聘専家

●相澤 まな(あいざわ まな)
1974年  神奈川県出身
1999年  麻布大学獣医学部獣医学科卒業
2005年  日本伝統獣医学会主催第3回小動物臨床鍼灸学コース修了
2006年  Chi-Institute(FL,USA)獣医鍼灸コース修了(認定獣医鍼灸師)
2008年~現在 かまくらげんき動物病院 副院長
2012年  中国伝統獣医学国際培訓研究センター客員研究員、他に南京農業大学人文学院准教授、 (社)日本ペットマッサージ協会理事

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