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第62回経絡治療夏期大学 学会・イベントレポート

公開日:2022年9月13日

第62回経絡治療夏期大学が2022年8月19~21日、東京有明医療大学にて開催され、全国から304人の参加者が集まった。第61回(2019年開催)から3年が経ち、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がはじまって以来、初の開催となった。

1日目の開講式では、会長の岡田明三氏は「先達たちは、人間の本来の力を調整する目的で、局所ではなく全身治療を経絡治療と名を付けた」と起源に触れ、「本会の講師陣は日々臨床を行っており、学者とは違うアプローチができる。無責任になんでも治るとは言わない。しっかりとできる範囲で答えてくれます」と話した。また、「体調不良を感じたらすぐに事務局へ行ってください」と注意を促した。次いで、事務局からも入場規制についてのアナウンスがあり、感染予防を念押ししたうえでの幕開けとなった。

開講式後、普通科、高等科、研究科、研修科の4科に分かれてカリキュラムが進められた。

「経絡治療入門とその到達点」と題して已病と未病についてから始まり、東洋医学におけるケアと西洋医学におけるキュアの違いについて解説した。続けて岡田氏は、「上質な鍼灸=経絡治療」を唱え、「知性、理性、感性を持つことが大切」とし、例えば服装ひとつにしても「われわれ先生と呼ばれるからには、基本的に医療である以上少し保守的なくらいの格好を心掛ける」と指導した。

高等科では橋本厳氏による「祖脈の種類と意義」の講義が行われ、祖脈は全身の拍動を手で診られることで大まかな病態を把握できるとし、その方法を解説。受講者のなかには特徴的な脈の人もいるはずなので、個人差の確認を行い、祖脈の種類とその意義を述べた。

三部九候診は全身を左右六指で診ることを可能にした画期的な発明であると説明した橋本厳氏

研修科で馬場道敬氏は、臨床を通して見えた「経絡治療の真髄」とは、六部定位脈診で証を立て、難経本義により選穴し取穴する。さらに鍼灸治療の質量を考慮するものとし、患部ではなく経穴が目標と伝えた

「VAMFIT(経絡系統治療システム)と脈位脈状診の習得」で木戸正雄氏が登壇。素問ではすべての病の根本は臓の「精気の虚」にあるとし、これを改善し整えるためにシステム化したものがVAMFITであると紹介。肩こりに対して霊亀八法との効果の比較を示した

研究科では浦山久嗣氏による「脈状と病理病症(各論)」が行われた。脈状診の習得には古典原文の暗記が最短の道。また、脈状診は季節の病状の観察がはじまりと説いた

午後はその他に班別に分かれ、換気、消毒を徹底したうえで各講師によるレクチャーが行われた。

船水隆広氏は、日本と海外を対比すると、韓国は韓医師でないと鍼が打てない。日本では中国(中医学)のように漢方薬を用いることができないので鍼が上達した歴史を伝え、いかに日本鍼灸が優れているかを語った。

「鍼を打つ時は、指でなぞり自然に止まるところを前揉捻し、そこに気を集め、押手で余計な皮を排除してから優しく叩き入れるイメージ。基本的に斜刺で」と指導した船水隆広氏

研修科で婦人科疾患をテーマに教鞭を執る樋口秀吉氏

「鍼灸師は、どの年代から始めても自身の味をだせるのがよいところ」と語る中根一氏

研修科「女性の更年期の治療」で実技を行う様子。刺入の向きをレクチャーし、女性を治療する際の注意点について、受講者の質問に答えていた田畑幸子氏

「井上雅文著『脈状診の研究』の解析と考察をする」について、著書の内容と照らし合わせて講義を進める篠原孝市氏。著書では、脈状を座標軸で図式化して示し、デジタルで把握できるようにしていると解説

1日目の最後には、懇親会の司会を15年務める普通科の戸田隆史氏進行のもと、懇親会パーティーが開かれた。今回は感染予防の観点から、当初予定されていた中庭から講堂での開催場所が変更となった旨を説明し、会長の岡田氏は「このような制約が多い中で開催できたことをうれしく思います」と心境を述べた。会の冒頭では、夏期大学に5年参加者10名と10年参加者7名が発表され、それぞれ表彰式が執り行われた。その後、各科の講師たちの紹介へとうつり、会の目的である講師と受講生の交流を深める場となった。

夏期大学に5年間、10年間の参加者からそれぞれ代表して1名ずつが壇上に上がり、会長の岡田氏より記念品が授与された


2日目、普通科では班分けした後、四診法と六部定位脈診についての講義が行われた。高等科では、馬場道啓氏による「経絡の流注と要穴の取穴」から始まった。要穴を選穴し、的確な取穴をする重要性を説き、臨床別に補穴、寫穴をまとめた。

腰痛には委中、委陽を取穴し、逆子には束骨が有効と論じた馬場道啓氏

研究科で山口誓己氏は、「脈状の種類と意義」について講義を行い、革脈と牢脈についてそれぞれのポイントを解説。革脈は浮で弦であるとし、虚熱の発散を寒邪が閉じ込め、これがアトピーの原因になると展開

「不眠症の東洋医学的病理と治療」を担当した真鍋立夫氏。「平脈は健康脈と考えてよい」「患者にストレスを与えること、悩ますようなことはしてはいけない」と示唆した

灸頭鍼を披露する市川みつ代氏。もぐさを燃し、その熱に我慢できず患者が動くと灸が身体に落下し火傷する危険があるので、熱いと言われたらすぐに取り除ける準備をしておく。やりすぎる前に取り除くようにと実演してみせた

経絡バランス調整法「圧迫骨折による痛みと猫背改善」について腹部にアプローチする阿古幸代氏

2日目の締めくくりとなるナイトセミナーでは、「性差医療におけるレディース鍼灸 -女性の一生をケアするはりときゅう-」という名目で矢野忠氏が講演。性差医療(医学)、月経困難症、不妊症、更年期障害、産科領域への応用について取り上げた。女性にうつ病が多い理由は、感情反応性は大脳辺縁系の脆弱性と関連していると説明し、受講者は真剣に見聞していた。

人口10万人に対して、男女でほぼ2倍以上の受療率の差が認められる疾患を列挙し、男性は痛風や飲酒による精神行動異常が多く、女性は骨粗鬆症と膀胱炎が多くみられると指摘した矢野忠氏(明治国際医療大学学長)


3日目は、池田政一氏の池田ゼミと、そのほか各教室で実技指導が行われた。

最終演目として全科共通実技が実施され、学びに駆けつけた受講者の志を高めた。 未曾有の感染症による制限下において、3日間にわたり行われた夏期大学は閉講した。

経絡治療の関連書籍・DVDはこちらから

【DVD】はじめての脈診

出演・監修:岡田明三(経絡治療学会会長)

【DVD】変動経絡治療システム VAMFIT

出演:木戸 正雄

柳谷素霊に還れ 足跡、思想を通して昭和鍼灸を考察する

編:東鍼校フォーラム・プロジェクト

てい鍼テクニック 船水隆広のTST

著者 : 船水隆広

もう悩まない! やさしい鍼を打つための本

著者:中根 一
協力:船水隆広、戸田隆史

経絡治療のすすめ
著者:首藤傳明
誰にもわかる経絡治療講話
著者:本間祥白
医道の日本アーカイブス1 名人たちの経絡治療座談会
監修:岡田明三(経絡治療学会会長)
経絡治療 鍼灸臨床入門 
著者:小野文恵
図解 よくわかる経絡治療講義 
著者:大上勝行 
校閲:池田政一
漫画ハリ入門 楽しくわかる経絡治療
著者:池田政一(作)・湯沢敏仁(画)