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疲れない指圧テクニックを知りたい!岡本雅典先生にインタビューしました!

公開日:2022年7月14日

人生100年と言わる時代。医療は、病気になってから治療するのではなく、病気にならないように予防し、健康寿命を延ばすことが重要、との定義が世の中に浸透してきました。その中で、病気の予防、健康維持、自然治癒力を高める効果がある日本独自の手技療法「指圧」にも、これまで以上に注目が集まっています。

ただ、施術者としては、無理な姿勢や、知らない間に癖がついてしまった独自の体勢で指圧を行ってしまったことで、腰痛が起きたり、指を痛めてしまった方々もいるのではないでしょうか。患者さんの健康に貢献するためには、術者自身も、自らの体に負担がかからない施術を心がける必要があります。

そこで、この先も長く術者を続けていくために、

施術者の体にもやさしい指圧のポイントを知りたい

疲れない指圧テクニックを習得したい

と考える治療家の先生方の声にお応えして、2011年の刊行以来、多くの方々に活用されているロングセラー書籍『よくわかる指圧テクニック』の著者の岡本雅典先生にインタビューしました!

書籍『よくわかる指圧テクニック』の特徴

臨床において何人もの患者さんを連続して施術しても、術者の体に疲労が溜まりにくい指圧法を、実演の写真とイラストで正しいお手本と悪い例を比較し、わかりやすく丁寧に解説しています。また、写真における注目箇所に赤丸や矢印を入れて、それを重要事項の解説文とリンクさせてあるので、一目見て直感的にコツが理解出来るよう多数の工夫が施されています。

本書により、「テコの原理」を多用して垂直圧をかけることで、例えば、小柄な女性でも、体の深部に圧をしっかりと浸透させることが可能となり、また運動操作を多用することにより、押圧のみでは対処しきれない愁訴に対応できるようなテクニックを学ぶことができます。

指圧の初学者や、体に負担のかからない指圧スタイルを取り入れたい方、自院のスタッフへの指圧指導法にお悩みの経営者に至るまで幅広く役立つテキストとなっています。

岡本雅典先生のご紹介

1969年東京都生まれ。1993年日本大学法学部政治経済学科卒業。1996年東京医療専門学校本科卒業、あん摩マッサージ指圧師、はり師きゅう師免許取得。1998年東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成課程を修了、本科教員資格取得。
1998年4月~2014年3月、東京医療専門学校講師(指圧実技担当)を務め、2004年9月から現在のThe立川鍼灸院治療室ホスピタ―レ(東京都立川市)を院長として開業。国内及びフランスでの特別講師としての活動に力を入れながら治療室での臨床に携わる。

Shiatsu France 2022 年6月号の

表紙を飾る 岡本雅典先生

Shiatsu France インタビュー

岡本雅典先生にインタビューしました!

書籍『よくわかる指圧テクニック』で解説されている、「疲れない指圧を行うための5ヶ条」を踏まえて指圧テクニックを習得することによって、術者の体への負担が減ることがよく理解できました。さらに具体的に教えてください!

――まずお伺いしたいのですが、岡本先生ご自身が、指圧の施術をする際に一番心がけていること、気をつけていることはどのようなことでしょうか。

岡本 プロの指圧師として一生生活していけるように、何人もの患者さんを連続して指圧しても、術者の体に負担のかからない基本姿勢を崩さないように施術することです。

――指圧する際、自分よりも体格のよい患者さんを施術すると、どうしても母指への負担や痛みを感じることがあります。これも施術方法に問題があるのでしょうか?
母指に限っては痛くなることが必然なのか、または手の形がしっかりできたら痛くならない、ひたすら鍛えるに限るなど、岡本先生のお考えを教えていただけますでしょうか。

岡本 そもそも強圧を入れることが出来ないから、強圧を入れようとして押手の母指に負担がかかっているので、まずは強圧を入れることが出来ない理由を考える必要があります。多く見られる理由は以下の3点に集約されます。

①押手の基本型が身についていない。
②立ち位置が患部に近過ぎる。
③体重移動の量が多過ぎる。

①をもう少し詳しく解説します。
指圧における押手の基本形を作るには、母指のMP関節をしっかりと屈曲させ、四指のMP関節も母指ほどでは有りませんがやや屈曲させることが重要です。

そうすることによって、MP関節の側腹靱帯がMP関節を構造的に安定させるため、強圧にも耐え得る押手となります。逆に、MP関節を伸展させると側腹靱帯が緩むため、圧をかけた際、MP関節に側方動揺性が生じて圧がひん抜けます。

MP関節の側方動揺性が生じている状態で、強圧をかけ続ける習慣がついてしまうと、関節軟骨などへのダメージから炎症が起きて指を痛めてしまいます。

②をもう少し詳しく解説します。
立ち位置が患部に近過ぎると、体重移動し切った時点での患部に対する相対的な体重移動の量が多すぎて、垂直圧でなくなってしまうことから、圧がひん抜けてしまいます。

特に多いパターンは、うつ伏せになった患者さんの脊柱起立筋を押圧する際、患者さんが腰に対して強圧を求めるケースは多いのですが、肋骨の有る胸椎の高さを押すのと同じ立ち位置のまま腰に強圧をかけようとして体重移動し切ってしまうと、圧方向が垂直でなくなってしまうため、効率的に体重を圧に変換することが出来ません。

この場合、立ち位置をしっかりと後方に下げたうえで、垂直圧になるように体重移動すると、効率良く体重を圧に変換することが出来ます。

③をもう少し詳しく解説します。
これは、たくさん体重移動すれば強圧をかけることが出来ると思い込んでいる人に多い事例なのですが、「垂直圧となるよう体重移動の量を制限」することも大切です。

そうすることによって、体重移動し過ぎることから生じる母指のIP関節への不要な負荷を避けることも出来ます。それでも圧が足りない際は、「テコの原理」や「地面反力」などを併用すると良いですね。

――圧の加減について伺います。書籍の中に「患者にとって適量刺激となるよう心がける」とありましたが、実際の施術ではなかなか難しく感じています。岡本先生はどのように加減を判断されていますか?
「もみ返し」をどのように捉えていらっしゃいますか?

岡本 圧をかけた際に、患者さんの体が術者の母指を跳ねっ返してくる瞬間があります。つまり漸増圧をかけた際に患者さんの体が術者の母指を跳ねっ返してくる瞬間を感じ取ったら、そこで持続圧をキープし、漸減圧に移ります。

これが多くの患者さんにとって、「痛気持ち良い」といった圧加減になるのではないでしょうか。

ただ華奢な体形の女性にはこの加減で揉み返しがくることもあります。また老人の場合、筋肉が衰えて術者の母指を跳ね返すだけの力が無くなっている場合が多いので、もっと弱い加減にしてあげる必要があります。

――書籍『よくわかる指圧テクニック』では、全て床での指圧法を取り上げていますが、指圧の基本を習得するには、なぜ床での練習が望ましいのでしょうか。その理由を教えていただけますか?

岡本 術者にはそれぞれ身長の違いが有り、患者さんにも身長の違いや体格の違い(身長・胸郭の厚さなど)が有ります。

例えば学校の授業で、同じ規格のベッドで、背の高い生徒と背の低い生徒が、同じ高さのベッドを用いて練習した場合、背の低い生徒が胸郭の厚い患者さんに押圧する際、充分な量の体重移動が出来ず、圧をしっかりと浸透させることが難しくなります。

電動ベッドを用いて、ベッドの高さを変えれば良いという意見も出るかも知れませんが、すべての学校や職場でそのような恵まれた設備が常に整っているでしょうか?

また、ベッドの天板の上に乗って施術をすれば良いという意見も出るでしょうが、日本製のベッドは通常60cmや75cm幅の物が一般的で、肥満体の患者さんを施術する場合、術者が天板の上に乗るスペースがほとんどありません。

そういう意味でも、床での施術のほうがどのような体格の患者さんにでも施術スペース的に余裕があり、また身長の低い術者でも、しっかりとした体重移動が出来るので、圧を入れやすくすることが出来ます。

また強圧を入れることが出来るようになれば、規格の異なるベッドでもその強圧を入れた際の体感を再現するためにはどういう工夫をすればよいかを、自分で編み出すことが出来ます。反対に初学者がベッドで基本を学んでも、規格が異なるベッドに変わった場合、どのように工夫をしたら良いのかわからなくなります。

大事なことは、床での指圧の練習で、圧をしっかり浸透させた時に得る感覚を、先ずは術者が体で覚えることであり、その感覚を再現すべく、規格の異なるベッドに応じた工夫を施すことなのです。

もう一つ床で指圧を行うことの利点は、「地面反力」を併用しやすくなるということです。

指圧における地面反力は、主につま先で床を蹴ることによって得られる反発力を利用したものになりますが、この地面反力は、重心が低ければ低いほど大きなパワーを得ることが出来る特徴があるので、術者の重心を低く保てる床の上での施術に適しています。ベッドの脇に立って、重心を高くした状態でつま先を立てて地面反力を得ようとしても、大したパワーを得ることは出来ません。

――実際に勤務する治療院では、ベッドでの施術になることが多いのですが、
ベッドでの施術にこのテクニックを活用する際の、ポイントや注意点がありましたらぜひ教えてください。

岡本
【ポイント】術者が圧を入れやすくするためには、術者の身長・ベッドの高さ・患者さんの身長や体格などの相関関係によって、片膝や片足をベッドの天板の上に乗せたり、手首の動きによるテコの原理などを併用する必要が出てきます。


【注意点】背の低い術者の場合、踏み台が必要になる場合があります。

ベッドの天板の上に乗って指圧をする場合、特に暖房の効いた冬季には、術者が睡魔に襲われ、ベッドから転落しそうになることが想定できます。またその際、患者さんの体に接触して患者さんにケガをさせてしまうことも起こり得ます。なお、特に木製ベッドの場合、重量オーバーによるベッドの脚の破損が生じないよう、ベッドの仕様も必ず確認しましょう。

また、電動ベッドの天板の上に乗って施術する場合は、天板を一番下まで下げないと昇降機構にガタが生じて故障することがあります。ベッドの昇降機構に患者さんが指を挟んで大けがをするという事故例が過去に有ったようですので、昇降の際には患者さんの手が天板の上に在るかをまず確認することが必須となります。

正しい「型」を実践するための3要素 ①立ち位置 ②姿勢 ③体重移動の方向と量

――海外で活躍したいと考えている治療家も多くいますが、なかなか難しいのが現状です。岡本先生はフランスの研修会でも講師をされていらっしゃいますが、フランスで実技指導をされることになったきっかけを教えていただけますでしょうか。

岡本 以前奉職していた呉竹学園東京医療専門学校では「指圧実技」の授業を通年で担当しており、その関係も有って、学園内で行われていた「日仏指圧交流研修会」の講師を務めておりました。そんなご縁から、個人的にフランスへ招へいされることになったのですが、著書がフランス語版に翻訳されてからは、毎年1~2回渡仏して講師を務めるようになりました。

フランスの指圧師たちも、基本の習得にとても熱心です。

――フランスの指圧事情やフランスの指圧師についてて教えてください。フランスの術者も、疲れに困っていますか?

岡本 以前は肩こりを感じる欧米人はいないとされていましたが、近年は長時間のパソコン使用によって「背中が痛い」と言って肩こりを訴える欧米人が増えてきているようです。

しかし、フランスでは理学療法士に開業権が有り、運動器疾患などの症状に対し多くの国民はそちらにかかるといった事情も有って、指圧治療院での収入だけで生活していけるフランス人指圧師は少ないようで、他にも仕事を持ったり、またはクイックマッサージ用のマッサージチェアを企業内に持参して、企業の福利厚生の一環としてのクイックマッサージを行って生計を立てている方が増えていると聞いています。

フランスでは日本であまり広まっていない指圧の流派が意外に多く広まっています。どちらかというと日本ではあまり見かけなくなった流派が、フランスでは意外に元気だったりします。

また古い物、西洋には存在しない思想への憧れもあって、「五行」や「補瀉」に興味を持っている方が多いです。そういったことから増永静人の経絡指圧を学んでいる人が割と多いといった感想を持っています。日本でいうと「京都の人が神戸の文化に憧れ、神戸の人が京都の文化に憧れ」といった感じなのでしょうね。

また指圧に「ヨガ」や「気功」をプラスする方や、中にはレイキヒーリング、更には密教における法力を指圧に組み合わせたがっている人も増えてきていますね。これは「指圧」の名付親である玉井天碧の著書「指壓法」の中の「霊手指圧法」という記述が法力への憧れを抱かせているようです。

以前、日本の指圧史を編纂しているフランス人指圧師から「(玉井天碧のように)法力を身につけるにはどうしたら良いですか?」と質問され、答えに困ったことがあります。その時は「もし玉井天碧に病を治すだけの法力が有ったのなら、空海や日蓮と同様もっと一般の日本人に広く知れ渡ったのではないでしょうか?しかし、彼のことを知っているのは一部の指圧師のみです。」とお答えいたしました。最近は指圧にスピリチャルなものを組み合わせる風調を心配する方も増えてきて、僕はそういう方から研修会講師の依頼を受けることが多いですね。

フランス人指圧師も、指圧によって指が痛くなったり、腰が痛くなったりする人は数多くいらっしゃるので、僕の指圧研修会はそういう方にもとても喜んでもらっております。

――後書きの中にあるチャイコフスキーのピアノ協奏曲の楽譜購入のエピソードに、岡本先生の真摯で職人気質なお人柄が集約されているように感じました。施術者が疲れない、腰を痛めない指圧を習得するために、また、なかなかこれまでの手慣れを変えることができない治療家に向けてアドバイスがありましたらいただけますでしょうか。指圧のテクニック習得には、やはり「練習」あるのみでしょうか。習得に必要なことをズバリ教えてください!

岡本 ただやみくもに練習を繰り返しても上手にはなれません。まずは本物に触れることです。そのためには学校教育が本物の技術を提供し基本を徹底的に指導する必要があります。その上で繰り返し繰り返し磨きこんでいくことが重要と考えています。しかし限られた授業のなかでは、甘手や辛手の学生に押手の基本形を矯正しきれていない実態もあります。

すでに臨床の場でご活躍されていらっしゃる方々が、私の研修会に参加したことで「指圧している最中、腰痛が起こらなくなった」と喜んでくださることが多くあります。

今のご自身の指圧スタイルを、体に負担のかからないやり方に改造したければ、ぜひ『よくわかる指圧テクニック』に載っている基本技術を「床」の上で練習して習得してください。床での基本をマスターした上で、使用しているベッドに適した技術にアレンジして頂ければ体への負担がグッと減ることでしょう。

基本が身に付かないうちに、自分のオリジナルの技術を混ぜてしまうと、それは「嫌味」になります。基本をしっかりと体に浸み込ませてから、オリジナルの技術を混ぜるとそれはご自身の「持ち味」となり、その持ち味に惚れた患者さんは長きに渡ってあなたの指圧のファンと成り続けて下さることでしょう。

大勢の研修参加者に囲まれる岡本雅典先生

――お忙しい中、貴重なお時間を頂戴しましてありがとうございました。
ご丁寧に詳しくお答えいただき、大変勉強になりました。なかなか知ることができないフランスの指圧事情もとても参考になりました。

いかがでしたでしょうか。術者の体に疲労が溜まりにくく、腰痛を起こしにくい指圧スタイルを取り入れることで、この先も長く、ひとりでも多くの患者さんの治療を行うことができるようにと、岡本雅典先生が施術者のために、細部まで工夫してわかりやすく作りこんだ書籍『よくわかる指圧テクニック』。ぜひご活用いただきたい1冊です!

『よくわかる指圧テクニック』 著 岡本雅典

2022年5月に初版第5刷を出版。鉛筆で記入しやすい用紙を使用していることもこの書籍のこだわりの一つです。気づいたことはすぐにメモできますので、手元に置いて活用し続けていただきたい1冊です。

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