「訪問マッサージ」の仕組みと現場のリアル——療養費制度の基礎知識から、地域包括ケアでの役割まで

「足腰が弱って通院が難しいが、リハビリは続けたい」「介護保険の枠がいっぱいで、これ以上のサービスは受けられない」…そんな悩みを解決する選択肢が、医療保険を適用して自宅で受けられる「訪問マッサージ」です。
しかし、その仕組みや効果、医師との連携の在り方など、正確に理解している方は多くありません。
本記事の前半では「訪問マッサージ」の定義や制度について詳しく解説します。後半では、全国で訪問鍼灸マッサージを展開する「株式会社フレアス」の有賀氏に、訪問マッサージの「真の活用法」と今後の展望について伺いました。
【公的知識】訪問マッサージ(在宅マッサージ)の制度と仕組み
訪問マッサージの定義
訪問マッサージとは、あん摩マッサージ指圧師が患者の自宅や介護施設などへ訪問して行う、医療上必要とされる療法のことです。健康保険法等に基づく「療養費」の仕組みによって運用されています。
病院で行われる「医療」とは異なり、患者が代金を支払い、後日保険者から払い戻しを受ける「現金給付」が原則ですが、現在は多くの事業所で「受領委任制度」が導入され、窓口負担のみでの利用が可能となっています。
介護保険リハビリテーションとの違い
最大の相違点は、訪問リハビリが「介護保険」であるのに対し、訪問マッサージは「医療保険」が適用される点です。これにより、介護保険の支給限度額(ケアプランの枠)を気にすることなく、医師の同意に基づき併用することが可能です。
支給対象となる症状と疾患
訪問マッサージの支給対象は、単なる肩こりや疲労回復ではありません。厚生労働省の通知により、以下の要件を満たす必要があります。
支給対象となる「症状」
対象は「疾患名」ではなく、以下の「症状」がある場合と定められています。
- 筋麻痺(きんまひ): 脳血管疾患の後遺症などによる麻痺
- 関節拘縮(かんせつこうしゅく): 寝たきりや廃用症候群に伴う関節の可動域制限
主な適応疾患の例
実務上、上記の症状を伴う疾患として以下のようなケースが多く見られます。
- 脳血管疾患後遺症(脳梗塞、脳出血など)
- 神経難病(パーキンソン病、脊髄小脳変性症、ALSなど)
- 整形外科的疾患(変形性膝関節症、脊柱管狭窄症、高度の骨粗鬆症など)
- 廃用症候群(長期臥床による筋力低下、関節の固まり)
【引用・参考】
第35回社会保障審議会医療保険部会 あはき療養費検討専門委員会 資料
医療保険適用のための「3つの必須条件」
訪問マッサージを医療保険で実施するためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。
1.歩行困難であること(往療及び訪問の必要性)
「真に安静を要する状態」または「歩行困難」であり、通院して施術を受けることが困難な場合に限り、「往療料(おうりょうりょう)」及び「訪問施術料」が認められます。公共交通機関を利用して一人で外出できる場合は対象外です。
2.医師の同意書があること
施術を開始する前に、主治医から「マッサージの同意書」を発行してもらう必要があります。
- 初回の同意: 医師の診断に基づき発行。
- 再同意(継続): 6ヶ月(変形徒手矯正術は1ヶ月)ごとに医師の再同意が必要です。
3.国家資格者による施術であること
「あん摩マッサージ指圧師」の国家資格保持者が施術を行うことが絶対条件です。無資格者によるリラクゼーションは保険適用の対象外です。
訪問マッサージの手続きフロー
利用開始までの一般的な流れは以下の通りです。
- アセスメント: 患者の状態(ADL、歩行可否)を確認。
- 同意書の依頼: かかりつけ医に同意書の作成を依頼。
- 施術開始: 医師の同意に基づき、施術実施計画を作成し訪問開始。
- 報告と連携: 定期的に「施術報告書」を医師やケアマネジャーに提出し、状態を共有。
近年の制度改正と「受領委任制度」の導入
2019年より、行政による適切な管理と患者の利便性向上を目的として「受領委任制度」が本格導入されました。不正請求を防止するため、施術者と保健所(厚生局)が直接契約を結ぶ形になり、審査が厳格化されています。
また、受領委任に対応している事業所であれば、患者は病院と同様に1〜3割の自己負担分を支払うだけでサービスを受けられます。
地域包括ケアにおける役割と期待
現在の訪問マッサージは、単に「揉んで痛みを和らげる」だけの存在ではありません。
- ADL(日常生活動作)の維持・向上: 関節拘縮を予防し、離床を促す。
- 多職種連携: 訪問看護師や理学療法士(PT)と情報を共有し、チーム医療の一角を担う。
- 精神的ケア: 定期的な訪問による「ふれあい」が、孤立しがちな在宅療養者のQOL(生活の質)向上に寄与する。
2024年以降、介護現場では「科学的介護(LIFE)」の導入など、アウトカム(成果)を重視する傾向が強まっています。訪問マッサージにおいても、適切なアセスメントに基づいた目標設定と、その効果を客観的に示す「質の高い施術」がこれまで以上に求められています。
【引用・参考】
厚生労働省:あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師の施術に係る療養費に関する受領委任について
【現場インタビュー】訪問マッサージの最前線で求められる専門性と視点
では、実際の現場ではどのようにこの制度が運用され、訪問マッサージのお仕事にはどのような苦労や喜びがあるのでしょうか。現場の最前線を知る、株式会社フレアス・有賀氏に詳しく伺いました。
プロフィールのご紹介
有賀 広 氏
株式会社フレアス
運営企画部 教育研修課 次長/鍼灸マッサージ師
入社以来、研修制度の確立を担い、直近ではターミナルケア・緩和ケア施設での施術に従事。
<資格>
はり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師

国家資格者が提供する「医療」としてのマッサージと鍼灸
――フレアス様で実際に施術される方は、どんな資格をお持ちの方ですか。その資格を持っているからこその「強み」を教えてください。
はり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師です。あん摩マッサージ指圧師のみ、鍼灸のみの方だけではなく、3療持っている方もいらっしゃいます。
鍼灸マッサージ師は、自費でのリラクゼーション領域等様々なサービス提供に関わっておりますが、医療保険は「国家資格である私たちしか扱えない」という点が強みになるでしょうか。
――フレアス様は「在宅鍼灸マッサージ」として鍼灸も大切にされていますが、マッサージ単体の場合と比較して、どのような相乗効果やメリットがあるのでしょうか。
医療保険におけるはりきゅうの対象は、神経痛、腰痛症等の慢性的な疼痛疾患になります。多くのご利用者様にとって、ADL(日常生活動作)低下の主因となっているのは、この痛みです。マッサージで全身を整えつつ、鍼灸で局所の痛みをピンポイントにケアする。この2つをセットで行うことで、マッサージだけの場合よりも高い改善効果が期待できます。
フレアスの徹底した教育体制と安全管理
――他の治療院と差別化するために、工夫していることを教えてください。
創業以来、施術者向けのガイドラインを整備し、標準的な施術を全員ができるように努めています。
当初はガイドラインを紙の印刷物で配布していましたが、現在は全員がスマートフォンでアクセスできるよう、電子化・動画化を行いました。単なる知識の共有に留まらず、全国どこでも高い水準のサービスを提供することを目的として、施術者さんに日々の研修やの教育に幅広く活用しています。
――ご自宅に訪問する際、マナーや身だしなみで「これだけはNG」というルールはありますか。
一番は清潔感でしょうか。体臭、口臭、たばこ臭、柔軟剤等のスメルハラスメントは無自覚だったり、人によって好き嫌いがあったりしますので、特に注意が必要です。
――衛生管理や安全面において、フレアス様が独自に徹底されているルールや、利用者様への説明で心がけていることを教えてください。
医療事故防止のため、「ヒヤリハット収集」を仕組み化しています。収集したデータは毎月公表し、注意喚起・スキルアップに努めています。
かつて、利用者様からの歩行能力の維持・向上に対するご要望が高まり、それに応えようとする中で、歩行介助や見守り時のヒヤリハットや転倒事故が重なってしまった時期がありました。私たちはこれを真摯に受け止め、原因を歩行についての知識と技術不足にあると分析。現場スタッフのスキルアップにつながるよう、専門の動画制作等、新たな教材開発やセミナー、勉強会を集中的に開催するプログラムを実施しました。
利用者様へのご説明で特に注意が必要なのは、「専門用語を避け分かりやすく説明する」という点です。私たちは医療職なのでどうしても専門的な説明をしがちですが、利用者様の目線に立っているかを常に考えなければなりません。フレアスでは会社理念等の根本に“利他”の精神を置いているので、具体的な接遇技術の前に“利他”の精神を身をもって理解できているかが重要と考えています。
チーム医療介護で支える「QOL(生活の質)」の向上
――現場で患者様やご家族から、一番喜ばれるのはどのような瞬間でしょうか。印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
悪性リンパ腫で余命短い施設入居の90代女性の話です。
入院中から点滴のみで絶食中。ご本人様が餡子ものがお好きで、ご家族もなんとか食べさせてあげたいという気持ちがありました。しかし、最初の担当者会議時に、施設側やケアマネジャー側に情報が伝わっておらず、私の方で情報提供し、訪問歯科の導入につなげたというエピソードがあります。
嚥下検査後、段階的に食形態が向上し、施術も座位保持訓練や頚部の筋力増強訓練、口腔体操等を行い、結果的におはぎを食べることができました。それから間もなくお亡くなりになりましたが、ご家族からは感謝の言葉をいただききました。チーム医療介護の一員としての介入や連携を大事にしなければと思ったエピソードです。
――ケアマネジャーさんとの関わりで、心がけていることはありますか。
フレアスの最初の社名は「ふれあい在宅マッサージ」で、会社理念の冒頭に「人と人とのふれあいを大切に」という文言があります。
ケアマネジャー様に限らず「人と人とのふれあいを大切に」して接することを全社あげて心がけています。
――医師に「同意書」をお願いするのはハードルが高そうに感じますが、うまくいくコツやポイントがあれば教えてください。
ハードルが高いという意識はありません。ご利用者様の状態をよくアセスメントし、ご本人の訴えやご家族からの要望も踏まえて、どのような目的で施術を行うのか?を依頼時に端的にお伝えすることが重要だと思います。
地域包括ケアの一翼を担う、これからの訪問マッサージ
――「保険のルールが変わってきている」と聞きますが、利用者や事業者にとってデメリットはあるのでしょうか。
受領委任制度が導入後、受領委任制度に参加していただけけない保険者様がいます。ご利用者様にとっては償還払いになってしまいますので、一時的なご負担が申し訳ないと思っています。
私たち事業者にとっては、徐々に制度が整備されてきていると感じています。医療保険の趣旨を理解し、正しく運用することに努めていく必要がありますね。
――制度が整備されていくことで、利用者様が事業所を見極めるための基準や、受けられるサービスの質自体に、今後どのような変化が出てくるとお考えでしょうか。
介護保険領域ではLIFE(科学的介護情報システム)が導入され、介護の質向上のために成果やアウトカムが問われています。この傾向は私たちの在宅マッサージの領域にも広がっていくことと思います。
そうなると、「施術効果が出ているのか」が情報開示されていくことになります。きちんとアセスメントして、目標を設定しPDCAを回している事業所が選ばれていき、慰安主体や漫然と施術している事業所は淘汰されていくのではないでしょうか。
――鍼灸は痛みを取るだけでなく、リラクゼーションや精神的な安定にも効果があると言われます。ご自宅などプライベートな空間で鍼灸を行うことでの「心のケア」について教えてください。
施設に入居される方も増えており、住み慣れたご自宅で受ける方ばかりではありませんが、外出することが難しい方が、出かけることなくご自身の生活の場で施術を受けることができるのは、心身の疲労感を減らしていると思います。
施術の場にご家族が同席し、あれこれ話しながらというのも生活の場ならではの安心感につながっているかもしれませんね。
――「この仕事を選んでよかった」と心から思うのはどんな時でしょうか。
鍼灸マッサージの受療経験がある方は一握りで、多くが「初めて受けます」という方です。
7~80代のご高齢の方に「初めて受けたけど、こんな気持ちいいことがあるんだ」と言っていただけるのは嬉しいです。私たちができることを心待ちにしていただけるのは、職業人として最高の喜びだと思います。
――これから10年後、訪問マッサージという仕事はどうなっていくとお考えですか。
正直、どうなっていくかは分かりませんが、医療保険の趣旨を大切にし「社会の中でもっと必要とされる存在」にならなくてはいけないと思います。
地域包括ケアのネットワークには、ケアマネジャーを中心に、医師、看護師、薬剤師等、それぞれ専門性を持った職種、事業所が属しておりますが、私たちあはき師の専門性の浸透が不十分と感じております。
職業上“慰安”という認識を持たれることが多く残念ですが、医療保険(療養費)適用のマッサージが、筋麻痺・筋萎縮、関節拘縮等に対する医療マッサージ、はりきゅうが神経痛等の慢性的な疼痛疾患に対して施術する専門職種として当たり前に想起される存在になることが理想です。
――これから訪問マッサージの世界に挑戦しようとしている若手施術者や学生へ、メッセージをお願いします。
仕事場が利用者様のご自宅や施設になりますので、施術を提供するだけではなく、ご高齢の方や障害をお持ちの方の暮らしや人生を支えることに興味がある方に向いているお仕事かと思います。
“人と人とのふれあいを大切にし 社会貢献すると共に、社員の物心の幸せを追求する”というフレアスの会社理念の実現を目指し、医療保険適用という国家資格者としてのプライドを持って、社会的地位の向上、待遇改善をはかっていきますので、共感できる方は是非一緒に働きましょう!
――有賀さん、貴重なお話ありがとうございました。
「訪問マッサージ」の本質は、単に筋肉をほぐすことではなく、患者様がその人らしい人生を送れるよう、医療・介護のチーム一丸となって生活の質(QOL)を支えることにあります。
「利他の精神」を掲げ、専門用語を使わずに一人ひとりの心に寄り添うフレアス様の姿勢は、これからの在宅医療においてますます重要になるでしょう。この記事が、大切なご家族のケアに悩む方や、志高い施術者を目指す方にとって、一歩踏み出すきっかけとなれば幸いです。
【株式会社フレアスについて】

「人と人とのふれあいを大切にする」を理念に掲げ、全国で訪問鍼灸マッサージを展開。国家資格を持つ施術者が、ご自宅や施設を訪問し、医療保険適用の本格的な施術を提供しています。 独自の教育システムや動画マニュアルによる高い技術水準の維持、そして徹底した安全管理体制を構築。地域包括ケアの一翼を担う専門職集団として、誰もが最期まで自分らしく生きられる社会の実現を目指しています。
公式サイト:https://fureasu.jp/
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