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動物の鍼(1)ワンちゃんへの鍼【前半】

公開日:2009年12月28日

家族の一員として深い愛情を受け飼われているペットたち。だが、現在の住環境は、ペットたちにやさしいとは言い難く、運動不足や半身麻痺になってしまう犬や猫も多いという。そういった状況のなか、ペットへの鍼灸を希望する飼い主が増えている。6年前から動物への鍼灸に取り組み、鍼灸の技術を獣医さんに教える酒井茂一先生と現代医療と代替医療を組み合わせて治療をする獣医師の千田珠子先生に話を聞いて来た。

――動物の鍼をやろうと思われたきっかけは何ですか?

酒井(写真左) もともと動物は好きなのですが、6年前、子どもが車にはねられて全身複雑骨折していた猫を拾ってきたんです。獣医さんにも連れて行ったのですが、同時に鍼をした方が治りが早いかな、と思い獣医さんと相談しながらやったのが最初です。テーピングをして、鍼をしたところ回復が早まりました。それをホームページに書いたところ、とても反響がありました。獣医さんからも「鍼をやったことがないので、教えてほしい」といった問い合わせがあり、鍼の技術を獣医さんに教えることになりました。

――法律では動物に診療、治療をできるのは獣医師だけですね。

酒井 はい、獣医師の資格がない鍼灸師は動物に鍼灸治療はできませんし、やってはいけません。獣医師法3~5条で決められています。獣医さんが独学で鍼灸を勉強して治療されていることもあるようですが、最も良い方法は鍼灸師が獣医さんに鍼の技術を教え、獣医さんが治療行うようにすることではないでしょうか。

千田(写真右) 私の場合は、患者さんが鍼を希望されて酒井先生に直接連絡を取られ、患者さんから酒井先生を紹介されました。私もとても興味があったので、一緒にやらせていただくことになりました。

――獣医さんの学校では東洋医学を習うことはありませんよね。

千田 はい、習いませんでした。日本では動物の鍼灸を専門的に学ぶ場はほとんどないので、興味があっても治療に取り入れることが難しいのが現状です。代替医療を勉強する獣医師の学会があり、そこでは不定期に鍼灸のセミナーが開かれていたりしますが、あとは先生方がそれぞれ自分で勉強したり、実践で経験を積んだりして腕を磨いていると思います。アメリカや中国などで鍼灸を勉強された先生もいらっしゃるようです。

――どういうときに鍼を使うのですか?

千田 1番多いのは椎間板ヘルニア等の神経疾患や関節症などの運動器疾患です。神経や血液の流れが悪いことによる硬結をとったり、また若返り、老化防止などにも効果があります。効果は毛並みや顔つきがよくなりますから、実感できます。

――西洋医学と東洋医学を併用しながら治療されているのですね?

千田 状況により併用して治療します。やはり両方のキャパシティーがありますから。私の場合は、西洋医学的治療はかかりつけの病院で受けてもらい、そこで行えない部分を補完するという形でやっています。

酒井 最近はコーギーやミニチュアダックスフントといった小型犬が人気がありますよね、品種改良されているので、病気にあまり強くないのです。それに家の床がフローリングでつるつる滑る。それも影響しているのかもしれませんが、下半身が麻痺する子が多いんです。あとかわいいからと食べ物の与えすぎるため肥満も多いのでこれも原因しているのかもしれません。

――人間と違って、動物は思い通りに動いてくれないですよね。鍼をするのは大変ではないですか?

千田 不安とか恐怖心で動いてしまう子もいるので、そういう子はうまくなだめながらやります。ですが、たいていは意外とおとなしくやらせてくれます。鍼治療はきちんと修得してからでないと行ってはいけないのではと思っていたのですが、手技自体は思ったほど難しくありませんでした。鍼をうつ位置や加減などは知識と経験が必要だと思いますから、より効果を上げるためには臆病にならずにどんどん実践を積んだ方がよいかな、と思っています。

――刺す位置や刺入の深さとかは、どのように決めているのですか?

酒井 昔の中国の本には動物、おもに家畜ですが、脈の見かたや経絡なども書かれています。でも人間の経絡経穴とはかけ離れ過ぎていますし、信憑性にかけるかなと私は思うんです。ですから解剖学的に人間の経絡経穴と照らし合わせて考えるよりも、むしろ西洋医学的な対症療法を教えています。麻痺などの脊髄神経の障害が多いので、ブロック注射のような感覚で椎間孔のあたりを狙って刺激をしていきます。鍼通電して足がぴくぴくするのを確認するといったやり方です。また泌尿器系の疾患に対しては、硬結と触った感覚を大切にして治療するように指示しています。

鍼はあまり多いとストレスになってしまうし、どこで効いているのかわからなくなってしまうので、多くは刺しません。

――鍼はどのように刺すのですか?

千田 その子の大きさに合わせて1~2寸の3番の鍼を、直刺します。痛みは感じないようです。痛みがあるときは、その部分を触っただけでも嫌がるので、そういうときは先に別な方法で痛みを和らげてから鍼を刺すこともあります。また人間の場合と同様に痛い部分をさけて、要穴を使うこともあります。でも足先はとても敏感なので、なかなか難しいです。仰向けになってくれる子には、腹部に刺すこともあります。置鍼や通電もします。

酒井 置鍼は20分くらいしますが、その間じっとはしていてくれないので、飼い主さんに押さえてもらったりします。鍼をしてだんだんよくなってくると、動こうとしますので。
ワンちゃん専用のベッドは売ってなかったので、中国の文献を参考にして縄を編んで自分で作ってしまいました。それだとお腹と背中、右左の両方を同時に刺せるので。

――動物の皮は硬いですか?

千田 その子にもよります。高齢の子とか重症な場合は組織自体が硬くなっていることが多く、刺しずらかったりしますが、刺しているうちに柔らかくなってくることもあるんです。

(次回へつづく)

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