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書籍から見る 筋膜への徒手療法の変遷

公開日:2020年12月14日

理学療法士や鍼灸マッサージ師、柔道整復師などをはじめとする徒手療法家や、トレーナーの間で、筋膜への関心が近年高まっている。今回、医道の日本社が発行してきた筋膜関連の書籍の特徴を紹介しながら、筋膜アプローチの変遷を見ていきたい。

『ファッシャル・リリース・テクニック』(2012年)

日本での筋膜ブームの火付け役となった書籍がThomas Myers氏の『アナトミー・トレイン』(医学書院、2009年)だろう。アナトミー・トレインは、人体を走る「筋筋膜経線」を鉄道路線に見立て、姿勢や動作から全身を評価し治療する理論だ。その理論を実践的なテクニックとしてまとめたのが『ファッシャル・リリース・テクニック』(2012年)である。

本書では、7つのアナトミー・トレインの観点から、筋膜リリースの理論や構造的バランスを失った症例の姿勢や変形、それらを改善するための治療技術について具体的に解説している。

なお、本書は以下のポイントを加え、2019年に増補改訂版を出版。さらに筋筋膜へのアプローチ法を突き詰められる内容になっている。

【ポイント】
① 手技治療のプロセス写真を全面的に分かりやすい角度で再度撮影
② 全編の和訳をよりわかりやすい表現に見直し
③ 全身姿勢評価法の一つ、構造バランスの歪みやねじれを視診でとらえ、クリニカルリーズニング(臨床推論)の理解を深める「ボディリーディング」の「上級編」を各部位ごとに追加

増補改訂版 ファッシャル・リリース・テクニック
本体価格4,500円(税別)
著者:James Earls、Thomas Myers/監訳:赤坂清和

『筋筋膜リリース・マニュアル』(1999年)『トリガーポイントと筋筋膜療法マニュアル』(2002年、DVD版2006年)

では、アナトミー・トレインの理論が普及する前、筋膜はどのように捉えられていたのであろうか。『筋筋膜リリース・マニュアル』(1999年)、『トリガーポイントと筋筋膜療法マニュアル』(2002年、DVDは2006年)の2冊は、アナトミー・トレインの理論が普及する前に出版された筋膜の書籍だ。

前者は、筋筋膜リリースをストレッチングの一種として捉え、施術者1人で行う基本テクニックとともに2人、3人で行う応用テクニックを豊富な写真で紹介しているのが特徴。後者はタイトルが示すとおり、点(TP)と線または面(筋筋膜)に対する手技を、筋ごとに紹介している。

筋筋膜リリース・マニュアル
本体価格:5,000円(税別)
著者:Carol J. Mnheim/監訳:辻井洋一郎
トリガーポイントと筋筋膜療法マニュアル
本体価格4,500円(税別)
著者:Dimitrios Kostopoulos、Konstantine Rizopoulos/監訳:川喜多健司

『ビジュアルで学ぶ筋膜リリーステクニック』(Vol1・2016年、Vol2・2017年)『人の生きた筋膜の構造』(2018年)

その後、解剖学から筋膜の理解を深めるための研究が進む。『人の生きた筋膜の構造』(2018年)は、外科医が内視鏡を使用して筋膜の構造を丹念に考察した1冊だ。

そして、『ビジュアルで学ぶ筋膜リリーステクニック』(Vol1・2016年、Vol2・2017年)は、解剖学を基にして、身体の弾力性や知覚感覚を回復させ、さまざまな疾患を改善させる多彩なリリーステクニックを解説する。誌面のビジュアルも好評で、Vol1、Vol2を併せて1万部以上が発行されている。

人の生きた筋膜の構造
本体価格:9,800円(税別)
著者:Jean-Claude GUIMBERTEAU, Colin ARMSTRONG/監訳:竹井仁
ビジュアルで学ぶ筋膜リリーステクニックVol.1
本体価格4,200円(税別)
著:ティル・ルカウ/監訳:齋藤昭彦
ビジュアルで学ぶ筋膜リリーステクニックVol.2
本体価格4,500円(税別)
著:ティル・ルカウ/監訳:齋藤昭彦

『筋膜への徒手療法 機能障害の評価と治療のすべて』(2018年)

筋膜の徒手療法は、多様性に満ちている。2018年8月には『筋膜への徒手療法 機能障害の評価と治療のすべて』が発刊。本書は、筋膜研究の第一人者として知られる、ウエストミンスター大学名誉フェローのレオン・チャイトウ氏を編者として、臨床に役立つ筋膜に対するアプローチを紹介する。

構成は大きく、第1部と第2部に分かれている。第1部では筋膜が有する役割や、筋膜が原因で生じる機能障害、触診法、治療の機序などに関する知識を要約。さらに機能障害の評価法や、論文を元に筋膜へのアプローチの効果について検証している。

第2部では、国際的に認知されている研究者・臨床家たちが全15の筋膜への治療技術を解説する。臨床に役立つさまざまなテクニックに加えその適応範囲や効果のエビデンス、応用法までを解説している。

筋膜への徒手療法 機能障害の評価と治療のすべて
本体価格4,500円(税別)
編集:Leon Chaitow/監訳:齋藤昭彦

『ファシア その存在と知られざる役割』(2020年)

「筋膜(myofascia)」と似て非なるものといわれつつ、長い間、解剖学的に「不活性」「不要」とされていた体組織は、2018年の国際疾病分類・第11回改訂版(ICD-11)で「ファシア(Fascia)」という正式名称を授けられた。以降、医療者や治療家にとどまらず、幅広い層からさらに注目を集めている。

『ファシア その存在と知られざる役割』(2020年)は、ファシアがどのように医学界で見いだされ、その価値を認められてきたか、長い歴史を掘り起こしながら、現時点で明らかになっているその形態や機能について、全身の連続性というマクロの視点から、細胞レベルというミクロの視点まで横断的にまとめている。また、世界中で展開されているファシアを対象とした鍼や徒手療法についての解釈も提示している。

本書は医学・医療の電子コンテンツに特化した配信サービス「医書.jp」にて、電子版の購入が可能。索引検索や全文検索、また表示しているページへのマーキング、メモ、付箋といった機能が備わっており、効率的な学習をサポートしてくれる。

ファシア その存在と知られざる役割
本体価格4,500円(税別)
著者:David Lesondak/監訳:小林只

紹介した書籍を参考にして、幅広いテクニックを身に付け、治療に活かしてほしい。

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