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第38回経絡治療学会学術大会 関西大会 レポート

公開日:2024年4月9日

 第38回経絡治療学会学術大会関西大会が令和6年3月23、24日の2日間にわたり、京都府にある京都烏丸コンベンションホールにて開催された。今大会のテーマに「経絡治療の技術と技能~スペックの共有とテクニックの継承」を掲げ、関西支部が主体となり、技能と技術について語らう講師陣を迎えた。また、150人を超える参加者が全国各地から駆けつけた。

 初日の開会式にて、今大会実行委員長の奥村栄浩氏(経絡治療学会関西支部副支部長)と、同会頭の中根一氏(経絡治療学会関西支部長)、岡田明三氏(経絡治療学会会長)が順に壇上にて挨拶を述べた。また、今大会では業者による展示・販売ブースとして、釜屋もぐさ、青木実意商店、山正、カナケン、セイリン、医道の日本社(出展順)が軒を連ね、講演会場内に設置されたことから参加者らの目に留まっていた様子。

会頭講演「鍼灸師の技術と技能」

 最初の演題は、会頭講演「鍼灸師の技術と技能」にて中根氏が続投した。冒頭で今回のテーマにある技術と技能について、技術は言語化できるもの、技術は言語化が難しく、個に属しているものと提示。まず経絡治療をするうえで、それぞれの動機があって始めるため、その先の発展もそれぞれ異なり、はじめて学ぶ人にとっては混乱しかねないが、術者のそこまでに至った背景が分かるとやっていることが理解できると伝えた。また、伝統的な日本髪を結う技術者である結髪師が職人技を継承していくことが難しいことを引き合いに、鍼灸師の技の伝承も同じように容易ではないことを共有した。スタンフォード大学医学部のDr. Fred Lukinによる研究で、幸福だと自覚している人は、職業、年収、交友関係、家庭環境などはバラバラであったが、唯一の共通項は心拍変動が少ないというデータを基に、ストレスがなければ心拍数が安定することから、鍼灸師が行うことのひとつにこの幸せづくりがあると示唆した。さらに、学校で学ぶカリキュラムは教育であり、同じように育てようといったシステムの中で果たして技能は育っていくのだろうかと投げかけ、どうやってやるのかよりも、なぜやるのかと目的が明確であればやり方が異なっても結果に結びつくという気づきがあるとした。

技能を磨く方法について問われると、中根氏は入職当時、クラシックを聴く患者が多く、その音楽会に赴くことで、マナーや美しいものが付随的に身に着くのを感じ、そこから「少し早いかなと思うことや敷居の高いこと、興味があることにはつま先立ちでやってみると技能を育むには良い」と、自身の経験を振り返りながら語った

特別講義①「レジリエンス(回復力)を知って、臨床力を高める〜見える化作業を通して分かってきたこと~」

 特別講義①では、萩原圭祐氏(大阪大学大学院医学系研究科先進融合医学共同研究講座特任教授)による「レジリエンス(回復力)を知って、臨床力を高める〜見える化作業を通して分かってきたこと~」の講義が行われた。まずレジリエンスとは、システム、企業、個人が極度の状況変化に直面したとき、基本的な目的と健全性を維持する能力と解説し、もともと物理学の分野で使われていた用語で、心理学の分野でも注目されているという。人にはこのレジリエンスが備わっており、さまざまなストレスを跳ね返し、健康な状態を取り戻すことができる。これを高めるには、食事・運動・睡眠であり、心と体のレジリエンスを導くことができれば本当の治癒に繋がると強調した。また、多面的なアプローチからレジリエンスの見える化を図ったうえで、日本人向けに新たな評価方法であるJ-RS(Japan Resilience Scale)が開発され、この尺度は従来のレジリエンス尺度と高い相関を示したこと。さらに、うつ尺度と高い逆相関であり、レジリエンスの高い人はうつの尺度が薄いことを報告。レジリエンスが誘導されると病気や障害を抱えながらでも、医療者が予想していない結果を導くことができると結んだ。

技能を磨くために、「技能は身に着けようと思わないと、なかなか身に着かない」「自分の中で感じ取る心を育てないといけない」「その感覚を整理していく」また、「そのために心の状態を整えておく」とアドバイスした萩原氏

特別講義②「生体機能で見る経絡治療~伝統の知恵を見える化する~」

 続いて伊藤和憲氏(明治国際医療大学鍼灸学部部長教授)による特別講義②「生体機能で見る経絡治療~伝統の知恵を見える化する~」が組まれた。東洋医学に概念は科学的にどこまで説明できるのかを最初のテーマに、西洋医学と比較して治療の目的、方法、手段からその違いに触れ、東洋医学は経験の医学であるとの見解を示した。そのうえで経験の医学はデータサイエンスであるとし、アプリやウエアラブルデバイスから得られるビックデータは現代版の古典であると特徴づけた。さらに患者に応じた治療法や生活指導の提供や、食事や運動など街全体を処方するといった取り組みを明らかにした。ビックデータから未病を見える化し、個人の健康管理アプリYOMOGI+によって体調をスコア制にすることでやるべきことを明確にする。具体的に70点以上で健康、55点~69点は未病と判断され、体調に応じたケアを、54点以下は治療院によるケアが必要といった仕組みをスライドに投影した。

東洋医学による診断や治療システムは、経験から生まれた伝統的な価値観ではなく、現代医学にも解釈できる科学になりつつある。そして今まで東洋医学の専売特許だった経験の医学は、ビックデータとして現代の経験の医学となり、これからの医学の主流になりつつある。その意味で、東洋医学的な価値観に現代医学のエッセンスを加えることで未来の東洋医学をすべきであるとまとめた伊藤氏

実技供覧①「技術と技能のケーススタディ」

 今大会2日間通して、4つの実技供覧「技術と技能のケーススタディ」が予定され、関東支部の阿江邦公氏が先陣を切った。まず予診表には、治りやすさを念頭に置くために年齢を、座る仕事なのか動く仕事なのか、労働時間の長さや精神的ストレスを考慮するため職業を聞くといったようにひとつひとつのチェック項目に理由付けをしているという。治療に関しては、自身の強みの症例であるはずの腰痛の患者に対して横臥位で鍼をした際に痙攣が起こした失敗談から、得意に思って自分のやりたいことをやるのではなく、患者の心を優先させるべきであったと学んだ、と留意すべき点を呼びかけた。患者には治療計画をたてる意味で、「このくらいの期間は来てください」と指示するようにし、その期間を判断するためには子育てが忙しいなどの生活状況の悩みや心理的要因となっている事情まで得たうえで決定する。他にも、患者が鍼灸以外にマッサージ、接骨院、カイロなどに同時に通っているケースは、どれの効果があったのか分からなくなるため、いずれかひとつに絞るように勧めるとレクチャーした。また、2ケ月に1回の症状があるのであれば、その期間を延ばしていく、痛みに関しては、10段階評価で患者の主観で伝える数値を下げていくことを治療の指標にすると伝えた。問診では、脈診、証を決定し、治療した後に患者から「ここも気になります」と言われてしまうと、はじめに違った治療方針を立てることもできたことになるため、それを予防する意味でも、しっかり問診すると治療前に注意すべき点を列挙した。

実際の臨床の場を見せた阿江氏。治療後に脈を診て、足りない場合は別の経穴に鍼をするか、同じところに置鍼をする。それでも変わらない場合は、それ以上は追わずに次回にする。技能を磨くには「素直になること」一答した

実技供覧②「技術と技能のケーススタディ」

 続く実技供覧②を九州支部の馬場道啓氏が担当。学術的に忠実に行うポイントとして、虚実が最も重要であり、次に祖脈を診ること。20、30代の若い世代で腎虚の症状が進んでいる方は、腎をどれだけ補えるかが大切で、この場合は復溜を取る。太渓から上がった部位の質感やツボが力ないものに感じるが、高齢になり慢性腎不全になると、この部位が局所的にかたく盛り上がり、一見してむくみにも見える。さらに病に関連するともっとかたくなるという。鍼をして治らない場合は、取穴のずれが原因で、選穴が満点でも最後の取穴が外れると経絡治療は驚くほど効かない。したがって毎回ツボをどれだけ真剣に取るかが肝心と指南した。次に、現代におけるパソコンやスマートフォンの普及により、眼精疲労のない人はほぼいないと言えるほどの現代病となり、これには風池が効く。特に小学校低学年くらいまでの子どもには抜群に効くが、目眩がする人には誘発する恐れがあるため控えると教示した。その他、馬場氏の治療について、施術時間は約5~10分、9割は施灸する、できれば透熱灸など普段の治療のノウハウを惜しみなく伝授した。さらに名鍼師になるには10人に2人。しかし名灸師は10人に8人がなれるという馬場氏の祖父である馬場白光の言葉から、調整が必要な鍼だけではなく、灸に助けられることは臨床の場では大きな意味を持つと続けた。

脈診の初学者に向けて、脈を当てることが鍼灸師のやるべきことではない。診た脈を、鍼と灸で確実に補瀉し、脈の変化を見極める。脈を診て、鍼、灸、脈を診るの繰り返し以外に脈診の上達はない。自身の脈を診る際も、ただ診るだけではなく、一本鍼をして、脈の変化を確認すると治療に活かせる脈診になると締めくくった。また、技能の研鑽については、「どれだけ謙虚になれるか」「謙虚に接することで見え方がガラッと変わる」と馬場氏

特別講演「いけばなと陰陽五行」

 初日の最後を飾った特別講演「いけばなと陰陽五行」では、海外の公式行事でいけばなパフォーマンスを披露し、2016年にはG7伊勢志摩サミットの会場装花を担当した笹岡隆甫氏(華道未生流笹岡家元)を迎えて執り行われた。鍼灸といけばなに共通する陰陽五行を紐解くとして、まず、いけばなとは目の前にある花を美しく生ける技術を勉強するが、綺麗に見せるためには目に見えないものを見るようにする。例えば、切り花には根がないが、もともとは根があり、大地の養分や水を吸収して美しく育つこと、今はない葉っぱにも光合成をしていたことに思いを馳せるといった背景から創り出す。さらには、江戸時代の伝書には、この天地の恵みから成る花には天地創造以前まで思いを馳せよとまで書かれていることにも言及し、いけばなは哲学であると説いた。天地はまさに陰陽であり、旬のものと先の季節のものを取り入れて表現をするが、これも陰陽と読み解くことができると、陰と陽はいけばなに密接に関りがあることを解説。ここで西洋のフラワーアートとの違いについて、結婚披露宴の最高の瞬間をつくろうという意味で装飾をするため、蕾より開いている方が良く、それを敷き詰めて圧倒的な空間を演出しようという発想に対し、いけばなは時間経過を表現した移ろいを入れる。開いた花があっても良いが、そこに蕾を混ぜたり、あえて余白を持たせて引き算をしたりすることで一輪の花が朽ちていく様まで見届ける、とても日本らしいものと発表した。

いけばなの文化では直に生き物に触れる、強いては命に触れるという観点から鍼灸と近しいものがあるのではないだろうかと総括した。技能を磨くためには、「良いものをたくさん見ること」「本物を使い続けること」と伝えた笹岡氏

 一日目の演題がすべて終了した後、からすま京都ホテル内瑞雲にて、懇親会が盛大に執り行われた。

教育講演「岡部素道と井上恵理の学術における<共有>と<個性>」

 二日目に入り、教育講演「岡部素道と井上恵理の学術における<共有>と<個性>」にて篠原孝市氏(日本鍼灸研究会代表)が教鞭を執った。本講演では、経絡治療が確立される以前に実践されていた経絡的治療法(古典的治療法)の歴史を辿り、その後、経絡治療へと発展した経緯と遺された課題について、関連する登場人物や対立した構図を交えて当時をタイムトラベルするように論じられた。経絡治療が体系化される1940年以前、柳谷素霊に入門した岡部素道と井上恵理が、八木下勝之助の実例を基に経脈と補瀉についてまとめ、経絡治療の創成へとつなげていったが、岡部と井上に影響を与えた柳谷は晩年まで経絡治療に対する強い批判者であったという。篠原氏は、師弟関係とはもともとこのように批判と批判される立場であると述べ、さらに岡部と井上は自身のつくり上げた経絡治療の欠点を理解していたと語った。岡部は、六部定位脈診と切経の一致を追求したことに対して、井上は、六部定位脈診と流注の所見の順逆を追求したといった2人の間にも共有されない個性から対立があったが、お互い多様性の尊重という形で認め合っていたと解説。加えて篠原氏は、共有された部分に関しては、岡部、井上らは言葉で表現できる体系的かつ教科書的な鍼灸法を志向することや、浮沈虚実の脈診による経脈の虚実操作を基本とすることなど個性を抑えて合意したことを伝え、理論化へ助力した本間祥白及び経絡治療主義者であった竹山晋一郎との関係性も踏まえて網羅した。

座長を務めた岡田明三氏より岡田、井上の共有されなかった問題点について今後どのように解決していくべきかを問われると、「座談会ではなく検証を行い、相手の批判を受け入れる他ない。かなり厳しいが」と回答した篠原氏。大正、昭和と長年にわたり経絡治療という体系が確立されてきた成り立ちを知る貴重な講演内容となった

会長講演「経絡治療と病証」

 次に、会長講演「経絡治療と病証」と題して岡田明三氏(経絡治療学会会長)が登壇。はじめに病症と病証を題材に、部首が疒と言編の違いについてその区別は曖昧で、会話の中で言葉にして聞くには問題ないが、文字として残すにはこだわりが出てくる。疒はあくまで症状のことであり、顔色など表面に表れた特徴を重要視している。言編は文字通り証明されたもので、古典に忠実な人はこだわって使用し、中医基本用語辞典(東洋学術出版)によると、証とは証候を指し、病証とは疾病と証候の合成語である、とそれぞれ文字の違いについて触れた。そのうえで、病症治療は主治症を主治穴で治療するツボ療法・特効穴治療の標治法であり、一方で、病証治療は臓腑経絡の五行要穴の虚実補瀉治療で本治法となると概説。鍼を痛みのある局所的に打つと思っている患者が多いため、腰痛なのにどうして腰に打たないのかと疑問を抱かれることもあるが、日本の鍼灸がここまで評価されるようになった起点として、全身を診る随証療法の考えがあったおかげではないかと述べた。経絡治療を実践するコツは、身体の細い患者と体格の良い患者、色白、黒い人、体質に合わせてそれぞれのアプローチの仕方があり、ひとつの症状に対してツボを決めるのではなく、急性なのか慢性的であるのかを含めて総合的に見ていこうという考え方が鍼灸の本質と伝え、これが経絡治療であると説いた。

技術と技能について、車であればエンジン性能や馬力など持っているスペックと、それを使いこなすテクニックがあり、野球選手なら遠くに飛ばす筋力強化のための肉体改造や球を正確に捉える技術を高めることを追求することで技能として習得していくと例を挙げると、技能として使いこなせる力を上げて、それが技術と相まって高いパフォーマンスができると語った。鍼灸を教える立場から「上質な鍼灸」を伝えている岡田氏は、技術、技能とさらに経験を培うと巧みな技、つまり技巧になってくる。練習あれば上達する。満足せず高みを目指す。そのためには、学術大会に参加し、目で見て形にしていくと促した

実技供覧③「技術と技能のケーススタディ」

 午後に入ると、実技供覧③が催され、篠原新作氏(徳島部会)による小学生の子と母をモデルにした実技デモンストレーションが行われた。まず、いちょう型の小児鍼や小さな鈴を取付けたてい鍼、バネ式の集毛鍼、子どもの成長とともにだんだん使用する毫鍼など自身が実際の臨床の場で使用している現物を見せながら小児鍼の種類を紹介。どの小児鍼を使用するかは術者の手の大きさや触り方、上達の度合いに合わせて、実際に手に取って使いやすいものを選ぶよう勧めた。次に、体質について肝、脾、肺、腎に分類され、子どもに疳の虫がある場合は頭の回転が良く感受性が豊かで、白目が青みがかっている。脾の体質は口が大きいといった傾向が見られ、肺の体質は色白で皮膚がきめ細かく、呼吸器科が冷えやすいため産毛が多い。また、腎の体質は耳が小さいというようにその特有性について言及した。実技に入ると、小児鍼の指の挟み方や持ち方、集毛鍼は鍼を持たない手を添えながら変化を感じ取ると示唆し、背中は触っていくうち、冷たいと感じるところまたは緊張している箇所を補っていくことや毫鍼は撚鍼で行う、小学二年生になると脈を診る、など要所毎に指導。セイリン社パイオネックスゼロを使用する際は、はじめての子どもは怖がるので少し細工を加えるなど工夫している、と患者の目線に立って注意すべき点を挙げた。

子どもとの接し方について聞かれた篠原氏は、「子どもが来た。泣かれたらどうしようと思っていると、子どもはその空気を察して泣きます」「まずは大人がバリアを取ること」という心構えや姿勢について要点を抑えた。さらに「レストランのチェーン店でも料理の味が微妙に違う。経絡治療学の先生でも各々に味が異なるので、まずはそれぞれの鍼を見ること、そして学術大会で体験してみること」「不器用な人の方がなんでも器用にこなせてしまう人よりコツコツやるので向いている」、最後に「才能に蓋をしてしまうので、自分にはできないとは思わないこと」と聴講者に向けてメッセージを贈った。

実技供覧④「技術と技能のケーススタディ」

 実技供覧④では、村田守宏氏(東海支部)が師である首藤傳明氏の教えから脈によって証を決めて治療する、超旋刺を活用する、こころは五臓にありの3つのキーワードを念頭に実技を進行するとした。主訴が花粉症と首というモデル患者にジャクソンテスト、スパーリングテストからはじめ、「ちょっとごめんね」「大丈夫?」と患者にこまめに確認しながら徒手検査を行った。望診では、顔のつやと、次に目の光が重要と伝え、首藤流における腹診では、手で温度、かたさ、適度な弾力を感じるという。モデル患者を肝虚証と証立て、切経にて最もへこみのあった曲線一穴のみ補うとした。超旋刺は浅く刺し、番手は01番、02番を基本とするが、なるべく細い方が分かりやすいため、村田氏は1寸02番を使用すると話した。刺入し、鍼体を弾くと、バイブレーションしていき、鍼先がかたくなっていくことが分かる。早い術者では5秒で感じ取れるという。脈は小さかったのが、まるで切り餅が膨らむように弾力が出てくるという変化が見られると述べた。さらに、花粉症には小鼻の横に位置する迎香が良く効く、左右両方に約5分置鍼すると実技を披露。体調などコンディションが良くない患者は鍼の反応も良くない。その場合は、治療後、直帰と30分は休んでもらうように伝えると注意喚起した。

フロアから、「スペシャリストになるためには何をすれば良いか」という質問に、自身の師匠に鍼を打つことがひとつで、いつもより緊張し、汗もかき、エネルギーを消費する。そこでの失敗談が糧になるという。また、鍼柄をポケットなど服の中に忍ばせておき、日常的に触ったり回旋させたりすることでトレーニングになると教示した村田氏

シンポジウム「技術と技能のケーススタディ」

 2日間に渡る今大会の総まとめとして開催された最終演目のシンポジウムでは、実技を発表した阿江氏、馬場氏、篠原氏、村田氏の4人が、それぞれの異なる背景や価値観を持ちながらも経絡治療に辿り着いた理由を探り、その違いの中から共通項を見出すといった目的のもと集結した。

 阿江氏のコンセプトは変化。自分が間違ってないか、もっとより良くするためにはどうしたら良いかを日々意識しているという。また、スタッフにも気づく点があった場合は伝えてもらうようにしている。鍼灸師という立場から考え方が偏らないように、一般の感覚からずれないように心掛けていると発表。技術と技能の伝え方の要点として、各支部の講師間での技術の共通化を明確にし、技能の違いを出していくこと。技能を伝えていかなければならないので、信じる人に証拠は提示できるが、疑心を抱く人に対して完全な証明は難しい。教える側と受講する側で軋轢が生じないようお互い素直で、信頼関係を持って臨むことと主張した。

 馬場氏は、鍼灸が代々の家業であり、まだその世界に足を踏み入れる前は、治療してもらうと治るという経験から鍼灸が効くことは知っていたが、その当たり前に効くと思っていた鍼が自分でやってみると通用しなかったことのショックから祖父に指導を仰ぐようになったと述べた。経絡治療の先生がやっていることは、基本的には経絡の虚実を補瀉するという意味では同じこと、違いはキャラクターと展開。さらに、経絡治療を行ううえでは普通の感覚を持っている人が適していると阿江氏に同調した。

 村田氏は、こころを大切にしている理由を問われると、西洋医学にないものに憧れを持ったことに端を発し、上手な先生を探すという教えを忠実に実行、経絡治療で癒しのできる師を探すところからはじまったと鍼灸師に転向した過程を明かした。また、村田氏は半年に1度の周期で落ち込むことがあるが、曲線に鍼を打つだけで鼻歌を口ずさむまで変わった経験を共有。技術の伝承については伝え方に工夫がいると伝え、証立てて、本治法をしていくことを基本として、理論と技術をどうつなげいくのか、自己治療をすることで感覚を養っていくと自身の経験からの学びに焦点を当てて語った。

 篠原氏は、小児鍼が全くないところからの活動を始めて、小児鍼の代わりに家庭にあるものを代用しようと、スプーンを使うことに着目すると、灸の代わりにはアイロンでは火傷するのでドライヤーを選定し、瀉法には歯ブラシを利用するといったように特別なものを使わずに普及をしていこうと試みたという。少子化が進んでいることから、行政も子どもの健康に関することを求めていると考え、行政にアプローチしたが、賛同の意向を示すものの取り上げる段階まで達しない。小児鍼ではなかなか通らないと理解し、視点を変えて挑んだという。徳島県鍼灸師会による小児はり普及プロジェクト「親子スキンタッチ」の始動から、2日間で約1万が訪れる子育て応援事業「おぎゃっと21」への参画、行政発行の子育て応援クーポンに参入したり、子どもにも目立つように黄色に統一したユニフォームを着用したりと多くの取り組みをしてきたことを報告した。

 熱意のこもったシンポジウムが冷め止まないうちに閉会式が行われ、会旗の返還から翌年福岡で開かれる次大会会頭の馬場氏へ授与された。最後に次大会の内容について告知がなされ、今大会は幕を閉じた。

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