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中医学の仕組みがわかる基礎講義

中医基礎学をかんたんにマスターできる!「読む」講義

東洋医学、鍼灸の根本にある中医基礎学。その理論はシンプルかつシステマティックであり、そのため西洋医の理解を得やすいと語る兵頭明氏。本書は、その兵頭氏が養成施設などで実際に行っている中医基礎学の講義を紙上で再現。抽象的な概念をわかりやすく具体的に語る口語調のテキスト、豊富な図版、知識の定着を図るドリルで、中医基礎学の考え方をインストールできます。これから中医鍼灸を学びたい治療家はもちろん、国家試験の東洋医学概論分野の対策にも活用してもらえれば幸いです。
ISBN978-4-7529-1156-2
著者兵頭明(学校法人後藤学園中医学研究所所長)
仕様A5判 210頁
発行年月2018/1/31
価格2,860円(税込)

目次

第1章 - 東洋医学の人体観
第2章 - 気・血・津液・精・神
第3章 - 蔵象理論
第4章 - 六腑の生理
第5章 - 3つの病因
第6章 - 病因から病態へ
第7章 - 代表的な病証29選

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【第1章】東洋医学の人体観

■人体を構成する3つの「系」

西洋医学では身体の一つひとつの器官や細胞がおのおの独立したものとして考えますが、東洋医学では身体の器官や組織は、それぞれ異なった役割を担いながらも互いにかかわり合い、つながっているものと見なします。

それは、人間が自然を構成する存在の一つであり、自然界にある万物とかかわりを持って生きているように、人間の身体の仕組みもまた、自然のなかの一つであるという考え方を背景にしているからです。

では、その東洋医学では、人体をつくりあげるそれぞれの器官や組織をどのようにとらえているのか。まずは東洋医学から見た「人体の仕組み」について、説明していきましょう。

東洋医学では、人体には3つの「系」があると考えます。

まずは気の類です。これは生体の活力として働くもので、元気(原気)・営気(栄気)・衛気・宗気の4つに分類されます。

次に形の類。これは身体を構成しているもので、肝・心・脾・肺・腎の五臓を中心に、五主・五華・五根などで成り立っています。五主では、肝は筋、心は血脈、脾は肌肉、肺は皮毛、腎は骨を主つかさどっており、五華では肝は爪、心は面色、脾は唇、肺は毛、腎は髪を主るというように、身体のさまざまな部位が五臓に対応しています。

そして3つめが経絡の類。これは、形の類にあるような身体のさまざまな部位をつなぎ、信号の伝達路としての役割を担っている類です。経絡には、肺経、大腸経、胃経、脾経というように12の種類があり、これを十二正経といいます。この経絡の上にはツボがあり、このツボを刺激することで経絡を通じて身体のなかを治していきます。

ただし、この他にツボを持たない経絡もあります。それは奇経八脈と呼ばれ、督脈、任脈などがそれに当たります。しかし、督脈と任脈は、それぞれ独自のツボを持っているため、先ほどの12の経絡と合わせて十四正経とも呼ばれます。

さらに、東洋医学では、この経絡の流れと経筋との相関性をしっかり把握しておくことで、身体に起こるさまざまな痛みやしびれなどを治療することができます。経筋とは、十二正経の分布に基づいて、全身の筋や運動器を分類したものです。

例えば五十肩の患者さんでも、肩のなかで特にどこが痛いかがわかれば、その部位がどの経絡・経筋に関係しているかに基づいて、より的を絞った治療を行うことができます。

さて、治療に使う経絡・経穴についてです。経絡は、経脈と絡脈という2 つの流れに分類されます。どう違うか、聞いたことがありますか?

身体のなかを縦方向に流れる太い流れが経脈、そこから枝分かれしていく細い流れが絡脈です。木に例えるなら、太い幹が経脈、枝葉が絡脈。先ほどいった十二正経も奇経八脈も経脈に属しますから、経脈が基本になりますよ。

そして、その経絡上の体表部にあり、気が出入りするところが経穴、いわゆる「ツボ」です。

経絡はそれぞれ五臓に連絡しており、例えば肝に問題があった場合には、肝につながる経絡、つまり肝経を調整することになりますが、その調整は肝経上の経穴を刺激して行います。

■あらゆる部位は五臓に通ず

3つの「系」のうち、形の系に分類される、肝・心・脾・肺・腎の五臓、そして筋・血脈・肌肉・皮毛・骨の五主のかかわりについて、もう少し詳しく説明しておきます。

高齢者によく診られる疾患として、骨粗しょう症がありますね。骨粗しょう症とは、骨がもろくスカスカになり、骨折しやすくなった状態のこと。この治療に東洋医学を用いる場合、まずは骨が五臓のうちのどれと密接な関係があるかを把握することから始まります。

では、どの臓か分かりますか? 答えは腎です。五主で考えると、腎は骨を主っています。ですから、骨密度を改善する治療をしたいなら、どの経絡を使えばいいかというと、腎経ということになりますね。

このように東洋医学とは、症状が出ている組織や器官などと深く関係する五臓は何か、というふうにさかのぼり、その関係を利用して診察や調節・治療に応用していく医学ということができるでしょう。

次に、五主の一つ、肌肉についても考えてみましょう。

一般的に筋肉というと、筋の部分と肉の部分を総称したものを指しますが、なんと東洋医学では、筋は肝に、肉は脾に、と別々の臓がかかわっているのです。

例えば「最近痩せてきた」という訴えがあったならば、これは「肌肉が薄くなってきた」とすぐさま東洋医学的に変換・判断し、治療は「脾経を調節すればいい」と方針を立てられるようになってください。

五根でも同じですよ。五根とは何を分類しているのかというと、感覚器官。つまり、眼・耳・鼻・舌・口です。

「最近耳が聞こえづらくなってきた」「年齢とともに耳鳴りがするようになってきた」なんていう患者さんがいたら、どうしますか? 耳とかかわる臓は腎。ということは、治療は腎経を使います。

以上のように、まず東洋医学特有の、気の類、形の類、経絡の類の3つの系統があるという人体観を頭に入れてください。次章では、気の類をはじめとして、血、津液など身体をめぐる重要な生理物質について詳しく見ていきます。

ページサンプル

著者インタビュー

東洋医学の根本である中医基礎学について、そのシステマィックな考え方を講義形式で分かりやすく解説した『中医学の仕組みがわかる基礎講義』。 著者の兵頭明先生に、本書の特徴やその活用法について、お話をうかがいました。
著者:兵頭明(ひょうどう・あきら) 1982年、北京中医薬大学卒業。1984年、明治鍼灸柔道整復専門学校(現・明治東洋医学院専門学校)卒業。同年より学校法人後藤学園に勤務。天津中医薬大学客員教授、筑波大学理療科教員養成施設非常勤講師。(一社)老人病研究会常務理事、(一社)日本中医学会理事。
――兵頭先生はこれまで多くの学生を指導してきた立場ですが、東洋医学の基礎で挫折してしまう学生も多いそうですね。なぜでしょうか?
兵頭東洋医学概論や中医基礎学の冒頭はたいてい陰陽五行論から始まります。東洋医学を基礎づける哲学を知ることはもちろん大切なのですが、東洋「医学」を学びたいと意欲に燃える初学者がその深遠さに面食らっていきなりつまずいてしまうことも少なくないからです。

その代わり、まず気・血・津液・精といった生理物質や蔵象理論といった東洋医学の生理学的側面から入っていき、病因、病理・病態、そして病証へと進んだほうが、ずっと理解しやすいんですよね。
――本書でも、あえて陰陽五行論は避けて、生理学的側面を入口とした構成となっていますね。
兵頭本書は、筆者が鍼灸専門学校の1年生を対象に行った講義をもとに構成しています。つまり、東洋医学や中医学のことを全く知らない人でも分かりやすく、その基礎的な考え方を理解できるように工夫されています。

実はこの講義と同じようなセミナーを東京自治医科大学にて、「医師のための中医学セミナー」と題して全20回。さまざまな診療科の先生が受講してくださり、なかには手術を終えてすぐ受講しに来られた先生もいたほどに好評でした。ですので、鍼灸学校の学生はもちろんですが、広く医療従事者や医療系の学生にも手に取っていただきたいです。すべての医療職種が西洋医学の考え方を共有しているように、鍼灸師と医師、歯科医師、コ・メディカルが東洋医学というもう一つの理論的基盤を共有することによって、東洋医学をベースにした医療連携も可能になると考えます。東洋医学について全く知らない人でも理解できるという本書の性質から、東西両医学の共通理解・相互理解の一助になると考えています。
――他にどんな方に本書を読んでもらいたいですか?
兵頭すでに免許をお持ちの治療家にとっては、中医鍼灸をはじめとした伝統鍼灸を学ぶ最初の一歩となるでしょう。中医学は『黄帝内経』をはじめとした古典をベースに、時代を下るにつれてさまざまな流派(各家学説)の成立と淘汰を繰り返しています。この膨大かつ変転する体系のなかで、ゆるぎない1本の太い幹となっているのが本書で解説している中医基礎学です。これは言うなれば、内経医学から現代医学に至るエッセンス、つまり仕組みをまとめたものであり、東洋医学に携わる者がいつでも

参照できるものであり、さまざまな古典に分け入っていくための出発点になるはずです。