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【海外で働く】ダンサー、治療家、経営者と多彩な経歴を持ち、東京とアムステルダムの2拠点で活躍されている岩井隆浩先生にインタビューしました!

公開日:2025年6月18日

目次

カナダ・トロントで日本式の鍼灸やマッサージ施術が受け入れられることを実感した経験が、海外活動の基盤です

日本体育大学を卒業後、呉竹学園東京医療専門学校で鍼灸、あん摩マッサージ指圧、柔道整復の4つの国家資格を取得しました。その後、代々木に「ファミリー整骨院」を開業し、地域の患者さんを中心に施術を行いながら、特にダンサーやアスリートのケアを担当する中で臨床経験を積みました。

海外に目を向けるきっかけとなったのは、実は高校時代のサッカー部での経験です。私が通っていた高校の姉妹校がアイルランドにあり、プレミアリーグやセリエAのユースチームとの試合を通じて、海外でのチャレンジに対する思いが強くなりました。勝った試合もあれば負けた試合もあり、悔しさや達成感を味わいながら、自然と「海外でも何かできるのではないか」という気持ちが芽生えました。

大学時代にはダンス部に所属し、全国大会での優勝やプロ大会への出場など、身体表現に対する深い興味を持ちました。また、ロサンゼルスやニューヨークへのリサーチを通じて、ダンスの世界とともに「施術でも海外で挑戦したい」という思いが強まりました。サッカーとダンスで得た海外経験が、施術を通じて自分も挑戦できる場所があるのではないかという確信へと繋がり、2012年にはカナダ・トロントに渡る決意を固めました。トロントでは、日本式の鍼灸やマッサージを現地で実践し、施術が受け入れられることを実感しました。この経験が、私の海外での活動の基盤となり、その後の活動にも大きな影響を与えています。

右側が岩井先生

この業界に入ろうと思ったのは小学生の頃ですが、最初から「海外で開業したい」という明確な目標があったわけではありません。ただ、高校時代のヨーロッパ遠征や、大学時代のダンス活動を通じて訪れた海外での経験から、徐々に海外を身近に感じるようになり、「自分の技術が海外でも通用するのでは」という思いが芽生えていきました。

また、ある記事で「インバウンド対応を強化するには、まずアウトバウンドを経験し、相手の文化や価値観を理解することが本質的な学びになる」と書かれていて強く共感したのも印象に残っています。訪日外国人が今後治療院を利用するようになると感じていたからこそ、自分自身が海外に出ることで視野を広げ、日本と海外それぞれの良さを生かした施術ができると考えました。そして、今後もそこに大きな伸び代と可能性があると感じています。現在は東京とアムステルダムの2拠点で活動し、それぞれの地域に根ざした形で施術を提供しています。

アムステルダムを選んだ理由は、オランダでは英語を話す人が多く、多国籍な文化が根付いているため、「日本の施術」を受け入れる土壌が整っていると感じたからです。また、欧州には多くのダンスカンパニーが拠点を構えており、施術のリサーチや交流の場として非常に魅力的だと考えました。

ループル治療院の本拠地は麻布十番にありますが、創業者の一人が以前シドニーに住んでいたこと、私が北米のトロントに住んでいたことがきっかけで、「いつかヨーロッパにも拠点を持ちたいね」という話が出ました。その後、知人の紹介を通じてアムステルダムで開院しないかというお誘いを受け、最初はすぐに実現しませんでしたが、数年後に開業に必要な要素(院の場所、スタッフの住居、ビザサポート、会計サポート、患者さんなど)が整い、2019年に開業することができました。

アムステルダムには、ヨーロッパで4番目に大きなスキポール空港があり、市内へ車で15分と交通の便が非常に良いです。また、周辺国と比較して治安が良い点も大きな魅力でした。これらの地理的・社会的な利点から、アムステルダムを拠点に選びました。仕事の仲間や家族と慎重に話し合い、準備には時間がかかりましたが、今後のビジョンや子どもたちの教育環境を考慮し、「自分たちの可能性をもっと広げたい」という思いから、この挑戦を決断しました。

言葉の壁を乗り越えるためには、勉強が欠かせません。「勉強が必要な環境を自ら作ること」が重要です。

私が海外で活動を始めたとき、最も大事にしたことは、「相手のために私ができること」を考えて伝えることです。言葉や文化の違いがあっても、相手がどんなニーズを抱えているのかを知ることが重要です。そして、自分の持っている知識と技術がどう役立つのか真剣に説明することが大切だと感じます。

また、言葉の壁を乗り越えるためには、勉強が欠かせません。勉強が大変だと感じることもありますが、「勉強が必要な環境を自ら作ること」が重要です。現地の文化や医療について理解を深めることで、自分のできることが広がりますし、新しい情報を積極的に学ぶことが自分の成長につながります。環境を自分から作り、周りの人たちと交流しながら学び続けることが、最終的には自分の強みになります。最も大事なのは、「相手にどう貢献できるか」を常に考え、その価値を伝えることです。言葉が通じた方が良いですが、それだけでなく誠実に伝えようとする姿勢が信頼を築く助けになると信じています。

アムステルダムで治療院を立ち上げる際、最初に直面した大きな課題は語学の壁です。慣れない言語でのやり取りは難しい部分もありましたが、少しずつ改善していくことが大切だと実感します。特に行政手続きにおいては、オランダはデジタル化が進んでおり、オンラインで処理できる部分も多く便利でしたが、対面でのやり取りでは担当者によって対応が異なることもあり慎重さが必要です。

また、スタッフの住居を探す場合は非常に困難なことが多いです。ビザがまだ降りていない段階で物件の選定や契約を進めることは難易度が高く、予想以上に時間がかかります。さらに、チームで運営を始めるにあたり、全員のスケジュールや役割分担を調整するという課題もありました。

設備では、日本からの物品には関税がかかることもあり、現地で必要なものを揃えるのが一苦労でした。スケジュールもなかなか思うように進まず、困難な状況に直面することが続くものです。壁があっても動き続けることで状況は少しずつ好転していきました。

アムステルダムはインターナショナルな街なので、大きな違いはあまりないと感じています。

ですが、全員ではありませんが、「どこが痛い」「どうしてほしい」と自分の体に対する意識が高い患者さんが多いのが特徴です。施術に対する期待も大きく、わざわざヨーロッパで日本人の施術を受けに来るということは、効果や改善を強く求めていることが多いため、施術者側も「効果を出すのは当たり前」という心構えで臨む必要があります。

さらに、日本に対するイメージも影響しているのか、施術のクオリティに高い期待を抱いている患者さんも少なくありません。特に、東洋医学に対する期待は日本以上に高く、適切な施術を行うために改めてコミュニケーションの重要性を実感しています。

ダンスを通じた自分の強みがあることで、自然に紹介が増え、施術の領域を広げることができました。

ダンサーとしての経験は、治療家として非常に役立っています。ダンサー特有の動きや怪我、負荷がかかるポイントを、自分の身体で深く理解できるため、ダンサーの患者さんとの信頼関係を築くのが非常にスムーズです。また、ダンスの世界には共通の言語や人脈があるので、患者さんとのコミュニケーションも円滑に進みやすいです。日本でもそうでしたが、ダンスを通じた自分の強みがあることで、自然に紹介が増え、施術の領域を広げることができました。自分の強みを明確にし、それを掛け算して活かすことで、より有利に展開できると実感しています。

さらに、施術中に患者さんの身体を見ながら、どんな踊りをしているのかを想像することができるので、「どうすればもっと動けるか」「どこをどう使えば改善するか」といった視点でのアドバイスが可能です。これにより、再発防止やパフォーマンス向上にも大きな価値を提供できることが多いです。

治療には共通点もあれば異なる点も多くあります。また、スポーツもダンスもそれぞれ特性が異なるため、比較が難しい場合もあります。特にダンスは数値化できる要素が少なく、舞台芸術では「勝ち負け」という概念が存在しないため、評価の軸が異なります。スポーツでは、タイムや得点といった明確な数値で勝敗が決まりますが、ダンスではコンクールやショーコンテスト、ダンスバトルなどの形式はあっても、最も重要視されるのは「美しさ」や「表現力」、そして「感情の伝達力」など数値化しにくい要素が多く、技術をベースにしたダンス表現がどれだけ心に響くかが評価基準の一つとなります。

ダンスはスポーツと違って、他者からの衝突や競技中の直接的な身体的負荷がないため、個々の体調や動きに対して、より細やかにアプローチできるとも考えられます。さらに、ダンスでは振り付けの中で特定の部位に過剰な負荷がかかることがあるため、その部分への集中したケアが必要なこともあります。道具を使うことが少ないため、身体感覚に向き合う時間が長く、細部にまで気を配った治療が求められる点が特徴的です。

アナログである施術の豊かさと、デジタルの利便性や集合知を組み合わせたサービスを世の中に届けることが私の目標です。

現在は、ループル治療院で施術と、ケアクルで電子カルテを拡げる仕事をしています。アナログである施術の豊かさと、デジタルの利便性や集合知を組み合わせたサービスを世の中に届けることが私の目標です。目新しさを追いかけるのではなく「もともとある価値」を大切にしたいです。そして「日本式の施術を世界に届ける」という想いは変わりません。ひとりでは何もできず仲間の存在は不可欠です。素晴らしい先生方と活動を広げていきたいと思います。

現代は変化のスピードが非常に速く、デジタル化や技術の進歩によって便利になる一方で、人間的な部分が置き去りにされていると感じることもあります。施術を通じて、そうした傾向を肌で実感する場面も多いです。社会が便利になっても人が「健康的に人間らしく生きる」ことの価値は変わりません。施術が、生活の質を高めるきっかけとなり、多くの可能性があると日々実感しています。今後は各地の拠点で挑戦を実現できる場を展開したいという夢があります。施術・運動・食事などの要素を掛け合わせてシンプルな概念をつくっていけたらと願っています。

海外での活動は一見魅力的に見えることもありますが、実際には地道な努力と忍耐が求められる場面も多いです。
生活面でも円安の影響を受けることがあり、しっかりと準備していないと続けるのが難しくなることもあります。

また、語学力は非常に大切です。技術や人柄があっても、言葉でうまく伝えられなければ、現地での信頼関係を築くのは難しいです。だからこそ、語学力を高めることは、非常に重要だと感じています。日本での経験が直接必要なわけではありませんが、技術や実力は必須です。

実際、知られていないだけで、世界中には多くの日本人施術者が活躍しています。もし「やってみたい」という気持ちがあるなら、それを少しでも行動に移してみてください。見学してみる、話を聞いてみる、その一歩が世界を広げるきっかけになるかもしれません。世界にはあなたの施術を待っている人が必ずいます。技術や語学、社会力を少しずつ身につけながら、出会いや家族、応援してくれる人たちを大切にし、焦らず一歩ずつ進んでいってください。


プロフィール

岩井隆浩 先生

鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師の資格を取得後、ダンサー向けの鍼灸接骨院を東京・代々木に開業。その後、カナダ・トロントで治療経験を積み、帰国後、港区麻布十番にてLoople治療院を開業。2016年に株式会社ケアクルを創業し、電子カルテシステムを展開。さらに、Loopleアムステルダム院を立ち上げ、現在は東京とアムステルダムの2拠点で活動中。世界のトップダンサー、芸能関係者、アーティストの施術を担当。また、ストリートダンスのチーム「168」と「Rhythmalism」を結成し、ストリートダンス領域で活動。TOKYO DANCE DELIGHT vol.9やBIGBANG!! 2004 & 2007で優勝するなど、数々の大会で成果を上げ、JAPAN DANCE DELIGHTには5度出場。ダンスシーンでは精力的に活動しており、雑誌、CM、ゲストショー、PV、DVDなど、多岐にわたるメディアにも出演。

岩井先生のインスタグラム:
https://www.instagram.com/takarhythmalism

岩井先生のFacebook:
https://www.facebook.com/iwai.takahiro

麻布十番ループル治療院:
http://www.loople.jp

岩井先生が創業され取締役を務める株式会社ケアクル公式ページ:
https://corp.carecle.com/
電子カルテサービス「リピクル」などを展開


(岩井先生 略歴 )

【滞在国】 オランダ・アムステルダム
【所属】 ループル治療院、株式会社ケアクル
【仕事内容】 施術、トレーナー、電子カルテシステムの普及活動
【滞在年数】 2023年~

・2009年:代々木にファミリー鍼灸接骨院を開業
・2012年:カナダ・トロントにて活動開始
・2013年:麻布十番ループル治療院開業
・2014年:スタジオアーキタンツにて施術を担当
・2016年:株式会社ケアクル創業
・2019年:ループルアムステルダム院を開業
・2021年:麻布十番ループルANNEX開業
・2023年:東京とアムステルダムでの2拠点スタート
・2025年:ループルフォンデルパーク院を開業

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