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触診の大切さと触診のコツ〜第2回〜(全2回)

公開日:2025年11月20日

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触診の大切さと触診のコツ 〜第1回〜

3.触診で所見を診る

1.触診で診る所見

 さて次に、「触診」を具体的に進めるに当り、体表に表現されている何を診るかを述べたい。 

 触診で把握しようとする体表所見には、様々なものがある。代表的なものは、緊張、腫脹(むくみ)、硬結、などであるし、また他に、力なさ、陥凹(陷下)、などがある(表1)。

 古典ではどのように表現されているかを見ると、例えば、『素問』調経論篇 第六十二(文献7)には、「風雨寒暑が人を傷」つけた場合の圧痛の虚実についての記載がある。

 実のときは、「外側は堅く、充満し、揉むことは出来ない。揉むと痛む。」とあり、虚のときは、「皮膚は締まりが無く、皺ができ、衛気は不足する。これを揉むと気は充足し、温かくなる。従って、改善し、痛みもなくなる。」とあって、体表の虚実の状態が触診でどの様に異なって感じられるかが書かれていて、虚実のイメージが湧きやすい。


(表1)触診により把握できる体表所見の種類

A緊張、腫脹(むくみ)、硬結、膨隆、凝り、索状物、乾燥、熱感、ざらつき、圧痛、など
B力なさ(張りのなさ)、陥凹(陷下)、しわ、発汗、湿潤、冷え、圧痛、など
C粒状物(ぶつぶつ)、(脂肪のような)軟状物、脂肪瘤、静脈瘤、(腹部)動脈拍動、など

2.触診所見と愁訴

 さて、触診で把握したそれらの所見を患者の訴える症状(愁訴)と詳細に照らし合わせながら、どの所見が、患者の愁訴と関連があるかを推察し、判断することになる。

 関連があるかどうかは、そこに鍼灸刺激を与えた結果、目標とする患者の愁訴が変化し、改善する事で分かるわけであるから、所見と愁訴の変化が同時に起こるかどうかを慎重に見極める経験をある程度の数、積み重ねなければならない。患者の愁訴が自分の手の感覚に置き換えられるように、具体的な反応を把握しようとする努力が求められ、鍼灸刺激がその所見を変化させると同時に、患者の愁訴も改善することを経験的に納得していく必要がある。

3.触診の練習

 そのためには、繰り返し、「触診」の練習を重ねる事も必要である。それは、所見を確実に手で捉えられるようになるために、どうしても通らなければならない過程である。

 私たちは、言語を獲得する以前から、触覚を使い、その触覚を脳に記憶させて来たはずではあるが、それは、日常生活に必要な触覚であって、多くの場合、鍼灸臨床に必要な触覚とは異なる対象物を触知してきた経験である。

 そのため、一般的には、人体にある「凝りや緊張」を意識的に触知しようとする経験を積んでいる人は余り多くはないであろうし、多くの場合、人体の触診として、新たな触診感覚を身につけ直さなければならないことになる。もちろん人によっては、人体の所見に近い感覚を身につけている場合もあるかも知れないし、また、既に身についている触診感覚から、比較的短期間で所見についての新たな感覚を把握出来るようになることもあるであろう。要は、体表所見の触診感覚を身につける努力をすることである。

4.部位別触診の練習

 触診の練習を行う際は、体の部位で触診感覚が異なることを念頭に置いておきたい。

 頭部、顔面部、頚部、肩部、背部、胸部、腹部、腰部、臀部、上肢部、下肢部は、それぞれ、同じであったり、異なったりする触診所見が診られる(文献8)。

 頭・顔面部と上・下肢部は、自分で触診しやすいが、他の部は、練習相手に対して行った方が学び易いであろう。

5.触診練習に役立つこと

 さて、その訓練を重ねる際に参考の意見や判断材料として大いに役立つのは、指導者や先輩など、先達の実績のある経験を踏まえたアドバイスであり、あるいは、学術誌や雑誌、Web雑誌などに掲載された症例報告、症例集積などに見られる触診に関する記述である。例えば、既述の書籍(文献4、5、8)や『医道の日本』「創刊500号 記念特集;圧痛点による診断と治療及び指頭感覚」(文献9)、東洋はり医学会 切経班の『経絡治療 切経診 Palpation of the meridian』(文献10)、戸ヶ崎正男著『思うツボ』(文献11)などは、参考になるであろう。

4.体表所見を触診で探るポイント

 表1に、臨床でお目にかかる代表的な体表所見を示したが、それらの反応を探るには、どの様にすれば良いだろうか。

1.愁訴部位を患者から教えてもらう

 反応所見に行き着くためには、先ず、患者の愁訴を詳細に聞く事が大事である。場合によっては、患者に愁訴の部位を指で示して貰ったり、具体的に手で押してもらって、教えてもらう事も必要である。患者によっては、押圧の角度まで示してくれることもある。

2.愁訴部で診られる反応を捉える

(1)反応部位を触診する

 触診の目的は、「問診」や患者の指示部を参考にして、周辺の領域の中で、特に他の部と異なる反応がある部、あるいは、他の部に比べて特に強い反応を示す部を「手や手指」で見つけることである。そして、その反応が、表1のどれに該当しているかを判断する。

(2)体表を2~3層に分けて触診する

 反応部を「触診」する際、表層(皮膚+結合組織)と深層(筋層)の2層に大きく分けて触診するか、表層(皮膚)、中層(結合組織)、深層(筋層)の3層に分けるかすると了解しやすいであろう。

1)2層の触診の場合

 部位にもよるが、2層の場合、表層は皮膚や皮下結合組織であり、深層は筋膜や筋組織、(あるいは、内臓)などである。その場合の触診は、表層は、軽く圧を掛ける程度の触診となるが、深層は、母指や4指を使って、ある程度の圧を掛けて深部の筋などの組織を触診する事になる。

2)3層の触診の場合

 3層に分けた場合は、表層は皮膚なので、撫でるように、ほとんど圧が架かっていないような触診となる。皮下結合組織は、筋を台にしてその上にある結合組織を確認する触診となる。3層目の筋層は、さらに圧を掛けて、筋そのものの張りや緊張を触診する。

3)筋が重層する部の場合

 また、頚肩部や臀部などのように、筋が浅い部や深い部に重層的に存在する場合には、どの層の筋の反応であるかを、浅部や深部のそれぞれの深さで捉えることが必要になり、深浅方向の圧の強弱と、同じ深さでの左右、前後への指使いで、緊張や硬結や力なさなどの筋の状態を把握することが必要となる。

4)組織触診時に気を付けること

 触診の際、結合組織は皮膚越しに、筋層は、皮膚結合組織越しにしか触診しておらず、皮下にある組織を直接触れているわけではない。深部の目標を触診しようとして、浅部の状態の感覚を捨象しがちであるが、浅部の組織の存在への意識を残しておくことも忘れないで頂きたい。

5)愁訴の症状が出現しやすい姿位での触診

 特に、運動器系の愁訴の場合には、ある姿位で症状が出現しやすく、所見も明らかに触診しやすいことがある。その様な場合には、患者にその姿勢を取ってもらって、触診すると所見を把握しやすい。逆に、不自然な、あるいは無理な姿位の場合、姿勢性の緊張が生じるので、それを反応や所見と間違わないように、気を付けることが必要である。

6)愁訴の触診の際に気を付けること

 具体的な「触診」の方法について述べてきたが、「触診」の際に気を付けなければいけないことは、患者の症状を強く再現させないことである。患者はその愁訴を鍼灸治療で改善してもらいたく来院するのであるから、治療のためにある程度の症状を再現させることは仕方ないが、必要以上の不快感や痛みを与えない「触診」をすることが大事である。患者は、痛みの少ない治療を求めていると考えておいた方が良いであろう。患者は、治療者の治療技術のみでなく、「触診」技術のレベルも感じているものである。

5.触診所見と鍼灸刺激・治療

1.体表所見の虚実に対応する鍼灸刺激

 表1の様に幾種類もある触診所見であるが、それらを治療にどのように活かすかが臨床上の問題である。
 臨床の際には、治療目的とする愁訴や症状と関係すると判断した所見を変化させる鍼灸治療を行うわけだが、それらの所見は、表2の様に虚実に分けて考えることができる。触診所見の虚実は、鍼具と灸具を使って治療手段を行う際、どの道具を選択するかに関わっている。


(表2)体表所見と虚実

区分所見
A緊張、腫脹(むくみ)、硬結、膨隆、凝り、索状物、乾燥、熱感、ざらつき、圧痛、など
B力なさ(張りのなさ)、陥凹(陷下)、しわ、発汗、湿潤、冷え、圧痛、など
C虚実が不確定な所見粒状物(ぶつぶつ)、(脂肪のような)軟状物、脂肪瘤、静脈瘤、(腹部)動脈拍動、など

2.虚実と道具の関係

 虚実と道具の対応関係のみに限定して着目すると、虚の所見は灸具、実の所見は鍼具と対応していると考えられる(表3)。それは、虚の所見は灸の温熱刺激によって、実の所見は鍼の機械的刺激によって、正常な状態に近づくことから、了解される。別の言い方をすると、正気の不足を補うのが灸具であり、邪気を取り除くのが鍼具である。


(表3)体表所見と虚実

区分所見治療
A邪気が旺盛鍼(機械的刺激)・・・瀉法(邪気を瀉す。邪気を取り除く。)
B正気が不足灸(温熱刺激)・・・補法(正気の不足を補う。正気を補充する。)

3.虚実が変化するとはどの様な現象か

 この補瀉の方法により、触診上、体表所見に何が起こっているのだろうか。

(1)虚実と鍼灸刺激

1)鍼刺激による所見の変化

 鍼をすると緊張や凝りの硬さや大きさが変化・改善する現象が起こるため、変化を実感している治療家は、多数いるであろう。また、鍼刺激の前後で所見が変化する事が触診上分かりやすいので、教育現場においても、鍼で実が変化する実技指導は体験型の実技授業で行われていると思われる。

 さらに、「表2のAの実の所見」を触診でしっかり確認して、鍼刺激をすれば、所見が変化する事が、直後に起こる現象として捉えられので、硬結の硬度を硬度計などで測定しながら、刺鍼による変化を観る検討も行われ、その現象は実験的に確認されている(文献12)。

2)灸刺激による所見の変化

 灸については、鍼の様な実体験を指導されることは、余り行われていないかも知れない。上記した鍼の実験研究のような体表所見の変化の研究報告は確認できていない。しかし、灸は、体表が陥凹(陥下)したり、弾力の無い状態を示している「虚」に行うことで、虚の状態である陥凹を浅くし、弾力が戻ってくる変化を起こす。

 体表の陥凹に灸をすることにより生じる変化・改善は、陥凹(陥下)が埋まってきたり、あるいは、弾力の無い(シワのある)皮膚に張りが出てくることなどの現象として、触診することができる。 

4.虚実を補瀉する技術

 虚実と鍼灸用具の関係の説明をしたが、体表の状態と道具の関係に左右されずに所見を変化させることも、もちろんできる。それは、刺激の与え方である「補瀉」の技術を駆使することである。

 様々な補瀉の方法はこれまでも示されてきたが、その技術の違いは、鍼灸施術方法の違いに現れている。例えば、『霊枢』経脈第十(文献13)には、経脈毎の病症が述べられた後に、鍼の虚実寒熱の際の治療法(補瀉留疾)と灸法について記述されている。鍼は、「実には瀉、虚には補、熱には速抜、寒には置鍼をする」、灸は、「陥下すれば則ち之に灸す」とある。また、鍼については、『素問』調経篇六十二(文献7)や『霊枢』小鍼解篇 第三(文献14)などにも、その鍼法が見られる。

 一方、灸については、上述の『霊枢』経脈第十(文献13)や、『素問』骨空論第六十(文献15)などにも、「陥すれば則ち之に灸す」とあり、「陥」すなわち、陥凹や陥下しているところに灸をすることが基本であると考えられる。

 しかしながら、『医学入門』(李梃編著、明代、1575年初版)(文献16)には、灸は虚実寒熱に行うとあり、李梃は、虚実寒熱のすべてに灸治療を行い、灸により、何をするのかを述べている(※注1)。

(※注1)虚実寒熱に灸をするとどの様になるかを以下のように記載している。
「虚には、灸は、火気をもって、元気を助ける。実には、灸は、火気に随いて、実邪を発散する。寒には、灸は、その気によって、温める。熱には、灸は、鬱熱の気を引いて、外に発散する。」

5.体表所見を把握する触診の重要性

 以上、述べてきたように、鍼灸治療においては、刺鍼部位を決め、鍼灸刺激を行い、効果を確認し、さらには、その後の治療の予定を立てるための全行程を通して、「触診」情報が常に重要であると言えよう。そのためには、体表の状態を適確に把握し、体表所見を鍼灸臨床に活かせる触診技術を一定のレベルで身につけることが大事である。

6.おわりに

 「触診」の重要性について述べ、また、「触診」の意義を明らかにするために、「触診」で捉える反応の種類や、それらが鍼灸刺激により変化することにも触れた。

 「触診」は、どの様な理論で鍼灸治療を行う場合でも、診察情報に欠かせない情報であり、治療を行う上でも抜きにできない方法であることを理解いただけたであろう。鍼灸臨床の中で「触診」を活かす工夫をして頂けると、治療を適確に行え、効果を実感する鍼灸治療を行うことができる、と考える。


<参考文献>

(1)Western Pacific Region, WHO Western Pacific Region Office, Manila, Philipines,2008.
(2)柳谷素霊、「手に触れる経絡」、『東亜医学』、1939年、第7号.
(3)岡田明祐、『経絡治療と鍼妙』、1997年、74頁、たにぐち書店、東京.
(4)藤本蓮風、『体表観察学 日本鍼灸の叡智』、2012年、212頁、緑書房.
(5)入江靖二、『図説 深谷灸法―臨床の真髄と新技術―』、昭和55年、6-7頁、自然社.
(6)南京中医学院編著、『黄帝内経霊枢』経脈 第十、1999年、257-258頁、東洋学術出版、千葉.
(7)南京中医学院編著、現代語訳『黄帝内経素問』中巻、調経論篇第六十二、1991年、367-397頁、東洋学術出版、千葉.
(8)形井秀一、『治療家の手の作り方』、2001年、6-15頁、六然社、東京.
(9)『医道の日本』創刊500号 記念特集;圧痛点による診断と治療及び指頭感覚、1986年、4月号、医道の日本社、横須賀. 
(10)東洋はり医学会 切経班、『経絡治療 切経診 Palpation of the meridian』、2015年、(株)谷口書店、東京.
(11)戸ヶ崎正男、『思うツボ』、2012年、ヒューマンワールド、東京.
(12)佐々木和郎、『鍼灸最前線』、丹澤章八、尾崎昭弘監修・編集、1997年、110-113頁、医道の日本社、横須賀.
(13)南京中医学院編著、『黄帝内経霊枢』上巻、経脈 第十、1999年、198-258頁、東洋学術出版社、千葉.
(14)南京中医学院編著、『黄帝内経霊枢』小鍼解篇 第三、1999年、67-79頁、東洋学術出版社、千葉.
(15)南京中医学院編著、『黄帝内経素問』中巻、骨空論篇 第六十、1991年、351-353頁、東洋学術出版社、千葉.
(16)李梃(りてい、りてん)、『医学入門』一下、「灸法」、1575年、130頁、京都大学貴重資料デジタルアーカイブ.

執筆


形井 秀一(かたい・しゅういち)


洞峰パーク鍼灸院院長
つくば国際鍼灸研究所所長

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