四診法による体質判別ー体質の見分け方と治療法―2

はじめに
脾は血を裹(つつむ)臓だと言われている。つまり脾は血を多く持っているということ。これは陰としての性質を現している。反対に太陰脾経は陽の性質や働きがある。
もし脾の陰としての働きが壊れると鉄欠乏性貧血とか、再生不良性貧血などになる。貧血になると全体の脈が沈、細、濇である。これは体質といえなくもないが、病気なので体質論では除外する。
1.脾虚体質の性格・望証・病症
通常、脾が虚すと病気になるから脾虚証というが、先に述べた血が少なくなる病気があるわけではない。太陰脾経が虚したために。つまり陽気を巡らす気が虚したために、陽明経や胃腸の病症が現れる状態を脾虚証という。
そのなかに脾虚で胃腸の実熱のことがある。これを胃実体質という。また脾虚によって胃腸に虚熱が発生する。これを脾虚陰虚熱証体質という。さらに脾虚によって胃腸が冷えて食欲がなくなる状態を脾虚陽虚寒証体質という。
以上の三種類が脾に関連する体質である。
2.脾虚胃実体質の治療
胃実体質は大食漢である。当然、太っている。飲酒癖がない人もあるが、飲める人は鯨の如く飲む。まさに鯨飲馬食。
この体質者は胃腸も肝臓も強いのだが下痢をする。1日に3度くらいは排便する。これによって胃腸の熱を出しているわけで、下痢すると気持ちがよいという。もし便秘すると苦しくて仕方がない。肩こりも強くなり、時には頭痛がする。もちろん血圧も高い。
胃実だと口が大きくて唇が分厚い。眉が黒くて大きい。顔面全体も赤っぽい。胃腸に熱があると熱がりになるから冬でも素足である。上半身は半袖のTシャツだったりする。声が大きく、よく喋る。歌うのも好きである。
ただし、胃熱が多すぎて病的になると躁鬱病を発症することがある。通常は薬を服用しているから落ち着いているが、少し躁的になると治療に来る。ただし予約していてもその時間には来ない。あるいは何の連絡もなく治療に来ないことがある。治療に来た場合は、最初に仰臥して腹部や顔面に置鍼するが、ずっと喋り続けている。
この体質者の脈は、右関上の脈が浮いていて大きいのが普通だが、案外に小さい場合がある。これだけの体格で確かに胃実体質のはずだと思って趺陽の脈(足背動脈)を診ると、これが人差し指ほどの大きさで拍動している。それで納得する。
体格はさほどでもないし、右関上の脈も大きくないのに、食欲はあるし、胃腸は丈夫だという人がいる。このような人も趺陽の脈は大きい。
治療は先ず腹部の不容、中脘、天枢などに置鍼する。用いる鍼はステンレスの10番。これを鍼が垂直に立つほど深く入れる。
顔面は攅竹、陽白、四白などに置鍼するが、これはステンレスの3~5番鍼でよい。
手足は合谷、足三里を必ず用いる。やはり少し太い鍼で深く刺す。もちろん置鍼してよい。時間は顔面、腹部、手足とも20分くらいとする。
3.脾虚陰虚熱証体質者の治療
脾虚陰虚熱証体質は、体調のよいときは胃実体質のような特徴を現すことがある。要するに食べ過ぎて下痢するのである。ところが胃実体質との違いは、食べ過ぎると腹が張って苦しく、排便する前に腹痛がある。あるいは慢性的に便秘する。
胃実体質は手足に力があり暑がりだが、陰虚熱証体質者は手足が煩熱はするが疲れやすい。直ぐに座りたがる。
性格でいうと胃実体質者は朗らかである。悪くすると法螺吹き、つまり大言壮語する。しかし、脾虚陰虚体質者は体調のよいときは明朗活発だが、胃腸の状態が悪くなると考え込みやすくなる。あるいは記憶力が低下する。悪くなると鬱病を発症することすらある。
陰虚熱証体質者は、太陰脾経の発散の気が少しくらい虚しても、胃腸には虚熱が多いから口渇があり、それなりに食欲があるのだが、調子に乗って食べ過ぎたり飲み過ぎたりすると、胃腸の虚熱が少なくなって、逆に胃腸が冷える。この状態は次に述べる脾虚陽虚寒証体質に近づいているのである。
脾虚陰虚熱証はさほど太ってはいない。中肉中背という人が多い。ただし、気を使いすぎて胃潰瘍になることもある。そのような人は少し痩せている。体調がよいときは口唇が赤いが、体調が悪いときは口唇が白くなる。
脾は肌肉と関係する。胃実体質者は肌肉が多いが、脾虚陰虚体質者は肌肉が少なくはないが力は少ない。
性格は沈着冷静で、沈思黙考型ではあるが、胃腸の調子のよいときは明るくなり、胃腸の調子が悪いときは沈み込みやすくなる。
これを治療するときは脾兪、胃兪の透熱灸がよい。調子が悪いときに各10壮ほど灸をすると、1年もすれば元気になる。
太陰脾経の陽気が少ない人は、常に胃腸が冷えて不調を訴える。もちろん痩せて、皮膚全体が黄色っぽい人がいる。少食で冷たい物を食べると確実に胃が悪くなる。もちろん下痢しやすい。ただし、時に冷えすぎて便秘している人もいる。
4.脾虚陽虚寒証体質者の治療
顔色に生気がなく、口唇の色も白っぽい。このような人を脾虚陽虚寒証体質という。
脾は意智を蔵すという。したがって、太陰脾経の働きが悪いと意志力が弱い。俺が俺がと前に出て行く性格は脾虚胃実体質だが、脾虚陽虚寒証体質は、それとは逆なのである。もちろん意欲も少なく、体力も無いから、静かに農業でもやるほうが体質には合っている。要するに晴耕雨読を実践すればよい。
種子を蒔いて苗を育て、少し大きくなれば畑に植え替えて水をやり、少し肥料をやっておれば、大根も人参も、キュウリもトマトもできる。物を育てる喜びが胃腸の状態をよくする。
何を馬鹿な、という人がいるかも知れないが、筆者は農家の生まれである。父親の農作業をよく手伝った。その実感から、このようなことを言うのである。
雨の日には脾兪、胃兪、三焦兪、腎兪に透熱灸各10壮。これを1年も続ければ確実に元気になる。ところが最近は灸を嫌う人が多い。ただ私の住んでいる瀬戸内海側は透熱灸の好きな人が多いので幸いしている。
執筆

池田 政一
池田小泉治療院 院長
1945年、愛媛県生まれ。1968年、明治鍼灸専門学校卒業。鍼灸は池田太喜男師に、漢方薬は荒木性次師に師事。鍼灸と漢方薬の理論と臨床の一致をライフワークとして研究を続け、国内外で講演活動を続けるとともに、多くの内弟子を育ててきた。元経絡治療学会理事・学術部長、経絡治療学会愛媛部会長、漢方鍼医会顧問、漢方陰陽会会長。漢方薬専門店を併設した鍼灸治療院「池田小泉治療院」(愛媛県今治市小泉)院長。
『図解鍼灸医学入門』『古典ハンドブックシリーズ(全五巻)』『伝統鍼灸治療法』『蔵珍要篇』『古典の学び方』『漫画ハリ入門』『経穴主治症総覧』『漢方主治症総覧』『臨床に生かす古典の学び方(上)』(以上、医道の日本社)など著書多数。





































![右バナー広告(小)[改訂第6版]ボディ・ナビゲーション](https://www.idononippon.com/wp-content/uploads/banner_1407-5bodynavigation_600x218.jpg)


