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第17回社会鍼灸学研究会 学会・イベントレポート

公開日:2022年10月5日

第17回社会鍼灸学研究会が2022年9月18~19日にオンライン開催された。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行し始めた2020年から一早くリモートでの開催に切り替えた同研究会。今回で3回目のZOOMでの開催となった。

今回のテーマは、『鍼灸のアイデンティティーを求めて〜「商品化社会」における鍼灸~』。あらゆるものが商品化され、あらゆる人の行為が売買される現代自由資本主義社会において、医療も、鍼灸も1 つの商品であり、鍼灸は社会の中の様々な商品の1 つとして売られ、買われているといった類例のない切り口で研究の発表が行われた。

2022年 9月18日(日)
社会的視点からの鍼灸研究者による研究発表会

同会会長の形井 秀一氏(つくば国際鍼灸研究所所長、洞峰パーク鍼灸院院長)の開会の辞で始まり、7名の研究発表が行われた。

——1人目の発表者は、同会の事務局担当でもある嶺 聡一郎氏(首都医校)。

『工業生産にみる鍼灸の経済活動における位置〜「薬事工業動態統計」にみる経済活動としての鍼灸〜』とのテーマで、現在の鍼灸業界における問題として、受療者数が伸びていないことは、当然、治療者一人当たりの鍼などの消耗資材の消費量も少ないことに繋がり、裾野が少なければ、社会的位置づけが低いとの観点からの研究発表が行われた。

高度産業化の社会である日本において、医師が日常臨床で多用する注射用資材、X線フィルムなどと比べて、鍼灸師が使用する資材の割合は小さい。鍼灸師が治療するたびに利益を得る人が少ないという現状が、鍼灸の社会経済的位置づけを低くしているのではないかとの研究内容を解説した。

——医療消費者にとってはエビデンスよりも「私に効果がなけれな意味がない」というナラティブのほうが価値が高いという現実。小川 貴司氏(小川鍼灸整骨院 森ノ宮医療大学鍼灸情報センター)は、臨床において多くの治療者が感じているであろう観点からの『鍼灸師だからこそ起こせる破壊的イノベーション~ナラティブを軸にした鍼灸マーケティング勉強会の提案~』を発表した。

ナラティブが概念化できていないことから、鍼灸臨床がサービスとして明確にになっていないのではないかと考え、新しい治療の標的となる概念として、例えば「ナラティブペイン」を創出し、世に広めて、それに鍼灸師が対処できるという物語を社会全体にさらに大きく創り上げることを提議。それを目的に研究会を立ち上げているので、一緒に学べる仲間の先生を探しているとのこと。

——榎本 恭子氏(全日本鍼灸マッサージ師会)は、『顔の見える関係づくりと受援力の育成で防災・減災』を発表。

災害医療本部のメンバーとして鍼灸師に託されるのは、施術のほかにもサロン活動があり、サロン活動での重要な役割について研究発表した。

全人的ケアができる鍼灸師だからこそ、一人一人に向き合うことができる。DSAM、また、色々な災害チームとともに勉強研鑽しており、災害のロジスティックの資格があれば、DMATと共に、鍼灸マッサージ師の立場向上にもつなるのではないかと解説した。

DSAM:日本鍼灸師会と全日本鍼灸マッサージ師会で立ち上げた災害支援鍼灸マッサージ師合同委員会
DMAT:専門的な訓練を受けた医師・看護師などからなるDisaster Medical Assistance Team

——古田 高征氏(履正社国際医療スポーツ専門学校)は、『各県鍼灸マッサージ師会における災害支援に関するアンケート調査についての報告』を研究発表した。

各県師会において、スポーツのケア活動を促進し、また自然災害の支援活動へ備えを充実させることへの第1段階として、各県師会での取り組みの状況をみることを目的としてアンケート調査を行った。スポーツや災害の活動促進に担当者の有無が関係し、また、県同士のネットワークも必要なのではないかとの調査結果を報告した。

——今回の研究会の司会である形井秀一氏(洞峰パーク鍼灸院)は、『COVID-19のパンデミックな流行が茨城県の一鍼灸院に与えた影響』の研究を報告。

現状として、開業鍼灸治療院の患者報告が少ないことを課題と捉え、現場の治療院の明確な報告が必要との観点から、自らの治療院にて、2018.4.1の開業からの統計をとった結果を報告。4年間の月平均患者数と比較した月別患者数のグラフで示すことで、COVID-19の感染拡大は明らかだったことを具体的に解説発表した。

——坂部 昌明氏(NPO法人ミライディア)の研究発表は、『診療の補助行為および助産業とはり施術』。

「診療の補助」について関係法規上で明確に法律で定義されておらず、これまで十分な議論がされていない実情から、整理なおす必要があると捉え、関連する法令および行政の通知通達あるいは裁判例等を参照すると共に、本研究分野に関連する研究報告等を基に検討。

①診療の補助とはり灸術 ②理学療法とはり灸術 ③助産業とはり施術 の3つの論点での研究結果を報告した。

——形井秀一氏と同じく今回の研究会の司会である、小野 直哉氏(公財 未来工学研究所、明治国際医療大学)は、『日本の伝統医療を取り巻く国際機関や条約と、それらの関係性』を研究発表した。

2009年に始まったISOにおける国際標準化、それ例外にも日本の伝統医療をとりまく国際条例であるISO、WIPO、CPTPP、CBD(生物多様性条約)、ユネスコ、FAO(国際連合食糧農業機関)、WHO、WFAS(世界鍼灸学会連合会)などの相互影響を、わかりやすく図で示しながら解説。

日本の伝統医療を取り巻く国際機関や条約は、ISOなど多岐にわたり、各国際機関や条約間での影響や相互協力がうかがえる。したがって、日本の伝統医療界には、多岐にわたる国際機関や条約での伝統医療にかかわる議論を包括的かつ有機的にとらえる俯瞰的な視点を持ちながら、個々の国際機関や条約における日本の伝統医療に係る問題解決にあたる対応が求められると発表した。

2022年 9月19日(月・祝)
研究会「鍼灸のアイデンティティーを求めて〜「商品化社会」における鍼灸~」

多元的医療システムと鍼灸学をめぐって
村岡 清氏(岡山商科大学法学部 客員教授)は、多元的医療システムとは何か?多元的医療システムと鍼灸の位置づけについて、医療人類学・医療思想史によるヘルスケアの構造である多元的医療体系(pluralistic medical system;以下 PMS)を歴史とともに解説。課題実現のための具体的戦略を掲げた。

鍼灸の療養費と自由診療の現状~医療保険制度から考える商品としてのクオリティコントロール~
南 治成氏(公益社団法人日本鍼灸師会副会長、南心堂鍼灸治療室代表)は、鍼灸の療養費について考えるときに同意書の問題は避けて通ることはできない。同意書についての医師、鍼灸師、保険者それぞれの問題、被保険者にとってのメリットとデメリット等をふまえて、医療保険制度における療養の給付と療養費の観点から同意書問題と商品としての鍼灸についての研究を発表した。

フレアスの鍼灸の 2 つの取組
澤登 拓氏(株式会社フレアス 代表取締役社長)は、在宅鍼灸マッサージ、訪問看護サービスを直営とフランチャイズ制で提供する自社について、鍼灸での売上状況、利用者の ADL や QOL を向上させるための施術など、鍼灸マッサージを産業としてどう扱っているかを紹介。
鍼灸マッサージの技術の伝承がされにくい課題について、丹澤章八氏(医学博士 明治国際医療大学名誉教授)に技術品質担保の指導監修を依頼し、社員にeラーニングを用いた技術チェックを行っていることなどを説明した。

現代社会における鍼灸市場の需要検討
 浅石 祥吾氏(一般社団法人全国統合医療協会 新規事業部部長)
競争社会といわれる資本主義社会の中で鍼灸に求められているもの。求められるものがなければ生き残れないといった観点において、鍼灸業界の更なる発展を考えるには、まずは現代社会においての国内鍼灸市場の「需要」を明らかにすることが重要であると考えた。
公的機関などの公表資料、鍼灸師を対象とした療養費申請書内容、聞き取り調査、アンケートによる調査結果および、鍼灸市場の年代による変化から、既存「需要」と、これからの「需要」の可能性を明確化し解説した。

コミュニティ鍼灸師を目指して -農的暮らしと師会活動と医療介護多職種連携の有機的結合を図る-
小池 栄治氏(つくば草の根はりきゅう院院長、つくば鍼灸マッサージ師会会長)
鍼灸師として個人での存在アピールも模索したが、能力的時間的に限界がある。何より、行政には話が通りにくいと分かったことから、同業者と集合体で活動した方が良いと考え、自身が開業している茨城県つくば市での鍼灸・マッサージ・伝統医学の啓蒙のために実行している試みを報告した。コミュニティに役に立つという在りを示していく活動や、鍼灸師以外のコラボレーションなどを具体的に紹介発表した。

研究発表の後の総合討論では、資本主義社会での鍼灸臨床について、患者さんの意識と存在とのバランスについて、卒後教育の重要性などがあげられ、村岡 清氏からの倫理的な医療者の使命の解説などもあり、非常に有意義な討論が熱心に繰り広げられた。

総合討論後は、各自で飲み物などを用意した後、交流を深める懇親会も開かれ本年の研究会は閉会した。

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