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第67回 信州大学医学部学術講習会「ロコモティブシンドロームの治療・予防」レポート  一般社団法人 長野県針灸師会主催、信州大学共催、長野県後援

公開日:2024年1月29日

令和5年12月3日(日)信州大学医学部にて、一般社団法人長野県針灸師会主催、信州大学共催、長野県後援による、第67回 信州大学医学部学術講習会「ロコモティブシンドロームの治療・予防」が開催された。

テーマ「ロコモティブシンドロームの治療・予防」に沿って以下の3つの講演・実技が行われた。

 演題1 「おぶせスタディから見えてきたもの・今後の展望」
 信州大学医学部運動機能学教室 教授 髙橋淳氏
 座長 一社)長野県針灸師会 理事 今村頌平氏

 演題2 「【実技供覧】ロコモティブシンドロームへの鍼灸治療 鍼灸こそできる体性感覚入力からのアプローチ
 新潟医療福祉大学リハビリテーション学部鍼灸健康学科 学科長
 教授 粕谷大智氏
 座長 一社)長野県針灸師会 理事 今村頌平氏

 演題3 「ロコモティブシンドロームへの運動療法」
 信州大学医学部附属病院 理学療法士 三澤加代子氏
 座長 一社)長野県針灸師会 副会長 上條弘明氏

演題1「おぶせスタディから⾒えてきたもの・今後の展望」

演題1 講師:髙橋淳氏(信州⼤学医学部運動機能学教室 教授)超⾼齢社会の⽇本の平均寿命から健康寿命を報告、おぶせスタディの結果からの考察、ロコモティブシンドローム(以下 ロコモ)に対する鍼灸への期待も述べた。

長野県上高井郡小布施町では、令和22年には、町民のおよそ46%が後期高齢者になると予測され、要支援・要介護認定率は、令和2年では13.4%であったものが、令和22年には19%にも上るであろうとされる。このような背景の中で、長野県のみならず、日本および世界の高齢者の運動器障害の実態が明確ではないことから、⼩布施町住⺠の協⼒を得て、研究プロジェクトおぶせスタディ(運動器疫学研究)が2014年に開始された。

おぶせスタディは、小布施町にある新生病院、小布施町役場、信州大学医学部整形外科・リハビリテーション部がタイアップし、50歳以上の小布施町民約400名の四肢・体幹のX線写真、運動機能テストなどの諸検診を実施。検診後の説明会で、トレーニング方法・食生活を指導することで、すべての町民に元気な高齢者になっていただくことを目的とした取り組みであり、50歳代から80歳代の男女それぞれ50名ずつという各年代・性別ごとに、ほぼ同じ人数が登録されている。すなわち統計的パワーが強いことが特徴。英語論文においても、その査読者から絶賛されているとのこと。

すでに21編の論文を発表しており、健康寿命延伸に寄与する成果として、整形外科の雑誌の中で最もインターファクターが高いとされる雑誌Journal of Bone & Joint Surgeryでも採択されている。今回の講義では、発表論文のうちの3編から抜粋し、ロコモ検診と判定・ロコモ度について立ち上がりテスト時の動画を流すなどして解説。ロコモ有病率、健常群とロコモ群における膝伸展筋力の結果などをスライドでわかりやすく示した。

簡単に測定しやすい握⼒が⾼齢者の健康を反映し、握力が少ない人は認知機能が低下して転倒危険性が増加する傾向がわかったこと、運動機能を維持することは転倒のみならず、認知機能の維持にもつながる可能性があるとわかったことを詳しく解説。

おぶせスタディの結果から、要支援・要介護の要因の第1位は、脳卒中などの脳血管障害ではなく、僅差であるが、骨折・転倒、関節疾患、脊髄損傷など運動器の障害であることが明確になった。また、健康寿命を阻害する因子としては、ロコモ運動器症候群、メタボ内臓脂肪症候群、認知症であると説明した。

2014年開始の第1期おぶせスタディから10年近く経過。参加住⺠の健康状態も変化していることが予想された2023年4月から新たにスタートした第2期おぶせスタディでは、⼿関節症、肘関節症の有病率および相互の発症に影響を及ぼすかなど、新たなリサーチクエスチョンについて明らかにしていくとのこと。

ロコモに対する鍼灸への期待としては、腰背部痛や膝の痛みその他の症状の緩和であり、その効果として、身体機能と活動性の改善、あるいは、運動療法など他の治療効率の向上、ADL・QOLの改善が見込まれ、最終的には、転倒・再骨折の予防になると述べた。

また、⽇本でいち早くナビゲーションシステムを脊椎⼿術に導⼊した信州⼤学整形外科の手技改良の歴史と、現在のロボット⽀援脊椎手術の実際の様子を紹介した。

当初、ナビゲーションシステムを手術に用いると正確ではあったが、手術時間が長くかかり手術侵襲が大きくなるという問題点があったが、3椎まとめてマッチングすることで、通常手術時間が5~6時間かかる側弯症手術を、3~4時間短縮することができ、術中CTとナビゲーションを融合させたハイブリッド手術室の導入、約5秒でCT撮影を可能にするなどの改良を行ってきたとのこと。

2022年には、ロボットアームCirq(BrainLab社。日本で5台稼働)を導入。実際の手術の様子を動画で解説、新たな取り組みとして、昨年から長野県立こども病院と連携して、重症心身障碍児の側弯症手術し、生命予後を救う目的での取り組みを進めていることも紹介した。

演題2「【実技供覧】ロコモティブシンドロームへの鍼灸治療 ー鍼灸こそできる体性感覚入力からのアプローチー」

演題2 講師:粕谷大智氏(新潟医療福祉大学リハビリテーション学部鍼灸健康学科 学科長 教授)

世界においても50歳以上になると筋骨格系の健康状態の維持が求められている。要支援・要介護の要因としては運動器の障害が第一位であるが、疾患による運動機能の低下、活動量の低下、加齢といった悪循環が加わり「筋力低下」「四肢や脊椎の痛みやしびれ」「変形・バランス能力の低下」「可動域制限」が出てきて日常生活やQOLが低下してくることがロコモの概念である。しかしながらロコモ概念の認知度はまだまだ低いのが現状であると述べた。

わが国の「高齢者に対する適切な医療提供の指針」に対応させた鍼灸の特徴と役割を、スライドでわかりやすく示した。脳卒中治療ガイドラインでも、脳卒中後の症状への鍼治療の推奨度が挙げられているので、鍼灸師もしっかり理解して治療し、臨床データを取ることも重要であるとアドバイスした。

バランスの安定化に向けたアプローチとして、足腰の筋力強化やバランス能力向上への取り組みが行われるが、バランス能力の低下要因としては、「体性感覚の低下・過敏」「視覚異常」「めまいに代表されるような前庭機能低下」などの、感覚機能の低下によるものがある。その中の「体性感覚の低下」が、ロコモの治療・予防にとても重要なポイントであると述べた。

では、鍼灸あるいは手技療法等で体性感覚の低下にアプローチするには、どのような方法があるのか。足の裏には、バランスを崩さないよう、体の姿勢や傾きを制御している感覚受容器メカノレセプターが非常に多いことに着目したとのこと。加齢、脳血管障害、末梢神経障害、足底病変があると、このメカノレセプターは減少することも報告されており、また知覚神経の伝導速度が低下、筋紡錘の感受性が低下する、つまりバランス機能が悪くなるということで、リハビリや理学療法の領域では、機械的な刺激によりメカノレセプターを刺激することで、バランス機能を高めよう、すなわち自分が持っている機能を高めようというリハビリが行われているとのこと。

温熱刺激を利用しての姿勢制御機能の変化、温めるとバランス機能が向上する変化についての論文が国内外で非常に多く発表されており、冷刺激は、バランス能力が低下するという報告もかなりある。病気のある方は、足がとても冷えていて、それによって転倒しやすく、バランスが悪くなっていると考察しての鍼灸のアプローチについて、具体的に動画を用いて詳しく解説した。

お灸すべきは3箇所。メカノレセプターのある母趾外転筋の踵の付着部と母趾内転筋の真中あたり、つまり湧泉の上の関節にあたる位置。そして、足底神経を刺激できる内果の太渓と照海とツボ下の踵骨の凹み箇所。ここへのお灸も温熱刺激で足の裏がぽかぽかしてくるので効果的とのこと。38度程度のソフト台座灸で始めてみるのがいいと説明した。

実技での様子。患者さん自身に自宅でも行ってもらうために台座灸を使用。メカノレセプターへのお灸は通常はうつぶせで施術する。

転倒リスク評価として採用しているテスト、片脚開眼立位(OLS)、Timed Up and Go Test(TUG)、Functional Reach Test(FRT)を紹介。実際のTUGの動画とともに、歩行改善の治療経過を解説した。テストによる評価は、鍼灸の臨床でも非常に重要であり、患者さん自身にも改善効果を実感してもらっていると伝えた。

狭窄症の術後の下肢残存症状など、症例を用いて治療後の変化までを詳しく解説。

実技では長野県針灸師会所属の先生が高齢者疑似体験用のひじ、膝などに重りが入ったグッズを身につけて高齢患者をモデル体験。粕谷氏から治療を受けた。
施術前と施術後の歩行感覚の違いから、鍼治療とメカノレセプターへのお灸効果の実際をレポート。

鍼灸の役割としては、痛みを取ったり、関節の可動域を広げたりすることはこれまでも多くの論文発表や報告もあるが、ロコモ患者へのバランスの安定化への鍼灸の利用価値も大いにあるとし次のようにまとめた。

•バランス機能も含め、ADLやQOLを向上させ、 患者⾃⾝の残っている機能を⾼めるまたはサポートする可能性が期待できる。
•その役割を提⽰しながら、多職種連携の中で活⽤されることが重要である。

合同討議

演題1、演題2の終了後に行われた合同討議は、参加者からの熱心な質問に答えるかたちで、高齢者への鍼通電のガイドライン、鍼灸師が医療機関と連携するにあたり、信用されるために大事なことなどについて、演者の見解や丁寧な説明を聞くことができた充実した時間となった。

合同討議での髙橋淳氏、粕谷大智氏。
高橋)ロコモの概念の認知度を上げるために、来年100周年を迎える日本整形外科学会では国民への啓発活動を予定している。日整会100年プロジェクト https://www.actionjoa.jp/
粕谷)高齢の患者さんの活動や社会参加を促したりするためには、本人の健康状態、心身機能、環境因子や個人因子をしっかり調べて二元的あるいは三元的に病態を把握した上で、われわれは何をしたらいいのかを決めていく必要がある。

演題3「ロコモティブシンドロームへの運動療法」

演題3 講師:三澤加代⼦氏(信州⼤学医学部附属病院 理学療法⼠)
おぶせスタディの調査から見えてきたことを報告。姿勢の変化は、高齢者の要介護予備軍の早期発見や認知機能低下を検出するツールになり得るとまとめた。ロコモテストと判定、予防トレーニングについても解説、実技供覧を行った。

ロコモ提唱の背景と変遷をスライドで詳しく説明。おぶせスタディが実施されている小布施町の最大の目標は「健康長寿の町づくり」。町は住民に対して、年齢を重ねても地域の中で自分らしい生活を送ることができるようにと、健康づくり、介護予防、認知症予防への主体的な取り組みを促しており、介護が必要となっても、支えられるだけではなく、支える役割も担えるような環境づくりに向けて、各種組織・団体・医療福祉・介護などの専門分野と連携を図り取り組んでいることを紹介した。

理学療法士として携わっているおぶせスタディでは、認知機能検査としてはよく用いられてきたMMSEに加えて、軽度認知障害のスクリーニングとして用いられているMoCA-J検査も実施したとのこと。

おぶせスタディから得られたデータをもとに行われた研究結果を解説。脊椎矢状面アライメントと身体機能の関係性について、姿勢とロコモ度テストで有意な関連を示した。脊椎矢状面アライメントの悪化が身体機能低下と関連していたということは、すなわち脊椎矢状面アライメントの悪化は、外観の変化として視的に捉えることができるため、高齢者の要介護予備軍の早期発見を容易に行うツールになり得るとの考察を述べた。

姿勢の前方化を評価することで潜在的な認知機能の低下を検出することができる。鍼灸師に向けて、臨床における姿勢の悪い方への指導は、口頭だけでなく紙面を用いるなど、工夫をして指導をしたほうが、患者に指導内容が伝わりやすいとアドバイスがあった。

腰痛においては、ストレッチで柔軟性の改善を図り、腰への負担が少なく深部筋の筋力強化の効果が高まるような、コアスタビリティトレーニングも取り入れるといいとのこと。
ロコモ チャレンジ!推進協議会(日本整形外科学会)が推奨するロコモの予防トレーニングを実演紹介。

まとめとして、おぶせスタディのロコモ度テスト「ロコモ25」の疼痛の項目データから、半数以上の人が、何かしらの疼痛を抱えていることがわかり、疼痛のある方にも有効な一般的な5つの運動療法を示した。

ロコモに興味を持っていただき、皆さんが動けるうちに予防していくことが大切であることを認識してもらえたら幸いと述べた。

講習会参加者からの、筋トレを行う時に回数などいつも迷う。指標があれば教えてほしいとの質問に対して、アメリカのスポーツ医学会のガイドラインでは、高齢者の場合は1セット10~15回できるような運動を、できれば8~10種類。最低週2回行うとよいとされている。実際に難しい場合もあるので、ガイドラインを見ながら、患者の状態に合わせて設定していただくのがいいと説明した。

3つの演題の後、長野県国民健康保険審査委員会委員 長谷川丈氏より総評があった。

長野県国民健康保険審査委員会委員 長谷川丈氏(長谷川ペインクリニック 院長、日本ペインクリニック学会専門医、日本医師会認定健康スポーツ医)
今回の講習会テーマであるロコモはとても身近な話であり、そして、実態のところは超高齢化社会が訪れる中で、非常に大きな課題・問題でもある。おぶせスタディで現状を明確に把握し、鍼灸師としては何ができるのかを学び、ロコモ予防に一番大事とされる運動療法を具体的に学習することができた。今日からでも実践できることなので、皆さんの臨床に大いに参考になったのではないでしょうか。

本講習会の副会頭である有賀⼤祐氏が、参加された先生方と関係者、参加者への感謝を深く述べて閉会とした。

有賀⼤祐氏(一般社団法人 長野県針灸師会 副会長)
現状では、長野県のみならず、日本全体の高齢化率はさらに進んでいくことになります。ロコモに対しての認識を深め、鍼灸師もさらに研修や研鑽を進めていくことで、今後、よりお困りの方々にお役に立てればと考えています。高齢者さらには全世代の方々のQOL向上に向けて、鍼灸治療をはじめとする伝統医療をお一人でも多くの方に活用していただけるよう、長野県針灸師会としても努めてまいりたいと思いますと述べて本講習を締めくくった。

■第67回 信州⼤学医学部学術講習会 実⾏委員会(敬称略)
名誉顧問 髙橋 淳 信州⼤学医学部 教授
⼤会会頭 ⼤窪 隆⼈ ⼀社)⻑野県針灸師会 会長
副 会 頭 有賀 ⼤祐 ⼀社)⻑野県針灸師会 副会長
実⾏委員⻑ 上條 弘明     ⼀社)⻑野県針灸師会 副会⻑

■⼤会事務局⻑
今村 頌平  ⼀社)⻑野県針灸師会 理事 学術部⻑


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