第53回日本伝統鍼灸学会学術大会 ―東京大会―レポート

10月11日、12日、タワーホール船堀にて、第53回日本伝統鍼灸学会学術大会―東京大会―が開催された。大会テーマに「世界に羽ばたく日本伝統鍼灸~学理と術技を未来に託す」を掲げ、配信申し込み者を含めた参加者数は約650人となった。
開会式
開会式では、浦山久嗣氏(日本伝統鍼灸学会副会長)が世界に羽ばたく日本伝統鍼灸というテーマについて、「これを機に、日本伝統鍼灸こそが世界の鍼灸の主役であるように、これを景気に世界で活躍していただきたい」と開会の辞を述べた。
幕を開けた。

会長講演
会長講演「日本伝統鍼灸を考える」の講演を行った和辻直氏(日本伝統鍼灸学会会長、明治国際医療大学鍼灸学部教授)。和辻氏は、はじめに日本伝統鍼灸の意義と課題について、特に日本伝統医学をいかに定義し、世界へ発信していくかという視点から論じた。日本伝統鍼灸が中国医学を基盤としながらも、日本の風土や文化の中で約1500年にわたり独自の発展を遂げてきた医学であると位置づけ、特徴として、全人的な調整を目的とし、繊細な触覚による診察や、極めて微弱な刺激の鍼・灸を用いる点を挙げた。これは効果のみならず、安全性の面でも優れており、日本独自の鍼灸体系を形成しているという。一方で、東洋医学という用語が曖昧であり、ユナニティブやアーユルヴェーダなど他地域の伝統医学を含む場合もあるため、国際的な理解を妨げる問題があると指摘。具体的に、日本伝統医学や日本の伝統医学という用語を部分的に用いて、そのためは定義を作成する要とがあると論じた。総括して、今後の日本伝統医学の発展には、国際的な視野のもとで日本独自の医学体系を再定義し、その特質を明確に示すことが不可欠であると述べた。その上で、「日本伝統鍼灸」を体系的に定義し直すことが喫緊の課題であり、その提案を検討していくことが重要と訴えた。

会頭講演
会頭講演「今日における難経六十九難の治療法則~片方刺しによる相剋調整の本治法~」では、谷内秀鳳氏(第53回日本伝統鍼灸学会学術大会会頭、一般社団法人東洋はり医学会会長)が講演を行った。相剋調整とは、体質改善や未病の治療を通じて生命力を高めることを目的とした、極めて実践的かつ基本に忠実な治療法であるとして、その理論のみならず、模擬患者を用いた実技を通して、診察・診断・治療の過程を公開実演した。さらに、標治法であるナソ治療・ムノ治療についても詳細な解説を加え、臨床に即した実践的内容として聴講者に深い理解を促した。

特別講演
特別講演1「伝統日本鍼灸~ヨーロッパにおける展望~」のために来日したスティーヴン・バーチ氏(クリスティアニア大学健康科学部名誉教授、鍼灸師、一般社団法人東洋はり医学会海外総支部長)。通訳を介しながら、ヨーロッパにおける鍼灸教育と実践の現状、強み、課題について概説した。多くの鍼灸学校では中医学式の教育が中心で、履修時間は短く、理論偏重の傾向がみられ、そのため、卒業後に臨床技術の不足を感じる鍼灸師が多く、各国で異なるシステムや短期研修に学びを求める状況にあるという。ヨーロッパでは国ごとに鍼灸の資格制度が異なり、医師のみ施術を許される国も少なくないが、一方、1990年代以降に日本鍼灸、特に経絡治療の影響が拡大し、卒後教育として東洋はりスタイル経絡治療や小児鍼が広く導入されていることに着目。理論に偏らず、手技を重視する実践的指導が高く評価され、学びを通して臨床力を磨ける点が魅力であるが、指導言語が英語に限られることが普及の課題となっていると論じた。

特別講演2「日本伝統鍼灸の世界への発信」では、形井秀一氏(洞峰パーク鍼灸院院長、つくば国際鍼灸研究所所長)が登壇。19世紀後半から20世紀にかけての日中韓の医学の動向が紹介され、中国では中医学廃止の流れ、韓国では西洋医学との共存と鍼灸制度の導入、日本では、東洋医学が国の医学制度から除外されていった状況が示された。続けて、形井氏は、鍼灸の国際化の歩みとして、20世紀初頭のアジア移民による米国・ブラジルでの施術開始から、1970年代の中国鍼麻酔報道による普及、1990年代以降の各国での制度化、2000年代の国際標準化までを整理した。また、世界学会・組織としてISOM(韓国)、ICMART(独国)と1987年創設で、2024年時点で51か国・277団体が加盟しているWFASを紹介したが、日本式鍼灸を実践する団体は少数であることを指摘した。今後は、WFASをどのように活用するかが、国際的展開の鍵となると考えを共有した。伝統鍼灸を世界に発信するためには、日本鍼灸の特徴である弱刺激かつ個別対応型の療法の有用性を示す必要があるとして、治療効果の明確化やガイドライン作成といった標準化に加え、個々の患者に対応できる研究手法も求められる。そのためには国立の日本鍼灸研究所のような研究機関の整備、学術団体や各国鍼灸組織との交流、国際学会での発表活動など、国を挙げた体制と組織的取り組みが不可欠であると語った。形井氏は、伝統鍼灸の世界発信は即ち日本鍼灸の世界発信であり、今後の展開に向けて国際的な連携と国際学会での発表活動など積極的な情報発信に期待を込めた。

特別講演3「伝統医療の特質と鍼灸治療の科学~新しい時代の医療として期待される鍼灸~」では、山口智氏(埼玉医科大学医学部客員教授、公益社団法人埼玉県鍼灸師会会長)による講演が行われた。山口氏は、鍼治療の対象になりやすい主な疾患として非特異的腰痛、変形性腰椎症、骨粗鬆症、腰椎分離すべり症、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症を挙げ、非特異的腰痛について、腰部に起因する腰痛であるが重篤な基礎疾患や神経症状を有していない状態と説明。40年以上にわたる医科大学での診療・研究・教育に従事し、多くの活動を行ってきたことから、鍼灸が難治性疼痛や不定愁訴に有効であり、QOL向上に寄与する可能性を示した。患者中心医療の時代における鍼灸治療の役割の大きさを論じた。

特別講演4「日本伝統鍼灸の継承と発展~教育機関の立場から~」において、清水尚道氏(学校法人森ノ宮医療学園理事長、公益社団法人東洋療法学校協会会長)は、日本伝統鍼灸の教育・継承の現状や、その背景・制度的要因について教育機関の視点から説明した。東洋療法学校協会の会長である清水氏は、はりきゅう実技評価という実技試験について、また、学生が学校教育の段階で身につけておくべき技術レベルの向上を目指す取り組みや、学校教育における技術レベル向上の方針について触れた。さらに、鍼灸養成校の状況を示すスライドを用いて、1999年には専門学校37校、大学3校であったが、2014年には専門学校121校、大学11校へと増加したことを提示。その後、2024年には専門学校94校、大学12校と減少傾向に転じていると報告した。本講演は、今後の課題解決や日本伝統鍼灸の継承・発展について考察する契機となることを意図して進められた。

特別講演5「その痛み仙腸関節障害かも?」では、金岡恒治氏(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)が、仙腸関節障害の病態とその診断や対処の難しさについて解説した。画像所見で異常が確認できないことが多く、臨床上混乱を招きやすい仙腸関節障害について、靭帯や骨盤内在筋の機能不全が疼痛の一因であることを示し、腹横筋を中心としたモーターコントロールの学習について提唱した。講演では、仙腸関節の構造や靭帯の付着部位をイラストで見せることで、関節の動態や負荷のメカニズムが明確に示され、理解を深めるうえで有用な素材となった。

教育講演
教育講演1「鍼灸に関わる国際標準化の動向」では、天野陽介氏(日本伝統鍼灸学会国際部部長)が、2000年以降に活発化した東洋医学分野の国際標準化について、その背景と経過を整理して述べた。まず背景として、1970年代以降の鍼への関心の高まりが挙げられ、その契機となったのがリチャード・ニクソン米大統領の訪中時に同行した記者が虫垂炎手術後に鍼麻酔を体験し、記事として報じたことで鍼治療が世界的に注目を集めた事例を概説した。その後、鍼の有効性や臨床研究が海外で進展し、2000年以降はさらに活発化。また、補完代替医療や統合医療への注目が高まり、米国NIH内に関連機関が設立されたことも国際標準化を後押ししたという。講演では経穴の国際標準化、用語の国際標準化、WHO-FIC、ISOについて順に解説し、東洋医学の国際的位置づけの変遷を俯瞰できる内容となった。

教育講演2「災害支援の中で生かされる伝統医療」では、三輪正敬氏(災害鍼灸マッサージプロジェクト代表)が、東日本大震災以降の災害支援活動について報告した。避難者数や支援者数の推移を示すグラフを用いながら、現場での支援体制の変遷を説明。能登半島地震では、石川県鍼灸師会、石川県鍼灸マッサージ師会、DSAM、HART関東など複数の団体が連携し、鍼灸師・マッサージ師を含む262名が派遣され、903名が施術を受けたことが紹介された。また、募金の活用や団体間の協力体制、施術時には同意取得後に血圧・体温測定、主訴確認、SOAPに基づくカルテ記載と問診を行う標準的手順についても触れた。災害に関する教育を整備することが、伝統医療を現代に生かしていくうえでの重要な要素の一つとして挙げられた。

教育講演3「杉山真伝流の臨床への活かし方」において、講師は大浦慈観氏(いやしの道協会顧問、東洋鍼灸専門学校校長)。冒頭、杉山真伝流について解説が行われ、初代総検校・杉山和一を始祖として始まったこと、小川町には杉山真伝流御用学問所と称する奥伝の稽古場が置かれたこと、さらに流儀書『杉山真伝流』表之巻・中之巻・奥竜虎之巻を紹介した。この流儀書には、診断法から多種の刺鍼主義術、それを応用した治療法に至るまで、現代でも示唆に富む内容が詰まった最高のテキストと称した。杉山真伝流の特徴として、気の遣り取りの重要性について語られた後、実技を披露。鍼柄がプラスチック製の場合はゴム手袋を着用して操作するみたいで、気の感覚が分かりづらくなるため、金属製の鍼柄を使用するとアドバイスした。

教育講演4「女性の一生と鍼灸-生きる力を引き出す鍼灸」と題して、女性の立場や目線から鍼灸との関わり合いについて講演を行った辻内敬子氏(せりえ鍼灸室副院長)。はじめに、現代日本女性を取り巻く現状と背景について概説が行われ、ライフサイクルと健康課題および鍼灸の役割、最後に生きる力を支える鍼灸をテーマとして講演が行われた。講演のゴールとして、健康や安心感について共に考え、鍼灸の可能性を広げることを掲げ、女性のライフステージ(思春期・妊娠・出産・産後・更年期・老年期)において鍼灸がどのように関わるかを、実際の臨床例や社会的背景をもとに示した。女性の人生とともにある鍼灸のあり方を見つめ直すことを目的として、内容が整理され、理解を深める形で進行した。

教育講演5「鍼灸治療の効果は『心の持ちよう』で変わる」では、宮川浩也氏(広島大学医学部漢方研究室客員准教授、日本内経医学会顧問)が、鍼灸治療の効果は技術や操作だけでなく、施術者の心の持ちように大きく左右されることを指摘した。講演では、スランプは外的要因と内的要因によるパフォーマンス低下であり、内的要因とは心の変化であると説明。心持ちとは「心が静か」で雑念が少ない状態を指し、この状態では感覚が鋭敏になり、身体の動きも滑らかになると述べた。また、雑念や固定観念が多いと操作精度が低下するが、古典『素問』では「恬淡虚無」や「無為のことを為す」と説き、心を静め自然な状態で行うことの重要性を強調した。加えて、鍼灸師は心を整えた上で治療に臨むことが、治療効果向上に不可欠であるとまとめた。

実技講演
実技講演1「経絡治療実技―脈診と補瀉―」橋本巌氏(経絡治療学会理事)では、経絡治療の基本理念と実践が示された。経絡治療は、経絡の虚実を把握して補法により治癒に導く随証療法であり、切経と部定位脈診で虚実を判断する。本治法として「母子の補」を用いた選穴補法を中心に行い、標治法として症状局所と関連経絡への施術を組み合わせる。施術後の脈状や症状の変化から、証の適否を評価することが示唆された。また、経絡は全身を循行するネットワークであり、局所と全体の関連性を考慮することが重要であるとし、施術時間や量・質の影響についても触れた。

実技講演2「道具の違いがもたらす治療の世界~九鍼臨床の理論と実際~」では、間 純一郎(東京九鍼研究会会長)が登壇。九鍼の道具の違いが治療に与える影響を解説した。間氏は、道具により治療の幅や奥行きを理解できること、刺激は必ずしも強くなく心地よく感じる場合もあること、臨床経験の少ない時期でも道具が技術の補助となることの3点を挙げた。また、刺入しない鑱鍼・圓鍼・鍉鍼、刺入する鋒鍼・圓利鍼・毫鍼を紹介し、実技では鑱鍼を用いて表熱の瀉法を行う際、鍼の角度・圧・スピードが強弱のポイントであることを示した。

実技講演3「日本はり医学会方式の理論と実際」と題して中野正得氏(一般社団法人日本はり医学会会長)が、経絡治療における日本はり医学会方式の手順について解説を行った。同方式は、四診法(望診・開診・問診)で病証を把握し、切診(腹診・脉証など)で得られる情報を統合して証を決定した上で、本治法を主体とした施術を行う3段階で構成される。実地臨床では、病証の弁別、変動経絡の虚実確認、選経・選穴、本治法テスターによる刺鍼効果の検証、刺す鍼・刺さない鍼や手技の決定、経絡の虚実補調整を順に行い、切診で所見の改善が確認され、生命力が強化された時点で終了する、という手順であることを伝えた。

実技講演4「漢方鍼医会方式による漢方はり治療」では、新井敏弘氏(漢方鍼医会会長)が、平成5年に小泉春男会長のもと発会した同会の理念と治療法について紹介。漢方はり治療とは、漢方の医学理論に基づき、病体の病理・病証を把握し、脈状と四診法を総合して「証」を導き出し、鍼灸の補瀉法によって生命力を強化することを目的とする治療法であるとして、漢方鍼医会では、『素問』『霊枢』『難経』などの古典に基づく理論を重視し、九鍼十二原篇に則り、接触的で繊細な施術を行う点を特徴に挙げた。

実技講演5「私の診察診断治療の特徴とその実際」では、戸ヶ崎正男氏(和ら会代表)が、診察診断において気質や体質を重視し、治療では自然治癒力を最大限に引き出すことを中心に解説した。全体治療として任督中心治療や時系列根本治療を行い、主訴だけでなく過去の傷や後遺症も含めて全身を調整する方法が示された。治療では活きたツボを用いた四型分類に基づく施術を行い、最少の刺鍼で最大の効果を目指すことが述べられた。これらの考え方は近代医学にはない伝統医学の視点であり、臨床と理論の両面でさらに深め、発展させていく意義に重きを置いた。

実技講演6「東方会方式による診断と治療」では、山本和臣氏(東方会副会長)が実技にて「円鍉鍼法」を披露すると、その他、東方会で用いられる「接触鍼法」「刺入鍼法」「特殊鍼法」「留気鍼法」など計26種類の鍼法について解説。それぞれの鍼法の目的や作用を表にまとめ、診断から治療までの流れを視覚的に分かりやすく示した。さらに臨床での活用例を通じて、気血の動きをどのように整えるかを具体的に紹介し、理論と実技の両面から東方会方式の特徴を明らかにした。山本氏は外渉部企画「鍼灸の道具とその運用」の講演も行った。

実技講演7「北辰会方式の刺鍼法~置鍼~」油谷真空氏(一般社団法人北辰会)では、四診合参に基づく弁証を基本とした独自の治療体系と、毫鍼を用いた鍼管を使わない撓入鍼法を教示。さらに押手と刺手の圧を調整して違和感や痛みを抑えつつ衛気を乱さず刺入する手技や、四種の鍼術を使い分け、刺鍼角度や補瀉を的確に調整する方法の解説。また、北辰会では置鍼は少数穴に行うことで安全かつ効果的に実施され、臨床的意義の高い技法として位置づけられていることを共有した。

実技講演8「積聚治療における『気』とは」では、藤原典往氏(積聚会副会長)が積聚治療における「気」の概念に触れ、実技を通して基本治療や治療手順の確認を行った。伝統鍼灸では「気」は生命の源や微細な粒子として理解され、身体の各部や脈を通して感知される。積聚治療では、気の偏りが病の原因と考え、精気の働きを調整する技法により内外の調和を図る。この考え方は、日本鍼灸における触診重視の診断・治療法と密接に関連していることが示された。

実技講演9「『天地人治療』の実際(パーキンソン病に対する治療)」では、武藤厚子氏(天地人治療会学術部長)が、木戸正雄氏提唱の「天地人治療」をパーキンソン病患者に応用する手法を紹介。天地人治療は、人体を経絡系統治療システム(VAMFIT)として捉え、身体を「天・地・人」の三要素に分割して考える体系的な治療法であり、人体を気の袋として捉える視点も持つと展開し、治療の流れを整理しつつ実技が行われた。

実技セミナー

実技セミナー1「鍼灸治療が緩和ケアの力を発揮するとき」では、鈴木春子氏(春の会―鍼灸・がんの緩和ケア研究会)が、抗がん剤によって誘発される手足末梢神経障害のピリピリ・ジンジンする痛みに対する八風八邪の置鍼手技や、乳房切除後疼痛症候群(PMPS)に伴う傷の痛みへの触れ方と対応について実技を交えて進行した。

実技セミナー2「緩和ケア病棟での鍼灸マッサージ施術 <終末期状態の人に触れるということ>」を担当した才村雅志氏(医療法人社団花の谷クリニック)。鍼灸マッサージ施術は、生命力の落ちていく終末期患者にどのように関わり触れるかが重要であり、制約の中で痛みのない施術が求められるとして、実技では金の鍉鍼を使用。才村氏は「鍼をしたら良いことしかない」と述べ、実技を披露した。
シンポジウム
シンポジウム「補法、瀉法の理論と技術-経絡治療の視点から-」では、4人のシンポジストが各講演を行った後、聴講者を交えて質疑応答が行われた。
- 「虚実補瀉について―補法・瀉法の理論と技術―」木戸正雄氏(天地人治療会会長)
- 「臨床を通じて古典を再検討し、補法と瀉法の理論と技術を現代に活かす」中野正得氏(一般社団法人日本はり医学会会長)
- 「『補法・瀉法の理論と技術』―古典における補瀉論の解釈―」橋本厳氏(経絡治療学会理事)
- 「ていしんにより衛気と営気を明確に使い分けての本治法の補瀉」二木清文氏(滋賀漢方鍼医会代表)

公開座談会
公開座談会「日本伝統鍼灸学会の将来を考える-女性鍼灸師の視点から-」にて、「女性鍼灸師がさらに活躍する日本伝統鍼灸学会へ」茂木麻美氏(日本伝統鍼灸学会編集部副部長)、「学びと術~女性の強みと弱点~」平地治美氏(和光鍼灸治療院院長)、「女性鍼灸師の視点から見た学会活動の軌跡と未来―先人と次世代の想いをつなぐ架け橋として―」加畑聡子氏(北里大学薬学部附属東洋医学総合研究所)の発表が行われた。

JLOM委員会企画
JLOM委員会企画「鍼灸領域のISO情報規格(ISO/TS 16843-1 Categorial structure for representation of acupuncture Part1: Acupuncture points)」では、東郷俊宏氏(明治国際医療大学客員教授)が登壇。鍼灸における情報規格ISO/TS 16843-1の開発経緯と意義が解説された。本規格は、国際標準化機構TC249における伝統中国医学の標準化の流れの中で、経穴表現の多義性や流派・国ごとの差異を調整する目的で策定されたものであるとし、範疇構造(Categorial structure)を用いて、名称、解剖学的位置、診断所見、施術可能性などツボに関わる概念を体系的に表現可能とすると特徴づけた。講演では、規格の内容と将来の国際標準化への展望が語られた。

学生セミナー
学生セミナー「続 あの先生のおすすめ本」高橋大希氏(日本伝統鍼灸学会教育委員会委員長)では、前回大会で好評だった企画の第二弾として、今年度も新たに評議員・理事を対象に「学生時代に読んでほしい鍼灸関連書籍」のアンケートを実施し、その結果を供覧した。紹介された書籍は、先人たちが長年にわたり培ってきた技術や哲学を理論的かつ体系的にまとめており、その背景にある原理や歴史、関連分野の知識を幅広く学ぶことができる。高橋氏は、特に古典を読むことで大昔の鍼医と時代を超えた対話が可能となり、先人の知恵を借りて新たな着想を得ることができる点を強調した。

学術部企画
学術部企画「あなたの臨床が、未来の鍼灸をつくる~学会発表・論文作成のための実践ガイド~」手塚幸忠氏(日本伝統鍼灸学会学術部)による講演では、学会発表の三つの大きなメリットが示された。まず、経験を言語化することで治療の客観性と再現性が高まり、なぜ治ったのかを突き詰める作業が次の治療への新たなヒントになるという自己の臨床への還元。次に、成功だけでなく反省点も共有することで、同様の症例に向き合う他者や次世代にとって重要な情報となり、同じ過ちを避ける助けになるという貢献性。そして三つ目に、共同研究の申し出や論文執筆依頼、技術交流などの協力者が現れる可能性があり、自身の臨床が新たな発展につながる点が挙げられた。さらに、臨床経験を効果的に伝えるための誰でも実践できるプレゼンテーションの法則とコツについても紹介し、発表の質を高めるための実践的なポイントを提言した。

国際部企画
国際部企画「老中医の伝統鍼法~鄭氏鍼法、捻転と提挿の実演~」では、日色雄一氏(日本伝統鍼灸学会国際部)が、中国における鄭氏鍼法を解説。前回大会では複式補瀉法である焼山火や透天涼を実演してみせ、今大会では龍虎交戰(行気法)のデモンストレーションから披露し、会場では実践的かつ古典的な手技の動きを間近で確認できる貴重な機会となった。

視覚障害者支援委員会企画
視覚に障害のある参加者に、実技中の経過を触って確認できる優先枠を設けたセッションとして、視ることより触ることを基準とした2演題の実技セミナーが実施された。
実技セミナー1「紘鍼会の脈腹診と『杉山真伝流』管鍼術による補瀉法の実際」では、松本俊吾氏(鍼灸経絡研究紘鍼会会長)を筆頭に、向園隼人氏(鍼灸経絡研究紘鍼会)小堺清子氏(鍼灸経絡研究紘鍼会)、五味哲也氏(鍼灸経絡研究紘鍼会)が担当した。

実技セミナー2「小里方式~刺鍼技術の検証方式で見えない世界を診る~」にて、宮澤勇人氏(一般社団法人東洋はり医学会)、太田耕奨氏(一般社団法人東洋はり医学会)の進行のもと、晴眼者はアイマスクを着用し、刺鍼者、検脉者、模擬患者に分かれて「見えない世界で診る」を体験できる企画が催された。

この他にも、実行委員会・教育委員会共同企画として、賛助会員団体における入門講座・入会説明会や一般口演が行われた。また、大会初日の全プログラム終了後には懇親会が盛大に開かれた。

閉会式
閉会式にて、実行委員長の奈良雅之氏より参加者数の集計結果やアーカイブ配信について報告された。そして、次回の第54回日本伝統鍼灸学会学術大会の主管校として実行委員長を担う長野仁氏は、開催地が大阪府茨木市で日本刺絡学会との併催、さらに大会テーマを発表した。さらに、次回大会は立命館大学の准教授である黄静静氏を会頭に迎え、アジア・日本研究所の全面バックアップで開催する旨が伝えられた。





































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