早くも重版決定!新刊「やさしい鍼治療 ― 臨床70年。「効く」への道しるべ ―」首藤傳明先生へインタビューしました!
本年1月10日に新刊「やさしい鍼治療―臨床70年。「効く」への道しるべ―」を出版いたしました。
執筆は、書籍『経絡治療のすすめ』、『超旋刺と臨床のツボ ー超旋刺と刺入鍼 ー』『首藤傳明症例集』の著者でもある首藤傳明先生。多くの治療家から師と仰がれて目標とされている首藤先生の書籍は大変好評で、発売からわずか2か月で早くも2刷の重版が決定しました!
⾸藤先⽣は、本書の中で、70年というご自身の鍼治療の道のりを「曲がり道の連続だった」と記しています。
「⼀万時間の法則」、すなわち1⽇4〜5時間の研鑽を積み、10年で1万時間を費やすことで⼀⼈前になる。その道を信じて弛まぬ努⼒を続けることが⼤切とし、これから鍼灸師として育っていく若⼈たちが「その努⼒を貫けるように」と真っ直ぐ進む道標となるべく本書は執筆されました。
あらゆる努力と経験を積んだ首藤先生だから伝えることができること、首藤先生でなければ語ることができないこと、そのすべてを惜しみなく、やさしく誰にでもわかるように1冊にまとめたのが本書です。
この記事では、首藤先生に、本書についての思い、鍼灸の未来などについてインタビューしました!
目次
書籍「やさしい鍼治療 ― 臨床70年。「効く」への道しるべ ―」について
-本書による導き-
・鍼灸医学の特徴を知る。
・経脈を理解し「これだ」というものに行き着く。
・東洋医学の五臓を学び、診ることができるようになる。
・四診のポイントとコツを掴み、磨く。
・証立てを行い「効く治療」を組み立てられるようになる。
刺鍼は、治療の⽬指すところ治療する場所などでその⽅法は変わります。指先の感覚と技術で治療箇所に鍼先をぴたりと当てなくてはなりません。その感覚を⾔語化するのはとても難しいとされていますが、本書では、著者 首藤傳明先生が経験から得られた「感触」をわかりやすい⾔葉で伝えてくれます。
本書内の中級編では、首藤先生が実際に治療した34もの症例を丁寧に紹介しています。
西洋医学で難儀した症状が鍼治療でスッキリ治っていく様子や、普通なら繋がらないだろう原因と症状の関係を紐解き、治療に成功した様子、さらには、治療家として患者が寛解した時の著者が患者を見守る温かい視線にも触れることができます。
実際の臨床では、このように厳選された症例に細かく触れるには⻑い年⽉を費やさなくてはなりませんが、本書によって、著者の経験に裏打ちされた治療の詳細を存分に学ぶことができます。
首藤傳明先生のご紹介
1932年、大分県生まれ。1959年、首藤鍼灸院を開業。社団法人大分県鍼灸師会の会長を4期務める。現顧問。2008年度末まで日本伝統鍼灸学会会長を務める(9年間)。社団法人全日本鍼灸学会評議員。間中賞選考委員も務めた。鍼灸師のための私塾である弦躋塾塾長。「忘己利他(己を忘れて他を利す)」がモットー。著書に『経絡治療のすすめ』、『超旋刺と臨床のツボ ー超旋刺と刺入鍼 ー』『首藤傳明症例集』(以上、医道の日本社)などがある。海外でもセミナーや講演等を広く行なっている。「Denmei Shudou」と呼ばれることが多い。
首藤傳明先生にインタビューしました!
――本書を出版された経緯と、そこに込められた思いについて教えてください。
首藤 90歳になって突然物の怪が付いたように書き始めたのは何故なのか。私自身にもよく分かりません。少し覗いてみます。
常套句ですが1日6時間の臨床、治療20人。予約、それも奪い合い。加齢と病後でろくな治療ができるはずはない。が、現実は私が驚くほどの治療成績、患者さんの満足度です。
こちらの体力はかすれているのに、指と頭で試行、いい結果が出ます。ならばこの状態とこの方法を簡潔に表現しよう。
特に方向が決まらなくて困っている若い鍼灸師さん、経絡治療に否定的な先生方に一度試してもらいたい。それほど毛嫌いするものでもありませんよ、門を入れば別れられない恋人のようになるかもしれません。
この項目の答えはシンプルな方法で最高の治療成績が得られる方法の提示です。
――本書の冒頭でおっしゃっているように、先生が「鍼灸医学は最高の治療法の一つ」と確信する理由を教えてください。
首藤 西洋医学の発展はすさまじいものがあります。私を含めて恩恵を得ること言わずもがなです。それも最高の治療法の一つです。しかし、それでも症状の原因が分からない、分っている症状がよくならない。こういう患者さんも多い。
西洋医学でてこずる症状に鍼灸治療は素晴らしい効果を出すことが多い。私の患者さんはそういうタイプの病が多い。本書には症例を載せています。
治療で治った時の喜びよう、先生長生きしてください、此処しかありません。患者さんの最高の感謝褒め言葉です。これもまた最高の治療法の一つと断定します。西洋医学の谷間を埋める医学といってもよい、肩を並べる医学といってもよいでしょう。
――現在先生は、鍼灸の未来についてどのようにみていらっしゃいますか。
首藤 非常に悲観的です。特に日本の場合、鍼灸師は生き残れるのか。病院での鍼や、主としてマッサージ施術でしか生き残らないのではと危惧します。その理由と対策は後述します。
日本ではなく、世界的に鍼灸医学は広まりつつありますが、一つ危惧があります。刺鍼に際し深鍼、強刺激が多いことです。それは交感神経を興奮させるもので、病人に対してよい答えとはならないはずです。
私が唱える「超旋刺」その他浅い弱刺激が副交感神経を興奮させて、患者の満足度を得ます。世界も試行錯誤のあとこのことに気が付くでしょう。
――先生は以前から「道しるべに」と、惜しみなく後進に自分のわざを伝えていらっしゃいますが、そうするようになったきっかけやその思いについて聞かせてください。
首藤 私は教育者ではありません。教える力もありませんが、教えを請われれば持っている物は惜しみなく公開します。それを取捨するのは請う側で、責任はそちらにあります。
若い頃さらに若い鍼灸師3人が私宅で治療の方法、学問のすすめ方など熱心に聞いてきたことがあります。持てるもの(些細な内容)はすべて公開しました。毎月何年と続きましたが、皆さん流行り出し、私も体調が万全でなかったので休会となりました。
ところが、何年か経って、また、その3人から研究会の開催を請われました。体力の限界を条件に一般の研究したい鍼灸師にも呼びかけ『弦躋塾』を開きました。1年もすれば自然消滅の期待に反し、流行り出したのです。評判となり全国から参加するようになりました。中には医師、歯科医師、獣医師の参加もありました。
塾の内容は私が持てる技術、考え方、学問で秘伝といわれるものも隠すことはしませんでした。塾生、外来講師の後援もありました。31年間続きました。年6回180回あまり、これも体力の限界で閉塾したのです。営利が目的でないので講義料はなしでした。
以上、全てを公開、希望する人は持ち帰ればよいという方針、教育や指導ではない、ということがおわかりでしょうか。
――本書で、「学技の上にこころがある」と先生の座右の銘を紹介されていますが、良い治療家になるために、普段から心がけるべきことを教えてください。
首藤 わたしの座右の銘のもう一つは忘(もう)己(こ)利他(りた)です。が、現実の問題として仏教者のようにそれ一途に行くとはいきません。ただ、毎日なんとなく私以外の人が喜ぶようなことができれば、というささいな感情です。そのような内部の感情はかならず分かってもらえます。
見えないから分からないだろうは現実には通用しません。やってみるとすごい結果が出ます。最澄さん、黄金の言葉を残してくれました。やるかやらないかだけの問題です。
――先生の後に続いて鍼灸医学の道を行く人たちにメッセージをお願いします。
首藤 一般市民へのアンケートで鍼灸受診率6~7%から5~6%に落ちていると言われたことがあります。何故でしょうか。
理由は簡単です。鍼(治療)が痛い、治療効果がない(効かない)です。これは致命的です。
健康保険でなく現金を払って痛い、効かないでは、私でも受診しません。私は鍼治療を受けるのが好きで多くの鍼灸の先生方に治療を受けますが、私が満足するような気持ちいい効果を出せる先生は多くはいません。何故でしょうか。
針金一本で難症を治そうとするのです。鍼を刺入するだけなら誰でもできます。が、ほれぼれするような鍼を得るのはむつかしい。鍼は芸術である。この言葉にすべての秘密が隠されています。
例えば画家、あの繊細な筆致、すぐに真似のできるものではありません。長年血のにじむような業(ぎょう)があってこその結果です。ではどうすればよいのでしょうか。
「人生は努力である」私がたどり着いた結論です。ですから、できるかぎり努力します。悔いのないように。あの時こうすればよかった、は努力不足です。
結果がどう出ようと努力の後では悔いなし、それでよいのです。これからお話する内容、私の些細な経験から出たもの、自慢にはなりません。こうすれば少しは向上するのではというものです。
開業したら地元の鍼灸業界の会に入会して、一会員として何かのお役にたつことです。また全国の業界の会員になること。学会に入会すること。
鍼灸全般では、全日本鍼灸学会、日本伝統鍼灸学会。治療方式に分ければ経絡治療学会、東洋はり医学会、古典鍼灸研究会、日本内経医学会…沢山あります。とすると年会費も馬鹿にはなりませんが、私は必要と思って今も沢山の会に入っています。
さて個人の問題となります。腕を磨くことです。市民が鍼灸治療を喜んで受けるようになるには受診率50%というところでしょうが無理があります。鍼灸師の10%が上手でも山は動きません。でも80%が上手ならば大動きです。そうです、底上げが必要です。皆さん方一人ひとりの頑張りが要求されます。
腕を磨く方法は?嘗ては師匠の元で鍛えられる、手から手への技術伝授がありましたが、現在はどうでしょう。専門学校で教える、それも以前は資格試験に実技がありましたが、今は筆記試験だけ、腕を磨く、向上させる余地はありません。ここでは学校制度も考え直す必要がありそうです。
学会に入って腕を磨くことができない時は友達(鍼灸師)4~5人集めましょう。一人先輩がいるとなおよい。友達同士鍼治療をします。技術を批判してもらう。いい方法を教えてもらう、発見するのです。てこずる患者さんの治療方法を教わるのもよいでしょう。家族への鍼治療も腕が上がります。
次、自分で自分の身体に毎日鍼をすることです。鍼灸師は毎日脈を診て鍼治療をするのが当然、むしろ責務と思っていますが、そうしない先生もいます。毎日毎日の行にこそ進歩があるのです。毎日の脈診と治療で突然死を防ぐこともありうるのです。
技術を考えましたので、次は学問です。必須は東西両医学の研究です。西洋医学については、現在どのような病気にどんな治療が行われているか、日進月歩です。テレビ、新聞、専門誌、ネットなどで大雑把に理解する。難しい病気に対し、紹介は近くではどの病院がよいか。専門を標榜する医師は?患者さんの評判は?
東洋医学では経絡、経穴だけでなく、鍼灸の本質を理解するには素問、霊枢、甲乙経、難経などの古典の研究、実践が必要ですが、範囲が広く、届き難いのが一般です。「やさしい鍼治療」にはその辺も加味してあり参考になります。鍼灸古典の範囲は中国から日本の江戸時代まで範囲が広い、なかなか隅々まで届きません。
東西両医学だけでよいのでしょうか。人は内なるものがにじみ出ます。内容豊富のほうが受けが良い。磨きましょうか。日本、中国の古典、歴史、哲学、技芸何かやるとよいでしょう。
とここまで来て思いなおすことが一つ、運動不足です。肉体を動かすことも健康保持の一つ、不足にならないようにしてください。
以上、私の思いは届きましたでしょうか。駄弁言わずもがな…失礼しました。
――首藤先生、ありがとうございました。治療の合間のお時間に、貴重なお話をお伺いすることができ心から感謝申し上げます。
いかがでしたでしょうか。首藤先生の揺るぎない鍼灸への向き合い方と想いをお聞きすることができました。その一語一句が、私たちに深く響いてきます。人生に無駄はない。鍼灸師としてたゆまぬ努力を続けたことで得た知識と経験を、ひとつも惜しむことなく授けてくださる首藤先生。その首藤先生の教えを各々自らが積み上げ、さらに次の世代へと伝える治療家が増えることによって、鍼灸の可能性はさらに大きく切り拓かれていくことでしょう。
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