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腰痛の灸頭鍼治療

公開日:2026年4月9日


慢性の腰痛と灸頭鍼の適応

 腰痛を発症している場合、腰部の筋肉は緊張していると考える。したがって、鍼を深く刺すと、余計に筋肉が緊張して痛みが増す場合がある。痛い鍼を刺すとなおさらである。そのため灸頭鍼を用いるのは慢性の腰痛が適応する。慢性の腰痛だと、腰全体の筋肉の緊張は少ないからである。もちろん、用いる経穴の選び方が重要になる。
 痛む部位を確認して、その周辺の経穴を探ってみる。その中で最も虚している部位を見つける。左右対称でもよいし、右に2本、左1本などという選び方でもよい。経穴にこだわる必要はないが、多くは腎兪、大腸兪、小腸兪やその周辺である。
 要するに少し按圧して力が弱い部分を見つけて、それに灸頭鍼用の鍼を刺す。虚している部位は、切皮したのち、強く刺そうとしなくても、鍼が自然に入っていく。喩えるなら豆腐に刺している感じである。それほど虚している、ということである。

道具の選び方と火傷への配慮

 筆者の治療院では、一寸3分と一寸で太さは4番のステンレス鍼を用いている。坐骨神経痛で臀部に刺すときは一寸3分を用いる。大腸兪から上は一寸を用いる。三焦兪から上には灸頭鍼を用いることはほとんどない。
 次に問題なのは寸3や1寸の鍼を刺してモグサを燃やすと火傷する心配がある。それで鍼を刺した部位には厚紙を敷く。厚紙といっても、余り分厚いと熱感が伝わらないし、薄紙だと熱すぎる。最も適しているのはティッシュペーパーの箱に用いられている紙である。薄くも無く分厚くもない。
 鍼を刺してから紙を敷き、炭モグサを用いている。以前は安物のモグサを紙に包んで燃やしていたが、煙もうもうで狸が逃げていくので、煙の出ないモグサにしている。

【余談】四国の狸と喜左衛門

 狸を飼っているわけではない。ただし、昔からの因縁で霊的な狸が住み着いている。名前を「喜左衛門」という。今は神様として「大気味神社」に祭られている。
 四国は弘法大師の昔から狸が多い。屋島のハゲ狸、徳島は小松島の金長狸、松山のお袖大明神などがいる。詳しく知りたい方は井上ひさし氏の『狸鼓記』を読むとよい。ちなみに東京は江戸と言われた昔からお稲荷様が多い。
 余談が過ぎた。

坐骨神経痛の治療と取穴

 もう1つ灸頭鍼を多用する疾患がある。坐骨神経痛である。
 まず痛む部位を確かめる。そのときに少し押しても痛む場合は透熱灸がよい。しかし、少し押しても痛みは感じないが、確かにその部分が痛いと訴える場合がある。そのときに灸頭鍼を用いる。
 多くは環跳、或は裏環跳と言われる部位である。しかし、環跳穴には諸説がある。以下は筆者の取穴法である。
 伏臥してもらって大転子を探る。大転子から少し離れた部位(上に昇った所)を按圧していくと、痛む部位がある。ここに灸頭鍼を用いる。
 そのほか中膂兪、白環兪、胞肓、秩辺などにも圧痛が出ていることがあるので、これらにも灸頭鍼を用いる。
 灸頭鍼が終わると環跳と思われる部位に三寸の10番鍼を深く刺す。それでピリピリ響くようだと3日もしないで治ってしまう。
 或は坐骨結節のあたりから上に向けて刺すとピクンと得気をある。これがあれば1回の治療で治る
 なお、長い鍼を刺して、皮膚から離れた所でモグサを燃やしても少し温かいだけで意味はない。適度な厚さの紙を敷いて燃やすと、その紙が温まって周辺も温かくなる。これが効くのである。もし患者が熱いといえば、すぐに厚紙を先の紙と皮膚の間に差し込む。これで数座に厚さが軽減される。

刺鍼の技術と熱の伝え方

 その他の腰痛で問題なのは急性の腰痛、つまりキヤリ腰とかギックリ腰とか魔女の一撃と言われるものである
 これを発症すると全く動けないものから、なんとか歩けるものまで千差万別であるが、若い人の急性腰痛は1度の治療で治ることが多い。年齢が上がるごとに治療日数も多くなる。
 急性の腰痛に灸頭鍼を用いることはほとんどない。なぜなら患部の筋肉が緊張していて、鍼を刺すと痛みが激しくなる可能性があるからである。
 急性の場合は、とりあえず寸3のゼロ番鍼を1㎜くらいの深さで置鍼する。その上に知熱灸を施す。遠赤外線でもよいが、知熱灸は温めて陽気の発散を促進し、結果として筋肉の緊張を緩める。遠赤外線や温泉で暖めたあとは冷えることが多い。冷えると腰痛は悪化する。
 また、急性腰痛の時に押したり揉んだり電気マッサージ器にかかったりして悪化させる人が多い。
 腰痛だけでなく、寝違えでも脚や上腕部でも、筋肉の痛みを発症することがある。多くは使いすぎなのだが、これらに強刺激を与えると確実に悪化して自発痛が激しくなることがある。
 このような失敗を犯すのは、家庭で安易にマッサージ器にかかったりするのが原因だが、開業している鍼灸師や接骨院でも悪化させて治療に来る患者がいる。
 業界全体のことを考えると、鍼灸師が腰痛を悪化させるようなことがあってはならない。それはプロとはいえないのだが、残念ながら現実には多いのである。

接触鍼による弛緩とプロの心得

 急性の腰痛の人が来たら、いわゆる経絡治療でいう本治法を行なう。これだけで楽になる人がいるが、それで治らない人は、腰部の痛む部位を確かめて、その中から堅い部分を選んで、2番鍼でも3番鍼でもよいから、鍼先を堅い部分に接触して、数呼吸間、押手で固定する。それで筋肉が緩んだと思えば別の堅い部分に同じように接触鍼を行なう。
 このような刺鍼を行なうと筋肉が緩んで痛みが楽になり動けるようになる。決して焦ってはいけない。残りは翌日に治療すればよい。それで3日も治療すれば治るものなのである。
 しかし、多くの人は早く治りたいと願っている。仕事もある。そのために医師で痛み止めの注射を薬をもらって、仕事に行く。しかし、また同じような腰痛を発症する。そうして、その繰り返しが坐骨神経痛を発症させるのである。  腰痛や坐骨神経痛は鍼灸で必ず治る。いや治せる。それを多くの鍼灸師に実感して実行してもらいたいので、最近は地元の鍼灸師に見学させている。希望者はいつでも来ればよい。

執筆


池田 政一

池田小泉治療院 院長

1945年、愛媛県生まれ。1968年、明治鍼灸専門学校卒業。鍼灸は池田太喜男師に、漢方薬は荒木性次師に師事。鍼灸と漢方薬の理論と臨床の一致をライフワークとして研究を続け、国内外で講演活動を続けるとともに、多くの内弟子を育ててきた。元経絡治療学会理事・学術部長、経絡治療学会愛媛部会長、漢方鍼医会顧問、漢方陰陽会会長。漢方薬専門店を併設した鍼灸治療院「池田小泉治療院」(愛媛県今治市小泉)院長。
『図解鍼灸医学入門』『古典ハンドブックシリーズ(全五巻)』『伝統鍼灸治療法』『蔵珍要篇』『古典の学び方』『漫画ハリ入門』『経穴主治症総覧』『漢方主治症総覧』『臨床に生かす古典の学び方(上)』(以上、医道の日本社)など著書多数。

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