四診法による体質判別ー体質の見分け方と治療法―1

はじめに
伝統医術による体質は10種類ほどに分類できる。しかし、少し注意点があるので、最初にそれを述べておく。
まず急性熱病や急性の嘔吐下痢などは体質とは切り離して証を決定しないと間違って治療することになる。次に、高齢になって各種の腫瘍などの既往症や、高血圧症、糖尿病などの疾患を持っていて、西洋医学の薬を服用している場合は、持って生まれた体質とは切り離して治療することになる。以上のことを踏まえ体質の見分け方と治療について述べてみる。
1.肝虚体質者の性格・望証・病症
これは二種類ある。肝虚陰虚熱証体質と肝虚陽虚寒証体質である。
肝虚という意味は、肝の蔵している血が不足した、という意味である。
肝の血は必要に応じて使われている。目も、手足を動かすのも、頭が何か考えるのも、すべて肝の持っている血の力による。その血が無くなると、つまり肝虚証になると2種類の病態が現れる。
血は腎の津液を受けているが、腎の津液が不足し、血そのものも無くなって、血を循環させる栄気が停滞すると虚熱が発生する。これを肝虚陰虚熱証という。もし血を使いすぎて血も栄気も虚すと冷えが発生する。この状態を肝虚陽虚寒証という。
性格として何事も徹底的に、緻密に処理しないと気分が落ち着かない人がいる。たとえば編み物を始めても読書を始めても、最後まで決着しないと気持ちが悪いのである。このような性格の人は、仕事の処理も同じである。そうして、常にイライラしている。
しかし、頑張れば頑張るほど血を消耗する。それで虚熱が発生する。その熱は胆経に出てくる。胆経に出てきた熱は、少しは胆経から発散されるが、発散されない陽気は停滞して偏頭痛を発生させる。もちろん、少陽経(胆経と三焦経)の流れが悪くなるので肩こり、腰痛なども発生する。第一、血を消耗するから不眠にもなりやすい。そのほか食欲はあるが、やや便秘の傾向か出てくる。
以上のような性格の人は肝虚の中でも陰虚熱が発生しやすいが、耳の中輪(耳介の内側の隆起)が耳介よりも突出している。また眼が切れ長で細い感じがする。
この肝虚陰虚が行き過ぎると、というよりは持って生まれた体質が血の少ない人がいる。女性に多い。痩せ型で、低血圧で貧血がある。血も栄気も無くなって手足や全身が冷えてくる。もちろん仕事はやりたいが、直ぐに疲れてしまう。女性は月経過多などの不順が発生し、不妊症になりやすい。
このような女性は常に下痢っぽいが、月経時には必ず下痢になる。食欲はないが食べれば食べられる。これは胃腸が冷えて下痢や食欲がないのではないからである。
そのほか手足が冷えるから冬になると霜焼けができやすい。結婚しても子供ができにくいが、この体質者は性交渉そのものが嫌いである。この体質者の望診としての特徴は、肝虚陰虚の人と同じで耳に特徴がある。また必ず眼が小さいことである。もっとも眼の大きさは身体と比例するから、そのあたりの判断を間違うと失敗する。
2.肝虚体質者の治療
肝虚体質者は日本人に多いようである。むかしから日本人は勤勉だと言われた。要するに肝虚証が多い。これは気候がそうさせたのか、持って生まれた民族性かは定かでない。確かに暑い国の人たちが勤勉だと早く死亡するかもしれない。ゆっくりと動くし、仕事もゆっくりするようである。
通常、特別な病気がない腰痛、肩こりなどは肝虚陰虚熱証で治療してよい。1度の治療で軽減するはずである。
肝虚陰虚熱証の場合、経絡治療でいう本治法は陰谷、曲泉の補法が基本である。もし急性の腰痛なら曲泉の代わりに中封を用いるとよいし、中風病による顔面神経麻痺なら太敦を補う。
もし偏頭痛があれば足臨泣を補う。ただし、頸部の治療も必要なことがある。風池、翳風などに補法で単刺するのもよい。
もし股関節痛があれば丘墟を補う。ただし、少し深く刺す。
いずれの場合も背部に浅く置鍼するとよい。これは極めて浅く刺す。直ぐに抜けてしまってもよい。もし肩や腰の筋肉が凝っていると思えば知熱灸を用いる。 肝虚陽虚寒証は女性に多い。体質として貧血勝ちで低血圧で冷え性だが、体調がよいときは肝虚陰虚体質者と変わりなく仕事ができる。ただし、長続きしない。
常に腰痛があり、月経痛、月経過多、めまい、立ちくらみ、既婚なら不妊症もある。
この体質者は基本的に透熱灸がよい。ただ現代は、透熱灸は熱いし痕が残るといって嫌われる。病気が治るのだからよいではないかと思うが、それでも嫌がる人がいる。そのときは鍼治療になるが、少なくても1週間に1度は治療に来て、1年間は続けてもらわないと効果がない。これらのことを説明して納得して来てもらう。
鍼による治療は太渓、太衝、隠白の補法が基本である。太渓、太衝とも五行穴でいう土穴である。土は胃腸に関係するので、これらを補うと腎の津液や肝の血が多くなる。
隠白は脾経の経穴である。これは気鬱に効く。それも肝虚陽虚体質で、右関上の脈が沈、濇、細のときに補うと、太陰脾経の気の巡りがよくなって血が多くなり、結果として気鬱に効く。
腰痛は腎兪、大腸兪、腰陽関に透熱灸各7壮。これを1週間に1度はおこなう。ただし、月経時に施灸すると血熱になって頭痛が発生することがあるので休止する。
月経痛が発生しているときは三陰交に浅く置鍼すれば治る。ただし、続いて本治法も含めて全身の治療を行なわないと完治しない。
貧血は脾兪、腎兪の透熱灸を続けるとよい。
不妊症も続けなければ意味がないが、三陰交、外陵、大巨、腎兪、次髎の透熱灸(各10壮)で妊娠した人がいた。
以上。紙面の関係でここまでとする。肝虚体質を見分けるポイントは耳と目である。
執筆

池田 政一
池田小泉治療院 院長
1945年、愛媛県生まれ。1968年、明治鍼灸専門学校卒業。鍼灸は池田太喜男師に、漢方薬は荒木性次師に師事。鍼灸と漢方薬の理論と臨床の一致をライフワークとして研究を続け、国内外で講演活動を続けるとともに、多くの内弟子を育ててきた。元経絡治療学会理事・学術部長、経絡治療学会愛媛部会長、漢方鍼医会顧問、漢方陰陽会会長。漢方薬専門店を併設した鍼灸治療院「池田小泉治療院」(愛媛県今治市小泉)院長。
『図解鍼灸医学入門』『古典ハンドブックシリーズ(全五巻)』『伝統鍼灸治療法』『蔵珍要篇』『古典の学び方』『漫画ハリ入門』『経穴主治症総覧』『漢方主治症総覧』『臨床に生かす古典の学び方(上)』(以上、医道の日本社)など著書多数。





































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