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NSCAジャパンS&Cカンファレンス2022 ピックアップレポート 中本真也氏 & 鈴木岳.氏

公開日:2023年2月27日

2023年2月4日、5日の2日間、NSCAジャパンS&Cカンファレンス2022が昭和大学上條記念館にて開催された。ストレングス&コンディショニングの研究分野における各方面から専門家が集まり、会場には2日間合計で660人が来場した。また、オンラインにてライブ配信を行うハイブリッド形式により、間接的な質疑ができる方法がなされていた。オンライン配信の参加者は1,089人にのぼった。運動療法やフィジカルトレーニング、スポーツ栄養学などの分野における専門家や海外からのスペシャリストを招き入れての講演が行われた中で、本記事では、2講演をピックアップしてレポートする。

 2日目の最初の講演で、カナダで脳振盪を専門に活動されていた中本真也氏(CSCS, カナダ公認理学療法士、筑波大学人間総合科学学術院)が「S&Cコーチが把握しておくべきスポーツ脳振盪後の競技復帰プロトコル ~S&Cコーチの重要な役割と連携~」と題して登壇。中本氏は冒頭で、脳振盪について一般的には頭を打つことで引き起こすと考えがちだが、肩同士の激しいぶつかり合いなど頭部以外のフィジカルコンタクトで生じるケースや、柔道の投げ技を受ける時のように、急激なスピードの変化から遠心力の影響によって起こるケースがあることを説明。また、意識の喪失は脳振盪であるかどうかの判断基準にはならないこと、症状自体が見た目では判断するのが難しいことを伝えた。

S&Cコーチの力、存在がスポーツ選手の脳振盪後の競技復帰に重要な役割を果たしていると語りかけた中本氏

 MRI/CTスキャンの画像診断で異常を確認できることは少なく、悲しみ、怒りなどの感情や態度の変化、頭痛、吐き気などの身体的変化、さらに睡眠や思考力低下といった心理的 なサインを見る必要があるが、脳に衝撃を受けた直後にサインや症状が表れないケースもあり、医療従事者が使用する標準的な評価ツールであるSCAT5(Sports Concussion Assessment Tool:スポーツ脳振盪評価ツール)やVOMS(Vestibular Oculo-Motor Screening:前庭動眼スクリーニング)を用いることを推奨し、その評価方法について触れた。選手は段階的なプロトコルを経て競技に復帰するが、プロトコルに従うことと症状の改善、機能低下に対するアプローチは整理しておく必要があると注意喚起し、何がトリガーとなって症状が誘発されているのか、トレーナーやセラピストをはじめとするメディカルサイドと密接に連携を取り、運動によって症状が誘発された場合は、即座に運動を中止することを頭に入れておく必要があると促した。運動を中止する目安としては、症状を0(無症状)から10(重症)で表した場合、症状が3段階増加した点を基準とし、レジスタンストレーニングを試す際は症状をしっかりモニタリングしていくことの重要性を述べた。一昔前まで言われていた急性期以降も絶対安静を続けることは回復の助けにはならず、軽度の有酸素運動から試みるというDr. Leddyの国際スポーツ脳振盪会議で発表した研究結果を例に出し、できる範囲で運動を開始することの必要性も強調した。

レジスタンストレーニング(筋肉に抵抗をかける運動)における安全な負荷から開始して症状をモニタリングすることの重要性について述べ、トレーニング時のスピードや運動様式についての受講者の質問に答えていた

 続けて行われた講演「東京2020選手村フィットネスセンターの活動とこれからのトレーニング指導者のあり方」では、ポリクリニック(総合病院)との連携、円滑なトータルコンディショニングオペレーションを考慮したトレーニング機器選定と空間デザイン、アスレティックトレーナー(AT)およびストレングスコーチ(SC)によるアスリートサポートの3つの取り組みをテーマに鈴木岳.氏(Ph.D., ATC, CSCS, 株式会社R-body)が教鞭を執った。

ハイパフォーマンスからライフパフォーマンスへ落とし込むためのトータルコンディショニングの一員となることでSCの職域が創造されると展開した鈴木氏

まず初めに、医療連携によるトータルコンディショニングサポートのフローを提示した。

<医療連携によるトータルコンディショニングサポートのフロー>

DrによるMedical(診る)

       ↓

PTによるPhysiotherapy(治す)

       ↓

ATによるAthletic Training(整える)

       ↓

SCによるPerformance Enhancement Training(鍛える)

 上記フローを確認したうえで、最後の項目となるSCで締める流れを形成していくこと、さらに4つのファンクションをいかに機能させるかが重要と述べた。アスリートファーストの視点で環境整備された成功例が2020年東京オリンピック・パラリンピックであると解説。4つのファンクションが一貫したプログラムとして実現した結果を振り返った。医療の観点では、3つ目のATまでが一連の手順と考えられ、一般的にはDr→PTまでが医療とみなされるため、その先につながらない。実際にひとつの建物内にパフォーマンスエリアやコンディショニングエリアを設けた施設で、利用者が使用している動画をスライド上映し、一施設でDr→PT→AT→SCを完結している完成形を共有した。トータルコンディショニングサポートのためには、DrからSCまでそれぞれの分野のエキスパートが各々のスペシャリティを高め、役割をまっとうし、さらに自身の職域ではない他の役割に少し足を踏み入れて知識を広げ、一定の理解を得ておくことで単なる役割分担だけではなく連携をすることが重要であると述べた。そして、各分野のエキスパートのディレクターとなることが今後のトレーニング指導者のあり方と示唆した。

伸展型腰痛へのコンディショニングエクササイズプログラムとして、足関節背屈へのアプローチ、胸椎伸展へのアプローチ、股関節伸展へのアプローチの一連の動作をスクリーンに投影し、紹介した

 エントランスホールにて記念Tシャツなどを配布。入り口から直通の1Fホワイエでは協賛企業14社による展示ブースが並列し、講演ホールに向かう参加者の目に留まっていた。また、4Fホワイエではポスター発表が行われた。

エントランスホールから続くホワイエに設置された協賛ブースの様子

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