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鍼灸での有害事象を減らし、鍼灸のファンを増やす-鍼灸での有害事象の防止について-(第2回/全3回)

公開日:2026年10月8日

1.はじめに

 第1回目は、鍼灸での有害事象を減らし、鍼灸のファンを増やすための方策として、三次元で局所解剖をイメージする必要性と固定概念にとらわれないこと、刺鍼による有害事象防止に向けた神経炎、胸骨裂孔、頭頂孔について、かつて本誌に投稿した内容を基に私見を述べた。今回は、刺鍼で両側性肺気胸を起こし死亡に至った事例を検視した法医学者との対談などから、肩井・膏肓両穴の安全刺鍼深度、夾脊穴の薦めなど、刺鍼の安全性について述べる。

2.両側性気胸の死亡例について法医学者との対談から

 鍼灸治療効果以前に安全・安心な治療であること。鍼治療による有害事象の中でも、特に注意をしなければならないのが気胸である1・2)。

 1996年、奈良在住71歳女性が肩こりで鍼灸受療、刺鍼により両側性気胸を起こし死亡した。ご遺体の検視を担当した奈良県立医科大学法医学教室教授 羽竹勝彦氏と筆者は本誌企画で対談を行った3)。その中で、羽竹氏は「検案の結果、肺には背部下部の高さに2か所、左右の約1㎜の大きさの点状の穴が開きその周囲の出血を認めた。体表の出血部位と一致し、鍼が肺まで到達したことを確認された。」と語った。

 この言葉は我々鍼灸師に以下の教訓と示唆を与えている。

 ①司法解剖で刺鍼と気胸の因果関係が明確化する。
 ②肺野領域、特に背部下部をイメージすること。
  肺の下葉の下縁は安息時に第10胸椎棘突起の高さにあり、吸息時にはさらに下がる。
 ③刺鍼の安全深度を知ること。
 ④鍼灸師は肺野領域で深刺すれば気胸を発症する可能性があることを予見し、
  回避すべく技能及び知識を充実させる義務がある。
 ⑤刺鍼部位等カルテの記載で気胸事例は減少する(施術が誘発要因でないことを証明できる)。

3.気胸回避への安全な刺入

 肩甲上部~背部の刺鍼は、深度を間違えば気胸を発症させる可能性がある。そこで、臨床上使用頻度の高い肩井穴、膏肓穴、膀胱経1行線と2行線の経穴、および夾脊穴の安全刺鍼について述べる。 

1)肩井穴

ご遺体で検証した右肩井での体表に対して垂直方向への刺入鍼は、僧帽筋の上縁部を貫通後、肩甲舌骨筋下腹の内側縁を通り、前鋸筋の最上位筋束を貫通後、後斜角筋、第2肋骨に達した。体表-肋骨間距離は48㎜(図1a)。




MRIの対象者44名、肩井穴を通る冠状断面像上で体表-肺間距離を計測した結果、49±7㎜、最小値は35㎜であった。

32歳女性(身長168㎝、体重53㎏、BMI19)の肩井穴での体表と垂直に刺鍼し骨に当たった状態で撮影したX線画像を見ると、鍼は第2肋骨に到達しており、体表-肋骨間距離は左側29㎜、右側25㎜であった(図2)4・5)。

また、別の男性21名・女性20名、合計41名の両側肩井の体表と垂直に20~25㎜程度刺鍼した結果、肋骨に当たる例は、男性ではゼロ、女性の痩せ型の5例と肥満型・標準型の各2例の計9例に認められ、体表-肋骨間距離は17~32㎜、平均24.8±5㎜であった5)。

以上の結果から、肩井穴での体表に垂直な刺鍼では、極端な痩せ型以外は20㎜以内の刺入が安全と考える。体表に垂直な刺鍼に自信がない方は「つまみ鍼」を推奨する。というのも僧帽筋を摘まむも肺をつまんでいないので気胸の可能性は、ほぼ0に近いと考える。

2)膏肓穴6)

 ご遺体の膏肓穴で体表に対して垂直に鍼を刺入し、刺入鍼と周辺の解剖構造との関係を検討した結果、僧帽筋、大菱形筋、腸肋筋を貫通後、第4肋骨上に位置した。別のご遺体での刺入鍼は第5肋間に位置した。肋骨の厚さは10㎜であり、体表-肋骨前面間距離は34㎜、体表-肺間距離は44㎜であった(図1b)。

 健康学生104名を対象に、肩関節90度外転の伏臥位で、左膏肓穴を中心に頭尾方向各10㎜以内にディスポーザブル鍼40㎜・18号を体表から垂直方向へ刺入し肋骨へ鍼先を当てた状態で鍼体長を計測し、体表‐肋骨間距離を算出した。その結果、体表-肋骨間距離の平均値は、男性肥満25.1±5㎜、標準20.2±3㎜、痩せ型18.8±2㎜、女性肥満21±3㎜、標準16.8±3㎜、痩せ型17.4±2㎜であった。また、最小値は男性肥満型で15㎜、女性肥満型で18㎜、他の体型で14㎜であった(図3)。

 また、健康男性(標準型22歳、身長171㎝、体重64㎏)の両膏肓にディスポーザブル鍼50㎜・24号を刺入しCT画像により体表-肋骨間距離、肋骨の厚さ、体表-肺間距離を計測した。刺入鍼は左側で肋骨に、右側で肋間に位置し、左側での体表-肋骨間距離は22.7㎜、肋骨の厚みは10.9㎜、体表-肺間距離は33.6㎜。右側では体表-肺間距離は28.4㎜だった(図4)。

 以上のことから膏肓穴における刺鍼では、鍼先が肋骨に当たる状態であれば気胸を起こす可能性はないといえる。仮に鍼が肋間に位置したとしても、肋骨の厚さの約2分の1および体表-肋骨間距離の最小値より勘案すれば、極端な痩せ型を除き、19㎜以内の刺鍼であれば安全と考える。

3)膀胱経1行線、2行線、夾脊穴7)

 膀胱経1行線の経穴は、解剖学的には横突起上や肋骨頭に位置し、内方への斜刺は気胸のリスクを軽減する。膀胱経2行線の経穴では、内方、外方いずれであれ鍼先が肋骨に当たれば問題はないが、肋間であれば肺に到達する可能性があり気胸のリスクは高まる。

 よって膀胱経2行線の経穴での刺鍼は、①刺鍼付近で肋骨を触診する。②患者の体表‐肋骨間距離を念頭に置き、肋骨に鍼先を当てる。鍼先が肋間に位置した場合、体表‐肋骨間距離+5㎜(肋骨の厚み10mmの2分の1)以内に止める。

 胸郭の背部に刺鍼する場合の気胸の防止には、

 ①鍼長15㎜以下(肺に届かない長さ)の鍼を使用すること。
 ②鍼長50㎜以上は使用しない。
 ③鍼長40㎜を使用する場合、刺鍼時、必ず押手の幅を確保し、刺入深度の基準とする(図5)。
 ④膀胱経1行線、2行線での刺鍼に自信がなければ、夾脊穴での刺鍼を薦める。
  夾脊穴は局所解剖的には、肺の内方で、最終的には椎弓に位置することから、
  刺鍼による外傷性気胸の可能性はないと考える。

4.まとめ

 刺鍼による気胸を防止するためには、局所解剖のイメージと安全な刺鍼方向や深度を知ることが必要である。膀胱経の1行線の経穴への刺鍼方向は、内方への斜刺を心がける。2行線の経穴であれば、まず刺鍼点近傍で肋骨を触診し、肋骨を狙って鍼先を当てるようにすることで気胸の可能性は皆無となる。問題は鍼先が肋間に位置した場合である。肋間の場合、刺入が患者の体表-肋骨間距離+5㎜以内であれば、鍼先が肺に到達することはない。

<参考文献>

1)尾﨑朋文.鍼灸医療事故、有害事象対策、鍼灸医療安全ガイドライン.2007.109-114.
2)尾﨑朋文,吉備登,米山榮他.鍼灸医療事故の事例、鍼灸医療安全対策マニュアル.東京.医歯薬.2010.87-119.
3)羽竹勝彦,尾﨑朋文.声なき遺体が語る気胸事例.神奈川.医道の日本.2011;819.146‐153.
4)尾﨑朋文,于思,北村清一郎他.刺鍼の安全性についての局所解剖学的検討(3)‐遺体解剖および生体でのMRI・X線画像より見た肩井穴への刺鍼の安全な方向と深度について‐.神奈川.医道の日本.1994;53-10.25-36.
5)尾﨑朋文.安全な刺入深度を知ることが医療事故防止の基本である.神奈川.医道の日本.2004;732.137‐143.
6)尾﨑朋文,坂本豊次,北村清一郎他.膏肓穴刺鍼の安全深度の検討.全日本鍼灸学会誌.2002;52-4.413-420.
7)尾﨑朋文,「医道の日本」との思い出と鍼灸での有害事象の防止について.神奈川.医道の日本.2020;922.38-44.

執筆


尾﨑 朋文(おざき・ともふみ) 



<尾﨑朋文先生 プロフィール>
1977年 9月 大阪鍼灸専門学校(現 森ノ宮医療学園専門学校) 卒業
2002年 4月 全日本鍼灸学会研究部経穴委員会委員
2008年 3月 近畿大学通信教育部法学部卒業
2013年 4月 学校法人森ノ宮医療学園 理事(2025年3月迄)
2022年 4月 全日本鍼灸学会指導鍼灸師
森ノ宮医療大学 医療技術学部鍼灸学科(2026年3月迄)
森ノ宮医療大学 客員教授
尾﨑朋文針灸院

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座受託研究員、全日本鍼灸学会会員、日本鍼灸師会会員 日本小児はり学会会員

1995年 代田賞受賞「刺鍼の安全性についての局所解剖学的検討」

2004年 全日本鍼灸学会高木賞奨励賞受賞「膏肓穴刺鍼の安全深度の検討-遺体解剖および生体での臨床所見・CT画像における検討-」

社会貢献:1991年~2025年(35年間)神戸視力障害センターにて「鍼灸でのリスク」等講演を行うなどの活動も行っている


仲村 正子(なかむら・まさこ)


森ノ宮医療大学 医療技術学部鍼灸学科

<仲村 正子先生 プロフィール>
2016年3月 浜松大学(現常葉大学)卒業
2018年3月 明治国際医療大学大学院 修了
2018年4月~森ノ宮医療大学医療技術学部鍼灸学科 専任講師
2018年10月~大阪大学 歯学部口腔解剖学第二教室鍼灸柔整理学解剖グループ 所属
2022年7月~全日本鍼灸学会 臨床情報部安全性委員会 委員
2022年10月~全日本鍼灸学会 経絡経穴委員会 委員
2025年4月~大阪大学大学院歯学研究科系統神経解剖教室 受託研究員

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