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新刊「陰陽太極鍼テキスト」のご紹介。柳本真弓先生へお伺いしました!

公開日:2022年4月29日

著者である吉川正子先生が多くの臨床経験を経て開発し、難病、慢性疾患、不定愁訴などさまざまな問題を抱える患者への治療に有効な陰陽太極鍼。吉川先生のセミナーに参加されたことがある方も、実際に施術に取り入れている治療家の方も多くいらっしゃるのではないでしょうか

このたび、その理論と技術を、多数の症例とともにまとめた、待望の書籍「陰陽太極鍼テキスト」を出版しました。この記事では、

「陰陽太極鍼とは?」

「いったいどのような内容の書籍なのだろう?」

と気になっている治療家の皆さまに向けて、ご紹介いたします。

本書籍の撮影にもご協力いただきました、目白鍼灸院院長の柳本真弓先生にもインタビューに答えていただきました。陰陽太極鍼について、多くの治療家の方々に参考になる貴重な内容になっていますので、ぜひご覧ください。

新刊書籍「陰陽太極鍼テキスト」について

本書は、陰陽太極鍼の特徴の説明から始まり、理論編では、「気の医学と陰陽論」や「東洋医学と西洋医学理論」および「刺さない鍼がなぜ効くのか」といった解説、

技術編では、身体の変化や違いをより明確にとらえるための診察と治療の進め方を一定の手順とし、わかりやすくまとめられています。そして、最近の症例が豊富に掲載されていて、施術の手順と、症例に対する具体的な治療箇所を実際のカルテとともに具体的に解説されています。

吉川先生によると、陰陽太極鍼治療の基本は、どんな病気や症状であっても、「患者の気の状態(陰陽のバランス)をいかにして正常な状態にするか」という一点につきるとのこと。

「陰陽太極鍼」の最大の特徴の一つは臨床経験の長さに関わらず、手順を守って治療をすすめれば初学者でも効果が出せるようになるという点です。また、古典も大事にしつつも、決して古典にとらわれすぎず、臨床から得た結果(効果)を第一と考える施術方法は、流派を超え、レベルアップを考えている施術者にとって、大いに参考になり役立つ施術の一つではないでしょうか

本書から、古典を読まずとも要点がわかり、理論だけではおわらせず、臨床で即日取り入れることができる施術を学習、習得できます。日々の治療における教科書であり、実用書でもあり、さらに知識を深め、技術を磨くきっかけとなるような1冊です。

著者 吉川正子先生の紹介

1942年熊本市生まれ。東京女子短期大学部英語科卒。(株)伊藤忠商事に入社。中国語を学び、中国の書籍『はだしの医者教材』を友人と翻訳出版。1976年、東京で「東方鍼灸院」を開院し、1981年に北海道帯広市に移転。1987年より『中医雑誌』を夫と共に翻訳出版。1998年、世界鍼灸学会連合会バルセロナシンポジウムで「陰陽太極鍼法」を発表し、優秀賞を受賞。その後も国内外にて多数の論文発表や寄稿、講演会出演を行っている。東方鍼灸院では、国内外から研修生を受け入れて後進の指導を行っており、その総数は300名を超えます。

陰陽太極鍼とは

本書で解説する診察法、切経法、探穴法、王不留行(おうふるぎょう)(植物の種子)・皮内鍼を貼付する治療、温灸・耳鍼による治療まで含めた、一連の人体の陰陽を包括的に整える治療全体をさします。

治療のおおまかな流れは、「診察」「切経(開穴を探す)」「補瀉の決定」「施術」となっており、本書で詳しく解説しています。

中医鍼灸の優れた点(東洋医学の源流ともいうべき中医学理論に沿って病因病理を診察し、治療を組み立てて行くところ)と、日本伝統鍼灸の優れた点(腹診などの触診を重視し、鍼の効果を一本一本確かめながら体内の変化を確認して行く繊細な手技を行うところ)を融合させる作業によって開発された施術法が「陰陽太極鍼」です。

陰陽太極鍼の特徴

1、初学者でも習得できる
2、患者の主観第一の診察法で、異常のある経脈・臓腑を的確に把握
3、軽くなでる切経法で、反応の出ている経穴が見つかる
4、補・瀉を的確に判断し、確実な施術ができる
5、貼るだけの施術は侵襲がなく患者に優しい
6、施術に即効性があり、その効果を確認できる
7、施術の効果を患者も実感できる
8、あらゆる病症に対応できるー難病や未病治にもー
9、耳鍼や温灸などで治療効果を補強
10、鍼灸の古典が語る哲学・理論を実践

このような治療家のみなさまにおすすめの書籍です!

  鍼灸師としての経験は浅いが、すぐに効果をだせる技術を身に付けたい治療家

 効果を出すことに行き詰まりを感じている治療家

 決め手となる施術を探している治療家

 治療の幅を広げたい、レベルアップを考えている治療家

 理論は得意だが、実際の施術につなげられない治療家

 具体的な施術方法を知りたい治療家

柳本真弓先生へお聞きしました!

陰陽太極鍼と本書をさらに深く読み解くために、著書の撮影にもご協力いただいた目白鍼灸院院長の柳本真弓先生にいくつか質問をさせていただきました。

――柳本真弓先生のご紹介

目白鍼灸院院長。東京衛生学園卒業。鍼灸あん摩マッサージ指圧国家資格取得。吉川正子先生の北海道東方鍼灸院で研修、吉川正子先生の陰陽太極鍼を学ばれ、リンパドレナージ講師を勤め、著書も多数、雑誌やメディアでもご活躍中です。

――柳本先生が、数ある施術方法から、陰陽太極鍼に魅力を感じた理由、出会いやきっかけを教えていただけますでしょうか。

北海道に素晴らしい先生がいるという話は学生だった頃から鍼灸学校の先生に聞いたりしていました。しかし、北海道は遠く、そのような先生もいるのだなというくらいの感覚でした。

鍼灸学校を卒業して、鍼灸整骨院で働き始めた私は、あちこちの勉強会にお邪魔させていただき色々な治療法を学びながら少しずつ経験を積んでおりました。鍼灸学校や勉強会で学んだことを試したり、本を読んだり、治療院の先輩に教わったり、2、3年手探りで治療を続けていました。

ただ、多くの方が経験されると思うのですが、行き詰まりを感じ、確かな自分の核となる技術が欲しいと思うようになってきました。自分の続けている方法では鍼の上達はあまりにも遅く、鍼灸師として長く生きていくことに不安を強く感じていました。師匠の下でしっかりと経験を積んで、一つの流派と呼ばれるものを自分のものにしたいという想いが日に日に増していました。

そこで長期研修生を受け入れていた吉川正子先生のところに、まずは治療見学をお願いしました。凄い先生だという噂だけは聞いておりましたが、吉川先生の臨床を全く見たこともなかったからです。

結論から申し上げますと、見学したその日に長期研修をお願いしようと強く思いました。

吉川先生の臨床は私にとって驚きの連続だったからです。8台のベッドがずらっと並んだ治療院には患者さんが常にいっぱいで、先生は落ち着きと自信に満ちて治療をされておられました。まず一番驚いたのは先生の治療法、というより患者さんの反応です。サクラ…?と疑うほど皆さんが良くなっていかれるし、感謝の気持ちをあらわされておられました。

先生の施術はソフトなもので、当時まだごくわずかに鍼を刺入されていた頃でしたが、刺激は柔らかく心地よさそうなものでした。当時の私はマッサージと鍼とを比べたら、患者さんというものは皆さんマッサージを選ぶに違いないと思っていたのです。その頃の私は鍼の治療効果を信じきれていませんでした。

そして、もう一つの理由は現実的なものです。もし、師匠が素晴らしい技術を持っておられても、その技術が習得しづらく、私のような凡人には真似できないものであったら意味がありません。この点も革命的な治療法でした。なんと、選穴・取穴・施術順まで全て患者さんに尋ねるというあり得ない程簡単な治療法だったからです。

そして最後にこれもかなり現実的というか、治療家にとっての死活問題ですが、どんなに素晴らしい技術でも患者さんがいらっしゃらなかったら大変です。その点研修された方々(兄弟子たち)はそれぞれ開業されて成功されておられました。

2005年から約2年間長期研修をさせていただきました。その後開業した後もほぼ毎年東方鍼灸院を訪れ短期研修を受けてきました。吉川先生はお会いするたび技術の進化、新しいツボや施術方法を確立されておられました。

この『陰陽太極鍼テキスト』は先生の長年の歩みをまとめられた一冊になっています。

首周六合診-5つの診察法より
腓腹筋診-5つの診察法より
切経-開穴を探す

――陰陽太極鍼で患部とは逆側または遠隔に施術をする際、患部を触って欲しいと思っている患者さんへどのように説明または、対応をなさっていますか?

吉川先生は特に説明をされておりません。

私自身も始めから詳細に説明することはしないことが多いです。『テキスト』に書かれている手順で施術を行うと、患部より先にまず他の圧痛点や硬結が消失し体が変化するのを患者さん本人がお気づきになります。

遠隔の鍼が効くという感覚を患者さんご自身が驚きをもって体験されるので、あまり細かい説明は必要ないことが多いです。 また、万が一主訴となっている患部に変化が起こらない場合でも、鍼の施術によって身体の変化は感じることができるのでその場で患部局所が変化しない時も治療を続ける強い動機が生まれます。

--陰陽太極鍼で施術の際、同じ経穴の両側を同時に施術する場合はありますか?例えば、三陰交にお灸をしたい時などです。

お灸に関して言えば、経穴が陥下している、冷えている場合には両側を同時に施術する場合はあります。 その場合でも温灸を当ててみて左右どちらが冷えているかを確認したり、直接灸の場合は熱さを感じるまで据え、何壮で感じたかを確認しつつ適度な刺激を与えます。

――陰陽太極鍼で施術する際に、心がけていること、または気をつけなければいけないことがありましたら教えてください。

患者さんに教えてもらう、一緒に治すという態度が最も必要だと思います。

吉川先生もしばしばおっしゃることですが、患者さんと一緒に治療をすすめていくと、施術者側も患者さんも体がどんどん変化していくのがわかるので、それを共有することで自分の症状が良くなる希望を持つことができます。殆どの方が、最初の治療の最中からご自身の体の変化を感じられ、希望を持たれます。

この治療法は患者さんの体表感覚を大切にし、というよりむしろ患者さんの言う通りに治療を進めていきますので、施術者も患者さん自身も治る力と身体感覚を信じともに同じ方向に進むことができます。どの治療法でも同じなのでしょうが、特にこの陰陽太極鍼ではその点が大切な気がしております。

気をつけなければならないこととして、患者さんの体表感覚を頼る方法なので施術側の圧痛を調べる時の圧やツボを探るタッチを常に一定に保てる様な訓練が必要かと思っています。

バイアスがかからないようにもしなくてはなりません。 基本的な経脈の走行や経穴の位置はおさえつつ先入観なく患者さんに教えていただくという気持ちが大切です。

――柳本先生が実際に陰陽太極鍼を用いて、効果を感じた印象的なエピソードがありましたら教えてください。

印象的なというか、いつも不思議に思うことですが、患者さんに補瀉の別まで尋ねる治療法なのです。もしかして私の中で無意識に思い込みがあり、それが手に現れて患者さんに伝わっているのではと思うほど、患者さんは補瀉をはっきりとおっしゃいます。

たとえば実証の場合、多くの場合が患者はツボを指定された後、瀉の刺激を指定されます。瀉的な刺激はあまり長時間行うべきでは無いと、吉川先生はいつもおっしゃっているのですが、確かに置鍼時間が長くなってくると患者さんが冷えてくるような感覚や違和感をえられたりします。

補瀉の別のみならず置鍼時間も患者さんに尋ねますが、はっきりとお答えになる方が殆どです。

――逆に、陰陽太極鍼で不向きと感じたことや、難しいと思った疾患や体質、状況などがもしありましたら教えてください。

陰陽太極鍼はオールマイティです。どのような症状にも効果が出ます。

不向きと感じる体質といえば、体表感覚にあまりに鈍感なタイプの患者さんです。患者さんの触覚に頼る治療法なので、どの領域の皮膚も極端に鈍感なタイプだと選穴のしようがありません。

ただ、そのような場合でも患者さんの体表への感覚は敏感になってくるように変化することがあります。患者さん自身の感覚の目覚めであったり、施術者の触り方を少し工夫すると問題なく患者さんがツボを選ぶことが出来てきます。

逆にあまりに体表の感覚が過敏な方もいらっしゃいます。その場合は百会などの経穴を刺激すると落ち着く方もいらっしゃいます。また切経の圧を工夫するなどしています。

――本書にはない疾患、例えば不妊治療に応用する際、どのような選穴が考えられますか?

不妊治療もぎっくり腰も手順は同じで、施術する側から「選穴する」という能動的働きかけは殆どありません。この治療法は、全く同じ手順によってほぼすべての症状の治療が出来ます。

素晴らしいと同時に恐ろしいことですが、中医学その他鍼灸の基礎知識がゼロの状態でも経穴と経脈さえ知っていれば問題なく治療を勧められます。文字通り患者さんに「尋ねていくのみ」です。

その結果取穴を進めてカルテを見直すと、不思議ときちんと弁証を行ったような配穴になっています。余計な知識などむしろ必要ないと思うほどです。

その意味で鍼灸の経験が浅い人にも大変入りやすい治療法ですし、東洋医学の知識が充分備わった方にも興味深い治療法だといえます。

実際ここ15年で、研修生が患者さんを一人で治療できるまでの日数は相当早くなっています。

鍼灸学校を卒業したての鍼灸師が一通り治療できるまであまり時間がかからないという事は経験をそれだけ早くつめるという利点があります。 また、刺入をしないという特徴がありますので熟練された刺鍼技術は必要ないですし、感染症などのリスクも低い安全性が高い治療といえます。

――陰陽太極鍼の施術と、それ以外の施術(毫鍼使用、マッサージ等)はどのように使い分けていらっしゃいますか?吉川先生の場合と柳本先生の場合、両方またはどちらでも教えていただけますでしょうか?

吉川先生の場合は全て陰陽太極鍼です。
私の場合は様々です。鍼に恐怖心がある人、鍼が初めての人は陰陽太極鍼を選択することが多いです。
鍼の刺激が好きな方で刺してほしい方でも、陰陽太極鍼は取り入れます。

たとえば首のコリを取る場合は、ほとんどの場合が手足のツボに王不留行をはるだけで変化します。
陰陽太極鍼を試して、そして取り切れないという時に局所に鍼をしたりすることもあります。
毫鍼の使用は吉川先生も以前は毫鍼を使用されておられたので、王不留行と全く変わらず使用しています。

私は鍼の軽い響きが好きなので、響かせたりすることもありますが、人によって使い分けています。
部分的に取り入れることもできますし、全部を手順通りに使うこともできます。

もし現在他の療法をメインに治療されているのなら、陰陽太極鍼を部分的に取り 入れる提案としては

・ツボを選ぶとき補瀉の方向を患者さんの皮膚感覚を頼りに行ってみる

・刺入するのではなく、鍼を「置く」だけにしてみる

・募穴診をとりいれて、刺針前後に変化があるかどうか確認してみる

・募穴診と同様に、首・ふくらはぎなどの圧痛確認を入れてみる

・陰陽太極鍼法(陰陽表裏をひっくり返す刺針法)のみとりいれるなど、局所の刺針を取り入れてみる

など、色々な方法が考えられると思います。

――お忙しい中、貴重なご回答をありがとうございました!!

いかがでしたでしょうか。柳本真弓先生のインタビューからも陰陽太極鍼に興味を持っていただいた方も多いのではないでしょうか 「陰陽太極鍼テキスト」は、陰陽太極鍼についてのノウハウを惜しげも無く解説した貴重な一冊です。まさに、著者である吉川先生の言葉「私にとっての最大の関心事は、鍼灸の効果が確認されたならば、その治療法を標準化し、多くの鍼灸師が追試することで、一人でも多くの患者にその効果を享受してもらうことなのです。」が集約されています。ぜひご活用いただきたい1冊です!

ページサンプル

P.80 側臥位での診察と治療の基本手順

ページサンプル

P.81 開穴(治療点)を探して治療する

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