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あはき臨床 現場のリアル『経営危機の乗り越え方』

森の治療院(東京都台東区浅草橋)

あはき臨床の現場には、それぞれの特徴や事情がある。一人で切り盛りする院もあれば、大勢の従業員を雇用する院もある。繁盛しているところ、廃業の危機に瀕しているところ、一貫した治療法を用いる治療院、多様な手法を採用する治療院。どんな形態であれ、「経営」の側面を、当然考慮しなければならない。そんな街の治療院の現場で起きている「リアル」に迫るのが本連載である。

第1回は、東京の浅草橋で開業19年目を迎えた「森の治療院」にスポットを当てる。院長の山内誠一郎氏については、2009年9月号掲載の箕輪政博氏による「鍼灸師のためのライフワーク指南」で紹介したことがある。あれから9年。近所では、整体やカイロプラクティックなどリラクゼ―ション店舗の開業が相次ぎ、生き残るための経営術を模索する山内氏の姿があった。

「森の治療院」院長の山内誠一郎氏は、早稲田大学法学部を卒業後、三井物産に就職。4年間の勤務後、退職して1994年に国際鍼灸専門学校に入学。1997年に卒業したあと3年間の治療院勤務を経て、2000年に現在の場所で開業した。山内氏が商社マンとしてのエリート街道を捨て、あはきの道を選んだ理由や、浅草橋という地に治療院を構えた理由などは、今号から連載する山内氏の「人を送り出す治療院」(→『医道の日本』2018年11月号p.112)を読んでいただくとして、治療院に最大の危機が訪れたのは今から6年前の2012年。スタッフが一人、また一人と辞めていき、ついに最後の一人までもが辞意を表した。山内氏は開業12年目にして初めて「院を畳まなければならないのか」と覚悟をしたという。

この危機を、山内氏はどうやって乗り越えたのか。

「スタッフが離れていったことを『これが現実なのだ』と受け入れ、自身の何かを変えることで改善を図りました。ここで『いや、そんなはずはない。このままで正しいはずだ』と旧態に執着すると、再起できないほどの手痛い打撃を受けることになります」

山内氏が打った起死回生の一手は「鍼灸師を育てる」ことへの転換だった。2012年10月の本誌に、次のような求人広告を掲載する。

「『食える鍼灸師』を育てることを最大の目標とします」

「スタッフが辞めない治療院にするにはどうしたらよいのか」を考えた結果、逆に「スタッフを育て、開業へと送り出す治療院を目指す」ことにした。このとき採用された3人のうちの一人が、今年で森の治療院勤務6年目となる渡辺佳吾氏。在籍中の4人のスタッフのなかで最も古株となった。近々開業予定で、物件を探している最中だという。

【スタッフが治療院を進化させる】

渡辺氏は2011年に日本鍼灸理療専門学校を卒業し、あはき師免許を取得した。学生時代は鍼灸院でアルバイトをし、免許取得後2年間同じ鍼灸院で勤務を続け、計5年の区切りで「ほかの治療院でも経験を積みたい」と退職。森の治療院の「食える鍼灸師を育てる」という求人広告のフレーズに魅力を感じて応募、採用されて今日に至る。

渡辺氏にとって、山内氏は「本当に院長なのかなと思ってしまうくらい、従業員と同じ目線に下りてきてくれます。驕らないし、いつも冷静。尊敬できる存在」とのこと。一方、山内氏は、渡辺氏はじめスタッフの進言に耳を傾けることを重視している。スタッフの提案でホームページのリニューアルを実施したところ、大きな集患効果を上げたことがきっかけだった。「今のことは今をよく知る若手スタッフこそがベストコンサルタント」。これが山内氏の経営セオリーの一つとなった。実は、長野式治療を本格的に導入したのも、渡辺氏の提案による。

スタッフは全員開業を目指しているので、開業するために自分は何が足りないか、治療院をよりよくするためにどうすればよいのかを自分自身で考えるようになる。競争しながらそれぞれを高める「指名レース」なるものも取り入れている。

「院長は、何かあったときにアドバイスをくれますが、基本的に放任主義で、一歩ひいてみています。1から10まで任される以上、日々準備して、空いている時間を有意義に使って結果を出さなければ患者さんに迷惑がかかるし、ほかのスタッフとの差も大きくなります」と渡辺氏。

森の治療院は「人を送り出す」ことに転身してからというもの、「人」によって変化と成長を続けているといえる。それは開業という共通の目標に向かい、スタッフ同士が互いに切磋琢磨する結果にほかならない。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2018年11月号」でお読みください。