メンズヘルス鍼灸の現状とその将来展望

本城久司 氏

【Ⅰ. はじめに】

「メンズヘルス鍼灸」と聞いて、どれほどの読者が既知の言葉として認識するでしょうか? 実は、「メンズヘルス鍼灸」というのは私の造語なのです。男性ホルモンに関連する疾患を研究する「メンズヘルス医学」を鍼灸に置き換えることにより、私たちもこうした疾患概念を知り、考え、対応すべきであるという信念に基づいた言葉です(まだ誰にも認めてもらってはいませんが……)。

さて、読者の皆様が本稿まで読み進めるまでに、巻頭の辻村晃氏(順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科教授)の理路整然として、非常に分かりやすい説明により、「メンズヘルス医学」について、その重要性と必要性を十分理解することができたと思います。では、私たちが鍼灸臨床において、「メンズヘルス鍼灸」として提供すべきことは何でしょうか?  本稿では、「メンズヘルス医学」を土台にして、鍼灸臨床での具体的な対応策を提示するとともに、さらに、「メンズヘルス鍼灸」の未来像についても言及したいと思います。

【Ⅱ. 「メンズヘルス鍼灸」とは】

そもそも、「メンズヘルス鍼灸」とはどういう立ち位置にあると考えるべきでしょうか。読者の多くは、まず「男性更年期障害に対する鍼灸臨床」を想像すると思います。確かに、「男性更年期障害」という言葉は人口に膾炙しており、私自身も患者が「男性更年期障害」を主訴に来院する機会が多くなったと感じています。実際、雑誌「医道の日本2012年8月号」の特集「更年期障害と鍼灸治療」において、私は「男性更年期障害と鍼灸治療」というタイトルで、男性更年期障害患者に対する臨床例について紹介しています1)。男性更年期障害は表1(※雑誌「医道の日本2019年5月号」参照)に示すように、更年期前後の男性に起こる特徴的な症状で、特に、前期更年期では主に精神・心理症状が強く現れ、後期更年期では主にアンドロゲン減退症状が強く現れることが知られています2)


1)  本城久司. 男性更年期障害に対する鍼灸治療. 医道の日本 2012; 71(8): 54-9.
2)   塚本泰司, 伊藤直樹, 佐藤嘉一. 男性更年期の医学的問題点 泌尿器科の立場から. ホルモンと臨床 2001; 49: 793-7.

では、「メンズヘルス鍼灸」とは「男性更年期障害に対する鍼灸臨床」なのでしょうか? そうであるとするならば、私の提示する「メンズヘルス鍼灸」の立ち位置は2012年当時と何ら変わらないということになってしまいます。

一方、上述した雑誌「医道の日本2012年8月号」のなかで、私は「LOH症候群」*1 についても言及しています。LOH症候群 は、「加齢によるアンドロゲンの緩徐な低下に伴う症状を呈する状態」と定義され、表2(※雑誌「医道の日本2019年5月号」参照)に示すように、多様な症状を呈します3)。そして、私が土台とする「メンズヘルス医学」では、そのガイドラインである『加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)診療の手引き』(2007年、じほう)において、図1(※雑誌「医道の日本2019年5月号」参照)に示すようなLOH症候群と男性更年期障害の位置づけを提案しています。なかでも最も重要なことは、ガイドラインに記述されている下記の文脈に表現されていると理解しています4)。それは、「いわゆる男性更年期障害の症状を伴わないLOH症候群も存在し、将来的にはこの分野の診療がはるかに重要な意味を持つ可能性がある」という一文です。

例えば、意欲の減退といった抑うつ症状やEDなどの性機能障害であれば、男性更年期障害を想起することは容易ですが、鍼灸臨床でよく遭遇する肩こりや腰痛を訴える男性患者に対して、LOH症候群を想起するでしょうか? 否、「メンズヘルス医学」では、LOH症候群を想起すべきであると提案しているのです。というのも、巻頭の辻村晃氏のインタビュー記事にあるように、男性ホルモンであるテストステロンは、男性生殖器のみならず、皮膚や筋肉、骨、骨髓、血管、脳、腎臓、肝臓など、全身の諸器官にその作用が及ぶため、男性ホルモンの低下は全身に影響を及ぼすからです。


*1  LOHは「late-onset hypogonadism」の略で、「ロー症候群」と呼ばれている。
3)  Lunenfeld B, Saad F, Hoesl CE: ISA, ISSAM and
EAU recommendations for the investigation, treatment
and monitoring of late-onset hypogonadism in males: scientific background and
rationale. Aging Male 2005; 8: 59-74.
4)   並木幹夫, 辻村晃. LOH症候群の定義. 日本泌尿器科学会, 日本Men’s Health医学会「LOH症候群診療ガイドライン」検討ワーキング委員会編. LOH症候群 加齢男性性腺機能低下症候群診療の手引き. じほう, 2007, p.30-2.

実際、本邦でLOH症候群の臨床症状の評価に用いられる「Aging males’ symptoms(AMS)スコア」5)(表3 ※雑誌「医道の日本2019年5月号」参照)では、「男性性機能」に関する質問が17項目中3項目(質問14~17)あるのに対し、「精神症状」に関する質問が17項目中8項目(質問4~8、11~13)、「身体症状」に関する質問が17項目中6項目(質問1~3、9、10、14)あります。各症状に対して「なし」1点、「軽い」2点、「中等度」3点、「重い」4点、「非常に重い」5点の計85点で評価するのですが、いずれも、LOH症候群の重症度を規定する重要な症状である、という姿勢が示されています。

この話の流れから考慮した場合、「メンズヘルス鍼灸」とは「LOH症候群に対する鍼灸臨床」なのでしょうか? 実のところ、私はもう少し大きな概念でとらえています。実際の症例から説明を試みてみましょう。

【Ⅲ. 「メンズヘルス鍼灸」の実際】

まず、中高年男性が鍼灸院に来院した場合、精神症状が中心であろうと、身体症状が中心であろうと、患者が訴える症状に対する治療だけでなく、メンズヘルスを意識して治療に従事すべきである、という心構えが必要であると考えます。というのも、上述したように、男性ホルモンの低下に伴って起こる症状であるとするならば、男性ホルモンが低下し続ける限り、その症状が必ず再燃するといっても過言ではないからです。

ということは、「メンズヘルス鍼灸」とは、男性患者の訴える症状の治療だけでなく、原因と考えられる男性ホルモンの低下をより緩徐にするか、あるいは男性ホルモンの増加や機能向上を目指す鍼灸治療であるといえるのです。

ここで、症例を提示します。


5)  伊藤直樹, 久末伸一. 男性更年期障害で用いる質問紙 その有用性と限界. Urology View 2004; 2(1): 56-62.

 

つづきは、雑誌「医道の日本2019年5月号」でお読みください。

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