寄稿集 「ツボの選び方」
正邪脉診法で正気を診、正気を補う

伝承医学柿田塾 柿田 秀明 氏、伊藤 和真 氏

今回、テーマ「ツボの選び方」の寄稿依頼をありがたく思う。提示症例への経穴の選び方は、流派により患者に対する視点や意識に違いがあり、得たい情報にも差異がある。今回の提示症例の四診も柿田流で必要な情報と差異がある。故に本来の柿田流の診断から治療、選穴へという流れが表現できないかもしれない。ご理解いただきたい。本題に入る前に、柿田塾で指導している柿田流の流儀を簡単に説明させていただく。

【Ⅰ. 柿田流について】

1. 柿田流の基軸
柿田流は患者を人間としての理想的状態に戻すことを目指す。理想的状態とは正気が充実している状態である。病や症状の発症には邪気の存在もある。しかし邪気は正気が十分に充実していないために生ずる、と考える。診断は正気がどこにどれだけ不足しているか、を明確化する。治療は不足している正気を補うことを最優先とする。養生指導は正気を極力消耗させず、正気を増やすための行為である。加えて患者の意識変容を促す行為である。柿田流は患者の現在の症状がどのように発症したか、そのストーリーを考え、再発しないために養生指導を行う。治療を施すだけでなく、症状出現に至った原因を改善に導くことこそが、本当の治療につながると考える。そのため養生指導は治療の上位に位置する。

2. 四診について
四診は診断を導くための情報収集である。しかし往々にして、治療者の知識・感覚・経験・意識などの能力により異なる情報となる。例えば、問診は患者の虚言を見抜けるか否かで大きく異なる。望診は気を視覚化できるか否かで大きく異なる。聞診も切診もしかりである。切診の脉診では触覚から得られる脈状を形象とすると、その形象を形成する正気の有無を感じ取れるか否かで診断内容は真反対の結果になり得る。


「ツボの選び方」症例と課題こちらから。
柿田流が述べる正気とは「生命体として存続するために必要な気」である。肉体と正気が合わさって初めて人間という生命体となる。このとき肉体には正気とは別に物質としての気が存在する。気はすべての物質に存在するが、物質が持つ気のなかには人にとって正気となるものもあれば邪気となるものもある。

もう少し詳しく説明する。望診は身体よりあふれている正気(衛気)を主に診る。目元口元より心理状態や性格など、こころのなかをみる。加えて心理状態や性格、今の思考内容などを理解するために患者の形や動きにも注目する。そのほかとして舌診や顔面診など視覚から得られる色や形状などもみる。

問診は陰陽五行などの東洋医学的概念だけでなく、現代医学的内容も視座に持つ。聞診は治療者の耳・鼻などから患者の正気の有無とその程度を中心に診る。切診は柿田流の大きな特徴であり、常に正気の量を直接とらえることを意識する。経絡への切診である切経では皮膚表面に加え、皮下の正気の状態も診る。脉診は柿田流において最も特徴的な診察法である。治療者の触覚だけでなく直接、気を認知することを主とする。具体的には、正気と邪気を区分し、正気の量をとらえることを主とし、邪気の種類や量の把握を従とする。

3. 証と診断について
柿田流では、東洋医学的視点による症状と最も深くかかわる身体の不調の原因または治療方針となるものを証とする。加えて西洋医学の各器官や組織の正気の有無とその程度もとらえ、東洋医学・西洋医学双方から病態把握を行う。これを診断とする。証や診断内容は複数あることも多い。また診断から病の流れを導き、今に至るまでの経過も大事とする。これらにより養生内容と今後の病の進展が理解できるためである。

4. 治療と養生指導について
柿田流は身体全体を診断し、可能な限り不調部分を改善させることを治療とする。なぜなら久病や重病は最大不調部分の治療だけではより高い効果が得られにくいためである。養生指導は症状出現の根本原因を改善するため、治療以上に重要である。そのため、主訴や身体の状態の詳細な解析を行う。


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【Ⅰ. 問診診察・証立て】

各内容の説明をさせていただくが、誌面の都合上、重要と考える診察内容の分析を記載する。

1. 経過
初診時の状況は年齢45歳、特に肉体労働、外的要因の影響、過去の主訴原因となるような事故などの発生、体重増加や環境の変化についての記載がない。これらが無存在ならば、腰部への大きな物理的負荷はないと考える。ただし、20年前の3日間医師の往診既往を考えると腰部に強いダメージがあったと推測する。若い頃の怪我は完治したようにみえても損傷部は正気の不通を起こしやすい。後年になり病気の引き金になることも多いので注意が必要である。また運動は毎日継続か、たまに行うのかにより病態把握が変わる。毎日継続ならばそれなりに腰部の筋は強いと推測する。たまの運動であれば、運動が腰痛を誘発することもある。また運動内容も大切である。寒中の軽装でのランニングは風を切ることで体表は強く寒邪を受ける。このとき腰部に発汗があれば、腰痛につながる可能性が高い。

「6カ月前に極度のストレス後の腰痛」から、ストレスも発症に関係したと思う。ただし主原因かどうかは後述する。「3回の鍼灸治療により改善」だが、略治していたのか今回の発症時まで継続して治療をしていたのか知りたい。治療を継続し、患者の生活習慣も熟知していたなかでの今回の発症であれば、「ストレスと発症の因果関係」は意味があり、本情報の重みは増す。しかし、ほかに原因の存在も考える必要がある。このまま安易に「ストレスと腰痛」とを結びつけると、東洋医学的には肝と心の失調、それによる脾の失調、現代医学的には過度の精神的緊張に直行してしまう。原因の多くを精神的ストレスに結びつけることは病の本質を見逃すこと、そして治療効果の低下にもつながる。

外界の寒暖が気になる。編集部へ症例の具体的時期を問い合わせたところ、20年前が1999年1月14日、6カ月前が2019年1月30日とのことであった。この時点で外邪としての寒邪を視野に入れる必要がある。発症が急激に冷え込んだ日であれば、いよいよ寒邪の影響が浮上する。より寒邪の関与を確認するためには、居住地の場所や標高や戸建てかマンションか、などの情報が必要となる。

加えて花粉症などのアレルギーの有無や化学物質過敏症などの有無を知りたい。一般的な認識は少ないが、これらの発症時はかなり正気が損なわれる。そして表皮・真皮・皮下組織など身体の表層から筋膜や筋・靱帯・関節・骨・脊髄・脳・内蔵など身体の深部のあらゆる部位に不調を来す。アレルギーが関係するならば今回の腰痛発症の大きな伏線となる。

 

※つづきは、雑誌「医道の日本2020年2月号」でお読みください。

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