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かなり痛い!?カンボジアの民間療法「コックチョール」体験レポート [2012.07.01]

<海外レポート>


カンボジアの民間療法
コックチョール

 

CaTMO カンボジア伝統医療機構 高田忠典

日本財団の伝統医療普及事業専門家としてカンボジアに赴任し3年が経つ。1分数百円もかかる国際電話料金に悩まされていた時代も今は久しく、都市部におけるインターネットの普及は目を見張るものがある。街では無料のWifiが使えるカフェやレストランが軒を連ね、自宅でパソコンを開けば、世界中と時間を気にする事なくテレビ通話が楽しめる。
 
そのような状況になれば、娯楽の少ないカンボジアの駐在者にとって、日本のタイムリーな情報をネットでチェックすることが自ずと日課となる。著者の場合、特にニュースで知ることのできない鍼灸やマッサージ、柔道整復業界についての最新情報は、ネットからの検索だけが頼りとなっている。それでも、1つのキーワードの検索で様々なサイトが陳列される他の業界サイトに比べれば、我が業界のネット情報発信力には、まだまだ物足りなさを感じている。

 

●カンボジアの刮痧(かっさ)療法

 

そんななか、昨年頃からだろうか。ネット上で頻繁に「刮痧(かっさ)療法」の文字を目にするようになった。翡翠や瑪瑙、水牛の角を加工して作ったプレートと呼ばれるヘラを使い、皮膚の表面を摩る療法で、特にエステ美容業会の間で取り上げられているようだ。皮膚への刺激によって新陳代謝が高められ、デトックスやアンチエイジングの効果が期待されるのだと言う。

すでに鍼灸師であれば、この療法が古代九鍼の「ざん鍼」や「圓鍼」といった、すなわち現在の小児鍼や兎鍼として知られる「摩る鍼」を、現代風にアレンジしたものであると気づいていることだろう。刮痧療法に類似した民間療法は、アジア各国の多くの地域で見ることができる。

ここカンボジアには「コッ・クチョール (Koas Kjol)」という名称の民間療法があり、カンボジアで、まず知らない人はいないと言っても良いほど広く国民の間に普及している。外国人の間ではコインマッサージやコイニングと呼ばれているが、その名の通りコインや金属のキャップ、ヘラなどが皮膚を摩るプレートとして使われる。

 

 

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コックチョールで使われる道具

 

コックチョールは一般家庭にて家族同士で行われていることが多い。マッサージ店で行なっているところもあるが、その場合(都市部と地方では施術費に差があり)5,000〜10,000リエルほど(5,000リエル=100円/昼食にコーヒーをつけた程度の値段)である。

日本ではセレブを中心とした方々に「補」の効果を期待した施術として注目を集めているようであるが、年間平均気温が30度近いここ熱帯地方においては、初期の風邪、頭痛、めまい、不眠、手足の痺れ、といった症状に対し体内の熱を発散させるため、専ら「瀉」の療法として用いられている。

筆者が参加する現地の鍼灸施術所に来院する患者にも、両手足の痺れ、めまい、頭痛を呈する症状が多く、比較的細く浅い鍼の治療で改善が見られる。この体験からもコインを使って皮膚表層を摩るコックチョールが、『霊枢』の「九鍼十二原篇」に記されている、体表の邪熱を瀉すための「ざん鍼」分肉の間の邪気を瀉すための「圓鍼」・の効用に近く、熱帯地方特有の風土病に適した療法として、これまで現地に根付いてきたのだと考えている。

13世紀後半に元朝の使節に随行してアンコール王朝を訪れた周達観の手記『真臘風土記』では「この国の人は通常、病気があると多くはそこで水に入って浸り浴し、ならびに頻繁に頭を洗う。そうするとすぐに自然と病気がなおる」と記されている。体内から熱を発散させることが、さまざまな症状への初期治療として経験的に実施されて来た事を裏付けるものである。

 

●コックチョールはいつの時代に、何処からもたらされたのか?

 

保健省国立伝統医療局では、カンボジアの伝統医療を、クメール伝統医療、中国伝統医療、ベトナム伝統医療の3つの系統があるとして分類している。

クメール伝統医療は、アンコール王朝が繁栄した時代から現在に伝えられているインドのアーユルベーダを起源とする医療体系であり、近隣のタイ、ラオス、ミャンマーの伝統医療と多くの共通点を持つ。また、中国伝統医療とベトナム伝統医療は、首都プノンペンを中心に定住する、中国系やベトナム系の人々によって行われている。

著者は“コックチョール”と呼ばれるカンボジアのコインマッサージは、以下の理由からクメール伝統医療の体系ではなく、中国からベトナムを経由して、もたらされたものであると考えている。

① クメール伝統医療についての情報は、トレアンというヤシの葉に記録されたサストラと呼ばれる書籍に残されているか、もしくは口伝として代々伝承されているが、サストラの中にも、現地のクルクメールと呼ばれる伝統医療師の伝承からも、今のところコックチョールについての情報は発見されていない。
② 一般的にベトナム伝統医療は中国伝統医療の影響を強く受けていると言われている。ベトナムに伝わる同様のコインマッサージは、現地の言葉でカオヨー(Cao Gio)と呼ばれる。「Cao」は「剃る」、「Gio」は風の意味。コックチョールの「Koas」「 Kjol」は、それぞれ、同じ意味をカンボジア語に訳したものである。
③ 施術部位については、クメール伝統医療に近いタイのマッサージにおいて手足の(十二経絡で言うところの)陰経に沿った部分を重点的に施術するのに対し、コックチョールは背部を中心とした陽経を中心に施されている事からも、コックチョールとクメール伝統医療との違いが強く感じられる。

史実では19世紀後半、当時カンボジアを統治していたフランス政府が、ベトナム人を労働者として大量に移入した時期があったとされている。おそらくこの時代にコックチョールは、ベトナム人労働者を通じて、カンボジアにもたらされ、その後、長い内戦の間に現代医療に手の届かなかった民衆の間に広く普及していったのではないかと想像する事が出来るのである。

 

●コックチョールを体験

 

実際に同僚とコックチョールを体験してみた。とにかく痛い。皮膚をコインの摩擦から守るためメンソール系のオイルが使われるが、それでも身を削られているような錯覚に陥る。

 

 

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太陽膀胱経の1行線からスタートするが、痛みのあまり背部はギプアップしてしまった

 

始めは、背部の(十二経絡で言うところの)太陽膀胱経の1行線をなぞっていく。両側の背中にくっきりと2本の赤い線が浮き上がった地点で著者はギブアップしてしまった。その後、肋骨に沿って術が施され、背中全体には見事な赤い虎模様が浮かび上がる。上肢への施術をへて仰向け。さらに胸部と上腕部にコインが施術の軌跡を残したところで治療は終了する。全課程を1時間程かけて行なう。術後、体験者は「とても体が清々しい」と言う。それはコックチョールの効果によるものなのか、それともコックチョールの激痛から解放されたからなのか。

 

 

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施術痕が1週間は残るので体験する際は自己責任で

 

終了後には、全身をタオルで覆い発汗を高め、さらに熱の放出を促進する。施術直後のシャワーは厳禁。術後の食事は、消化の良いカンボジア粥(Borbor)が勧められる。

観光地シムリアップの一流ホテルにあるマッサージ店でも、コックチョールを体験できる場所がある。中には「カンボジアの良い旅の思い出になった」と喜ぶ観光客もいるが、コックチョールを受診すると、確実に背中に施術痕が1週間は残る。そのため赤い虎模様を周囲に披露しながらアンコール観光を続ける事となる。もちろんアンコールワットを背景にした思い出のスナップ写真にも立派な虎模様が。

これからカンボジアでコックチョールの受診を検討される方、くれぐれも本人の自己責任で!

※施術の動画について下記サイトにアップしたのでご興味のある方はご覧ください。

http://www.youtube.com/watch?v=0H4gjyvwSEU

 

 

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