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下部尿路症状に対する鍼灸臨床の現在と未来

本城久司

【はじめに】

  本誌で泌尿器科疾患に対する鍼灸治療が特集されることに、長年泌尿器科を専門領域として携わってきた者の一人として、とても感慨深いものがあります。というのも、一昔前であれば(十年一昔といいますから、十年以上前としましょう)、本誌で泌尿器科疾患が特集になれば、「泌尿器科疾患の特集とは珍しいなぁ」と思われ、物珍しく特集記事を読まれる先生が多かったことでしょう。しかしながら、現在の本誌の読者である賢明な先生方であれば、今号の特集記事を「珍しいなぁ」と感じながら読まれる読者は少ないだろうと思えるほど、泌尿器科疾患に対する鍼灸臨床が身近なものに感じていただけるまでに、状況が変化したと思うからです。ここに至るまでには、さまざまな紆余曲折がありました。だからこそとても感慨深いのです。
  泌尿器科疾患、特に下部尿路症状に対する鍼灸治療の有効性は、私の恩師である北小路博司先生をはじめ、諸先生方がこれまでの研究などで積み上げられた実績の稿でご理解いただけることと確信しております。ですので、本稿では最新の知見をもとに、現在の鍼灸臨床で下部尿路症状をどのようにとらえるべきか、さらに、その先にある未来像について述べたいと思います。

【鍼灸臨床において過活動膀胱をどうとらえる?】

  まずは、下部尿路症状を呈する過活動膀胱を例に、それを鍼灸臨床でどのようにとらえるべきかについてお話しします。とはいえ、過活動膀胱をどのようにとらえるべきかといっても、「過活動膀胱は過活動膀胱でしょう?」という問いが想起されるのではありませんか? まさにそう発問される先生の感覚こそ、普通の感覚です。しかしながら、最新の知見では、その普通の感覚こそピットフォール(落とし穴)になり得るのです。

  それはどういうことか? 本稿では鍼灸臨床における「過活動膀胱の 3つのとらえ方」について紹介します。

  国際尿禁制学会(International Continence Society:ICS)による過活動膀胱(Overactive Bladder:OAB)の定義は、尿意切迫感を必須とした症状症候群であり、通常は頻尿と夜間頻尿を伴い、切迫性尿失禁は必須ではない、とされており、「過活動膀胱をどのようにとらえるべきか?」 という問いに対して、先生方が「尿意切迫感があれば過活動膀胱でしょう!」と答える根拠になっていると思われます。ただ、尿意切迫感を訴える疾患は、細菌性膀胱炎や間質性膀胱炎など過活動膀胱以外にもみられる症状であり、ICSの定義に従って患者の訴える病態が過活動膀胱であると診断しても、過活動膀胱の概念と実際の管理(治療方針)は下部尿路障害の専門医の間で必ずしも一致していません。しかしながら、過活動膀胱は日常の生活の質(Quality of Life: QOL)を損なう慢性疾患である、という点では一致しています。したがって、過活動膀胱とは、不快な蓄尿症状(尿意切迫感、頻尿、夜間頻尿、切迫性尿失禁)によって臨床的に診断されるQOL疾患である、というのが1つ目のとらえ方です。

  過活動膀胱の臨床的診断に欠かせないものとして、本邦で開発された過活動膀胱症状スコア(Overactive Bladder Symptom Score: OABSS)があり、これは過活動膀胱の診断のほか、重症度評価、治療効果判定に用いられています。OABSSを用いた過活動膀胱の診断基準は、質問3の尿意切迫感に関するスコアが2点以上かつ合計点が3点以上であり、またOABSSを用いた治療効果の判定基準として、OABSSの合計点数が3点以上低下することが臨床的に意味のある改善である、とされています。これは鍼灸臨床においても応用可能であり、実際に私も治療効果の評価に用いています。ただし、実はここにも鍼灸臨床においてピットフォールに陥る可能性が秘められているのです。

  上述したように、過活動膀胱は尿意切迫感を主症状とする症状症候群ですから、過活動膀胱の改善に症状の改善が必要条件であることには全く異論はありません。他方で、過活動膀胱はQOL疾患であることから、QOLの改善もまた過活動膀胱治療のターゲットにしなければならないのです。

  では、どのようにQOLの改善を客観的に評価すればよいのでしょうか? 実はその疑問に応えるよい評価スケールがあるのです。それは、京都府立医科大学大学院泌尿器外科学の浮村理教授のもとで開発された、Visual Analog Scale(VAS)でOABSSの各症状に特異的なQOL評価を評価する質問票である「OABSS-VAS」です。これもまた鍼灸臨床においてご活用いただければと思います。

【鍼灸臨床において過活動膀胱に遭遇する?】

  次に、鍼灸臨床において過活動膀胱症例に遭遇するかについてですが、本誌の読者である賢明な先生方であれば、「患者さんのなかに過活動膀胱治療薬を服用している患者さんがいる」とお答えになると思われます。ここもまた、ピットフォールに陥る可能性が高いところになります。
  本邦における過活動膀胱の有症状率は、日本排尿機能学会が2003年に実施した排尿に関する大規模な疫学調査によって、40歳以上の男女の12.4%(約840万人)であること、さらに、過活動膀胱はQOL疾患であると述べたように、過活動膀胱症状を有する者のなかで日常生活に影響があったのは53.0%であることが明らかにされています。具体的な影響として、心の健康(41.9%)、活力(36.9%)、身体的活動(33.9%)、家事・仕事(28.7%)、社会活動(22.0%)となっており、QOLを損なう問題となる症状としては、夜間頻尿(38.2%)、昼間頻尿(19.3%)が多く、過活動膀胱の主症状である尿意切迫感は10.4%であり、QOLを著しく損なうと考えられる切迫性尿失禁は9.8%でした。このように、夜間頻尿がQOLを損なう問題として挙げる人が多いことも理解しておくべきことでしょう。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2018年5月号」でお読みください。