鍼灸師のためのカルテ講座

聖路加国際病院リウマチ膠原病センター 津田篤太郎

首の後ろにビリッとした痛みが走る

  前回は、頭痛には一次性頭痛と二次性頭痛があり、鍼治療を行ううえでは、患者さんの頭痛がどちらの症状なのかを見極める必要があるという話をしました。今回も引き続き、頭痛のカルテを取り上げます。
  今回は救急外来のカルテです。30歳、女性の患者さんで、主訴は頭痛です。Sを見てみると、6月17日から首の後ろに電撃的なビリッとする痛みが出て、翌日には寝違えたような痛みが出たそうです。1週間後にもまた同じような痛みがあったため、救急外来にやってきたということです。
  身体所見にあたるO を見てみましょう。前回のカルテではO がほとんど英語でしたが、今回は日本語で書いてありますね。身体所見にも病院や医師によって、さまざまなフォーマットがあることが分かります。
  副鼻腔の圧痛・叩打痛がないことから、頭痛の大きな原因の一つである副鼻腔炎(蓄膿症)ではないことが読みとれます。また、項部硬直とは、うなじの部分が硬くなり、首が曲げにくくなることで、JoltとはJolt accentuation の略で、首を左右に振った場合に頭痛が増強することです。いずれも、頭痛の重要な鑑別診断の一つである髄膜炎を示唆する所見です。髄膜炎は、それに先立って風邪の症状が出現していることがあるので、のどが赤くないかを診ることも重要な所見です。
  いずれも特に異常は見られませんでしたので、副鼻腔炎や髄膜炎は一応鑑別リストから下げられることになります。
  次に、神経所見のところを確認しましょう。「脳神経」とありますが、前回の復習になりますが、脳に直かに接続している12本の神経のことですね。おもに頭部~頚部の知覚と運動を司る役割を担っていて、頭のほう(中枢側)から足のほう(末梢側)にかけて、神経が分枝する位置の順に、ローマ数字でⅠ、Ⅱ、Ⅲ…と表記されています。

  「Ⅰ」は嗅神経で、匂いの感覚を伝える神経ですが、やや手間がかかるので、評価が省略されています。「Ⅱ」は視神経のことで、ここでは視野のみが評価されています。「Ⅲ」「Ⅳ」「Ⅵ」はそれぞれ動眼・滑車・外転神経で、瞳孔反射や眼球の動きを細かく調節したり、まぶたの動きを司る神経です。このカルテではEOM(眼球の動き)や眼振(眼球の震え)、眼瞼下垂などが調べられていて、特に異常はないようです。「Ⅴ」は三叉神経で、前回で詳しく触れましたように、顔面の感 覚を脳に伝え、あごの動きを司っています。「Ⅶ」は顔面神経で、顔面の大半の動きを司る神経ですが、このカルテでは評価が省略されています。「Ⅷ」は内耳神経で、聴覚や平衡感覚を脳に伝えます。「Ⅸ」の舌咽神経と「Ⅻ」の舌下神経は、口腔内・舌・のどに神経の枝を伸ばし、それらの感覚や運動を司っています。「Ⅹ」は迷走神経と呼ばれ、胸腹部の内臓の働きを調節する重要な自律神経です。「Ⅺ」は副神経と呼ばれ、迷走神経と一緒になってのどや食道を動かすほか、胸鎖乳突筋や僧帽筋 も支配している神経です。また、バレー試験(四肢の軽い麻痺を調べる検査)や四肢の筋力、腱反射に異常はなく、脊髄にも目立った異常はなさそうです。
  前回同様に、今回もO では明らかな異常が見当たらないケースです。CTも撮っていますが、やはり異常なしです。
  Aを見てみると、「頭痛」とあり、リスクとして「HT、HL、DM」と記載されています。それぞれ「高血圧」「高脂血症」「糖尿病」のことですが「マイナス」ですので、それらのリスクはないということです。「家族歴」も問題なく、血液をさらさらにする「抗血小板薬」も使用していません。
  「ABCDD スコア」は脳梗塞へ進展するリスクを現す数値です。Aはage、つまり年齢のことで、60 歳以上の場合1 点加算します。B はblood pressure、血圧のことで、高血圧がある場合(収縮期血圧≧140㎜Hgまたは拡張期血圧≧90㎜Hg)に1 点加算です。
  C は臨床徴候(clinical features)であり、片側上下肢に脱力があれば2点、脱力がなくても、言語障害があれば1点加算となります。Dは症状の持続時間(duration of symptoms)であり、60分以上症状が持続していれば2点、10分以上60分未満であれば1点加算です。もう一つのDは糖尿病(diabetes)で、もしかかっていれば1点加算になります。

  最も権威ある医学雑誌の一つであるLancetに掲載された論文(Lancet 369:283−292, 2007)によると、ABCDDスコアの総合計が3点以下であれば、2日以内に脳卒中を起こす確率が1%程度と低く、4点になると2.9%、6点では8.1%に上がります。このケースではスコアは3点で、Lancetの論文によれば「2日以内に脳卒中になっている確率は1.1%、7 日後でも1.3%」ということになり、ただちに脳梗塞として治療する必要性はなさそうです。
  Pとしては、解熱鎮痛消炎剤の「ロキソニン」と、そのロキソニンによって胃が荒れないように胃炎・胃潰瘍治療剤の「ムコスタ」を処方し、吐き気を止める「プリンペラン」を処方したうえで、頭痛外来で詳しく診てもらうことになりました。

椎骨脳底動脈解離とは?

  はたしてこの頭痛の患者さんには、鍼をしてもよいのでしょうか。続いて頭痛外来のカルテを見てみましょう。
  救急外来を受診したのち、自宅で2日間ほど様子を見て、一時的にふらつくような感覚はあったけれども、呂律障害や嚥下障害はありません。今は、左上肢と右下肢のびりびりした感じが残っているのみとのことです。すでに頭痛は引いているようですね。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2014年11月号」でお読みください。