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筋膜の役割と研究動向

首都大学東京健康福祉学部理学療法学科教授 同大学院人間科学研究科理学療法学域教授 竹井仁氏

ここでは「筋膜とは、そもそも何なのか」について理解を深めるべく、日本の筋膜研究の第一人者である竹井仁氏に話をうかがい、筋膜の役割や機能、筋膜の不調が疾患を引き起こすメカニズムについて解説していただいた。さらに、筋膜の最新研究を知る絶好のテキストも紹介。より詳しく知りたい方は各テキストも当たってもらいたい。

筋膜の主な役割

─まず筋膜とは何でしょうか。一般的には結合組織の一つで、いろいろな臓器とか筋、骨を支えているものというイメージを抱いています。

竹井 筋膜は全身に連なる、三次元的に連続した結合組織です。筋膜を英語で“fascia”といいますが、この語は日本語訳として、「膜」と「筋膜」の両方の意味があります。狭義のfascia、つまり「筋膜」を解剖学的に説明すると、さらにいくつかの種類に分類できます。まず、皮下組織のなかにある浅筋膜という層です。日本の文献では、皮下組織自体を浅筋膜と呼んでいることもありますが、皮下組織中の中央にある明確な層です。その下には深筋膜があり、筋を覆う筋外膜、それが筋中に入り込んで、筋束を包み込む筋周膜になり、さらに1本1本の筋線維を包み込む筋内膜になります。これらの膜を総称して、「筋膜」といいます。
  特に浅筋膜・深筋膜は全身を覆っています。もし浅筋膜、深筋膜、筋外膜、筋周膜、筋内膜を残して、ほかの人体組織をすべて溶かしても、人の身体の形が残るといわれています。そのため、筋膜は「第2の骨格」とも呼ばれるのです。
  広義のfascia、つまり「膜」については、研究者のなかには、いわゆる「筋膜」として使っている著者もいれば、例えば大脳鎌や小脳鎌、小脳テント、脊髄硬膜、あとは靱帯や腱、屈筋支帯、伸筋支帯なども含めて使っている著者もいます。そこで、「筋膜」であることを強調したい場合は、“myofascia”というように“myo”をつけて区別させることも多いです。英語の文献を読む際は、fasciaが「膜」か「筋膜」か、どちらの意味で使っているのか、文脈をよく読む必要があります。
  また、文献を読む際に注意すべき用語の用法があります。文献によっては、深筋膜のことを「腱の膜のような筋膜」、いわゆる「腱膜筋膜」と呼んでいることがあります。その場合、深筋膜は「腱膜筋膜と筋外膜を足したもの」となります。日本の文献では深筋膜と筋外膜は別に記述されるのが一般的ですので、注意が必要です。

 

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─筋膜は何によって形成されているのでしょうか。

竹井 強度と形態を与えるコラーゲン(膠原)線維と、形態記憶性と伸張性を与えるエラスチン(弾性)線維の2種類の線維でできています。
  このコラーゲン線維は皮革のベルトのようなものが波状に波打った構造をしており、強度を保ちながら、さまざまに形を変えることができます。一方のエラスチン線維は、ゴムチューブのような形状になっています。実際、ゴムのように2~2.5倍ぐらいまで伸縮でき、かつ形態記憶性を有します。こうした線維が筋膜となって全身を覆うことで、姿勢と運動のコントロールに寄与します。
  筋膜はコラーゲンとエラスチンの線維が網目のように走っていて、その隙間には細胞間基質(マトリックス)が存在しています。細胞間基質は通常、水溶液状(ゾル状)でさらさらしており、コラーゲンとエラスチンの流動性を確保しています。細胞間基質の役割はとても重要で、もしコラーゲンとエラスチンの網状構造が高密度化し機能異常を来たすとお互いの線維が自由に動けなくなってしまいます。すると、高密度化によって基質は圧迫され脱水してしまうので、成分がゾル状からゲル状(ゼラチン様)へと変化してしまいます。これが筋膜の「動きが悪くなる」メカニズムです。

─筋膜の動きが悪くなるとどういった影響があるのでしょうか。

竹井 まず浅筋膜を形成する線維は疎性的に、緩く編まれているので、いろいろな方向に動くことができます。そして、ここに毛細リンパ管や末梢血管が走っています。ですから、浅筋膜の動きが悪くなるとリンパ系の流れが悪くなり、免疫系や代謝にも問題が出ることになります。
  深筋膜は縦横斜めの3つの線維層からなっており、各層を疎性結合組織でつないでいます。縦横斜めの三層を緩い結合組織で結ぶことで、各層が摩擦を起こすことなく可動性を確保している仕組みです。摩擦なく層が重なる、いわば「滑走システム」ともいうべき構造自体は従来から知られていましたが、2003年、ヒアルロン酸が潤滑剤となって、層の滑走に重要な役割を果していることが明らかになりました。さらに、ヒアルロン酸は深筋膜だけでなく、筋内膜、筋周膜にも分布していることが分かりました。
  例えば、運動をするとき、なぜウォーミングアップが重要かというと、関節内の滑液のヒアルロン酸の温度が上がれば動きがよくなるからです。同様に、筋膜にもヒアルロン酸が分布しているので、身体をよく温めて筋膜の動きを確保することが重要なのです。

─筋膜と感覚受容の関係についても教えてください。

竹井 表皮における浅筋膜には、触圧覚や熱などの外からの刺激を感じ取る外受容器があり、皮下の深筋膜には固有受容器が存在します。外受容器と固有受容器の感覚が入り交じらないように隔てるという役割も筋膜は担っています。
  したがって、筋膜が硬く、動かなくなると、受容器にも影響が起きることが分かります。例えば、筋紡錘は筋内膜に付着しています。筋外膜・筋周膜が硬くなり、それにつられて筋内膜も硬くなれば、筋紡錘が不十分な活性になってしまいます。ゴルジ腱器官は腱のなかにありますから、腱は筋外膜、筋周膜、筋内膜のコラーゲン線維の成分が集まったところにあるので、やはり筋膜が硬くなれば影響を受けます。さらに、腱に問題が起これば関節に力が加わり、関節受容器を刺激することになります。
  また、「力の伝達」も筋膜の重要な機能の一つです。深筋膜は筋外膜の上にあり、関節を渡って筋肉を覆っています。筋線維も深筋膜に入り込んでいます。ある筋肉で発された力は深筋膜を通じて関節や関節の先にある筋に伝達されるのです。つまり、筋膜を通じて筋が連続して動いていく。そういったことが、40年ほど前からようやく明らかになってきました。
  運動のメカニズムというと、脳が「机の上のマグカップを取りなさい」という指令を筋が受けて手が動くといったように、脳がすべてを制御していると思われがちですが、実際は、例えば、マグカップの取っ手をつかむために微妙に手のひらを傾けたりといった細かな巧緻動作に至っては、深筋膜が筋を協調させて制御しているのです。このように、最近では、筋膜は脳からある程度独立して運動をコントロールしているということが分かってきました。

運動から疾患の原因を考える

─運動と筋膜、そして疾患との関係はどうなっているのでしょうか。

竹井 イタリアの著名な理学療法士であるルイージ・ステッコ(Luigi Stecco)氏は、運動方向を6つに分類しています。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2015年4月号」でお読みください。