2019年版「鍼が効く疾患・症状」

七堂利幸 氏

【Ⅰ. はじめに】

1. 2005年~2011年における鍼効果究明の動向

2002年にNIHからサポートを受けたEzzoらの膝関節炎のシステマティック・レビュー(以下SR)から、次に鍼の効果が証明されるのは膝関節炎であると予想し、雑誌「医道の日本」に速報しました1)。それが3年後に実現しました。そして筆者は、引き続き2007年に「鍼が効く疾患・症状は?」というタイトルで本誌にランダム化比較試験(以下、RCT)を根拠に紹介しました2)

この頃は鍼RCTで大きな出来事があった時期でした。それまで十分なサンプル数のRCTが少なかったので、やっと多くの被験者そして、医療関係者を動員したドイツで待望の鍼メガ・トライアルが行われました。成果は、Wittら(2005)の膝関節痛3)、Scharfら(2006)の変形性膝関節症4)、Haake(2007)慢性腰痛5)などがあり、これにより鍼効果究明が大きく進みました。なぜなら、小数例の研究を統合したメタアナリシスは、出版バイアスなどのバイアスを伴います。それより、一般的にメガ・トライアルのほうが信頼性は高いのです。


1)七堂利幸. 次は膝関節炎に鍼が効くことが証明される!?(速報)、医道の日本 2002; 61(14): 162-5.
2)七堂利幸. 業界にまつわるあんな疑問こんな疑問 第13回 鍼が効く疾患・症状は?. 医道の日本 2007;. 66(3): 148-52.
3)Witt C, Brinkhaus B, Jena S, et al. Acupuncture in patients with osteoarthritis of the knee: a randomised trial. Lancet 2005; 366: 136-143.
4) Hanns-Peter Scharf, MD, et al: Acupuncture and
Knee Osteoarthritis: A Three-Armed Randomized Trial、Ann Intern Med. 2006; 145(1): 12-20.
5) M Haake, et al. German Acupuncture Trials(GERAC)for chronic low back pain: randomized, multicenter, blinded, parallelーgroup trial with 3 groups、Arch Intern Med 189(; 17) 167; 2007.

ErnstはTrick or treatment(2008):日本語訳『代替医療のトリック』(2010)という書籍をSaimonと共著で書き6)、「鍼効果はプラセボ効果」という疑念を掲げました。日本の鍼研究者は驚き、それに対し反論が当然本邦でもありました7)

鍼の有効性を論じる材料は主にRCTですが、エビデンス・レベルからいうと、システマティック・レビュー(以下、SR)がRCTの上位にきます。しかし話はそう簡単ではありません。SRといってもいろいろな質レベルがあり、最近はその質が問われることになってきました。SRは「半定量的」といわれているように、曖昧さがあります。それは、SRではメタアナリシス(以下、MA)を使うのですが、MAの材料は個々のRCTです。このRCTの質の評価に黄金基準(golden standard)がないのです。よく「良質のRCTを集めた」と報告されていますが、良質というのは恣意的なものなのです。

【2. 「WHOの鍼適応症」の誤解】

まだ誤解されているのが、「WHOの鍼適応症」と称されている事柄です。これはBannerman(1979)がWHOの見解8)としてまとめたもので、鍼が経験的にどんな疾患に使われているか調査した暫定リストで、「効果が証明された」ものではなく「可能性がある」ものです。列挙された疾患のほかにも効くかもしれないし、無効となることもあり得ます。ですから「適応症」と表現するのは誤解です。適応症が分かっているなら、なぜたくさんの鍼RCTが行われ続けているのでしょう。鍼の適応症は検証の途中なのです。


6) Saimon Singh, Ernst E. 代替医療のトリック(Trick or treatment)(2008出版)、日本語訳(2010出版)、新潮社.
7)川 喜田健司. 編集者への手紙.『 代替医療療のトリック』の鍼治療に関する記述の問題点. 全日本鍼灸学会雑誌 2010; 60(2): 252-4.
8) Bannerman RH. Acupucture; the WHO view. World Health 979 Dec; 24-9

【3. NIH鍼合意声明は主観的】

NIH鍼合意声明(1997)の消息にも触れておきましょう9)。NIHは米国国立衛生研究所(National Institute of Health)のことです。痛みの次は免疫疾患に鍼が効くのではと私が予測したのも、この声明からの分析です2)。論文の数の多少でそう予想したのですが、現在いまだ痛み研究が主流です。1990年代のこのとき、実は総説(ナラティブ・レビューNarrative Review: NR)からSRに変わっていく過渡期だったのです。SR文献の皮切りは1998年にまとめられています10)。SRに比べ主観的な鍼の「語りのNR論文」は2000年から姿を消し、「系統的なSR」に取って代わられるようになっていきます。

NIH鍼合意声明はいまだNRなのです。2007年、私は、当該会議録の欠点は定性的な総説にあると解説しています2)。英国発のコクラン共同計画は1992年から始まり、SRでレビューが行われています。コクラン・レビューの影響は米国のNIH鍼合意声明には与えなかったといえます。

NRとSRの違いは研究仮説、材料(RCT)とその探索法、選択基準、吟味の方法、統合方法が定性・定量的か、などです。よって一般に、NRは著者の主観、SRは科学的証拠に基づくことになる、というわけです。ですから、NIH鍼合意形成会議10周年記念行事(2007)が行われ、そのパネル声明で鍼が大変有望な疾患、鍼が役に立つかもしれない疾患に分類した1997年の表111)を持ち出していますが、これはSRの結果でないので信頼性に劣るのです。NRの弱点でこの中身が変化してしまったのです。


9) C Mulrow, D Cook Edited: Systematic Reviews, ACP, 1998
10) NIH Consensus Development Conference on Acupuncture, National Institute of Health Continuing Medical Education, 1997. https://consensus.nih.gov/1997/1997acupuncture107program.pdf
11) 高澤直美. NIH鍼のコンセンサス形成会議10周年記念SAR学術集会2007報告. 全日本鍼灸学会雑誌 2008; 58(1): 87-92.

 

つづきは、雑誌「医道の日本2019年6月号」でお読みください。

お得な定期購読のご案内

Apple、Apple のロゴは、米国および他の国々で登録された Apple Inc. の商標です。Mac App Store は Apple Inc. のサービスマークです。
Android、Google Play、Google Play ロゴは、Google Inc. の商標です。