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書籍『ドイツ人鍼灸師 トーマス先生の話を聞いてみませんか』著者インタビュー [2013.02.18]

トーマス・ブラーゼイェーヴィッツ先生は、今年で日本在住34年になるドイツ人の鍼灸マッサージ師です。弓道を習うために22歳のときに来日し、その後、手に職をつけようと鍼灸マッサージ師となり、病院勤務を経て、神奈川県葉山で治療院を開業しました。そんなトーマス先生が臨床のなかで患者さんに話してきた運動法や健康法についてまとめたのが、『ドイツ人鍼灸師 トーマス先生の話を聞いてみませんか』です。どのような思いを込めて執筆されたのか、お話をうかがいました。

――これまでトーマス先生が患者さんに説明・指導してきた、とっておきの運動法や姿勢改善の話をまとめたのが本書です。どういうことを意識して、執筆されたのでしょうか。

トーマス 私がこの本に書いた運動や健康の話は、何も珍しいことではなく、“常識”だと思っています。よく巷にあふれているような「○○流エクササイズ」や「○○運動法」といった、頭に人の名前が付くような“特別な方法”ではありません。もし目新しく感じるとすれば、知っていたのに忘れてしまったか、普段の生活のなかにあるのに意識していなかっただけでしょう。

本のなかで、「やかん体操」や「歯磨き運動」、「ピノキオ運動」といった、私がよく患者さんに薦める運動方法をいくつか紹介しました。これらは、場所や時間を確保しなくても、普段の生活のなかの動作に、ちょっとした工夫を加えるだけでできる運動です。決して難しいものではありません。例えば「やかん体操」は、やかんさえあれば全身の筋力を強化できます。コーヒーを淹れるときのちょっとした時間で、場所をとらずにできるトレーニングです。

一つ言っておきたいのは、これらの運動は「すべてやったほうがいいですよ」という薦め方ではなく、「あなたに合ったものがあれば、使ってください」というスタンスで紹介しています。自分に合う方法を、本から取り出してほしい、ということです。いくつかの運動方法や体操を自分なりに組み合わせて実践すれば、その運動パターンが「自分流エクササイズ」になると思いますよ。

――さまざまな運動方法を紹介されつつ、“運動することの大切さ”を強調なさっていますね。
 
トーマス それも当たり前のことを書いたつもりなのですが(笑)。人間は動物の一種でしょう。文字通り、“動くもの”です。動物は生きていくために食べなければなりません。食べるために、狩りをします。すなわち、動きます。昔は人間も、食料を得るために、たくさん動かなければならなかった。

けれども現代は文明の利器が発達して、たくさん動かなくても食べられるようになりました。動物なのに、運動を疎かにしてしまっているのです。人間が動物である以上、運動は生存に必要なものです。「私は運動が好きです」とか「運動は面倒だからしたくない」などといった個人の趣向に関係なく、“しなければならないもの”なのです。

文明に頼りきって楽をし過ぎようとするのは、よくありません。現代人は椅子に座ってデスクワークをする人が大勢いるでしょう。しかし人間の体は本来、椅子に座るようにできていません。椅子は人間より後にこの世にできた文明の道具だからです。体が椅子に座るようにできていないのに、長時間座って仕事をすれば不健康になるのは当たり前なのです。

 

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イラストを使って自分でできる運動や体操をわかりやすく解説している

――日本古来の文化や仏像に関するお話もあり、先生が日本の伝統をとても尊重されていることが伝わってきます。
 
トーマス 日本の文化には、よいものがたくさんあるのに、今の日本人はそのことを忘れてしまっているような気がします。ドイツから日本にやってきた私としては、それを非常にもったいなく感じます。

先ほど、椅子の話をしましたが、日本には椅子に座る文化よりずっと前から、「正座」という姿勢の文化がありますね。正座は椅子よりも立ったり座ったりするときに足腰の運動になります。普通に生活するだけで、訓練になる姿勢なのです。

日本の仏像にも、姿勢のヒントが隠されています。本にも書きましたが、仏像を見るとほぼ確実にその体を使って何らかの「輪」をつくっています。この「輪」は何かというと、気を温存する姿勢です。東洋医学では、気の源は丹田、つまりお腹のあたりにあるとされています。手を使って、胸やお腹を囲むようなイメージで輪をつくると、気の漏洩を防ぐことができるのです。

――トーマス先生が日産厚生会玉川病院で働かれていたときの恩師、代田文彦先生についても触れられていますね。代田先生からはどのようなことを学ばれたのでしょうか。
 
トーマス 代田先生は弟子を取らない方でした。何かを習ったという記憶はありません。先生からは、技や知識を“盗んで”覚えていきました。「盗んで覚える」というのも日本の職人文化の伝統でしょう。

代田先生の特技として思い出されるのが、患者をよい方向にもっていく“説得療法”です。外来患者や入院患者に対して病状を上手に、わかりやすく説明して、その上で「このようにしたほうがいいよ」とうまく提案していました。治療をしても治らない耳鳴りに悩む患者に、「気にしても何も変わらないから、気にすることをやめなさい」と説得し、結果的に患者をリラックスさせていたのには驚きました。

今の医療界におけるEBM(Evidence Based Medicine)ばかりを重視する考え方と違って、医療者としての“カン”も大切にされていましたね。ここで言う“カン”とは、患者さんの顔を最初にぱっと見て、「この人は○○病かもしれない」という直感です。代田先生は、それがずばり当たるのです。そのようなカンというのも、経験を積んだ臨床家にとっては大事なことだと思います。

 

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トーマス先生のユニークな視点がおもしろい雑談コラム


――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

トーマス 私は、みなさんに知ってほしいお気に入りの言葉があります。ブッダの言葉で、次のようなものです。

Believe nothing, no matter where you read it, or who said it, no matter if I have said it, unless it agrees with your own reason and your own common sense.

日本語に意訳すると「人の言ったことを、そのまま信じるのではなく、自分で考えて理解しなさい」ということです。この言葉は、自分の健康管理にも当てはまることです。世に出回っている健康関連の商品には、「これをすれば楽に痩せられる」だとか「これをすれば病気は治る」といった宣伝文句がよく付いていますが、それらをそのまま受け取って惑わされてはいけません。何か一つのことをしたり、特定のものを食べたりして健康になるほど人の体は単純にできていないのです。

健康管理は、基本的に自己責任によるものです。今は何でもかんでもすぐに医者や病院のお世話になろうとする人が多いことも気になります。例えば、腰が痛くなったら病院に行くとする。それで治るかもしれませんが、まずは悪化する前に、普段の生活で姿勢を直そうという意識も持たなければなりません。医療のお世話になる前に、まず自分で何ができるかを考えてほしい。今回の本が、その手助けになればとてもうれしいですね。そして、医療のお世話になる前に、運動方法や姿勢改善などの“自分でできること”を薦めていくのは、東洋医学の専門家たちの役割だと思っています。

 

●トーマス・ブラーゼイェーヴィッツ 鍼灸マッサージ師。1956年、ドイツの港町キール生まれ。79年、22歳のときに弓道を志して来日。ドイツ語教師、英語教師を経て、81年に日本鍼灸理療専門学校に入学。84年、同校卒業後、日産厚生会玉川病院にて勤務。95年、葉山でトーマス鍼灸院を開業。鍼灸マッサージ治療と独自の健康指導で地域医療に貢献する一方、翻訳家としても活躍中。

 

 


 

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ドイツ人鍼灸師 トーマス先生の話を聞いてみませんか

 

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