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経験者が語る緩和ケアの現場
鍼灸師の役割に対する 苦悩と希望(動画あり)

鈴木春子 細田行政 才村雅志 高梨知揚

緩和ケアの現場において、鍼灸師と患者のかかわり、その空間にはエビデンスでは表せない鍼灸の価値があるのではないか。病院の外来・入院病棟・在宅で鍼灸による緩和ケアを実践してきた鍼灸師と、それら現場に赴き鍼灸のかかわりについて調査研究を行う研究者が、それぞれの経験や得た見識を持ち寄って、「緩和ケアにおける鍼灸の役割」を明確にするための交流会を発足した。 死に向かう患者に寄り添う鍼灸師たちが語る「緩和ケアのリアル」とは――。

【「治すこと」を目標にできない 現場の戸惑い】

高梨  私は末期がんの患者さんに鍼灸がどのようにかかわれるかに着目し、調査研究を進めてきました。その過程で才村先生をはじめここにいらっしゃる先生方にお会いし、2015年9月に4人の交流会を立ち上げ、「緩和ケアにおける鍼灸」について、それぞれの経験を多様な観点から語り合ってきました。本日の座談会では、緩和ケアの現場で経験する「臨床上の戸惑いと苦悩の経験」を中心にお話しできればと思います。まずは緩和ケアにおける先生方のかかわり方を、簡単に紹介していただきたいと思います。細田先生からお願いします。
細田  僕は2005年4月から2010年1月まで、医療法人社団爽秋会岡部医院に勤め、在宅で療養しているがん患者さんへ訪問して鍼灸を行ってきました。かかわったがん患者さんは、入職してから2008年6月までで90人ほどになります。爽秋会では、鍼灸師がかかわる流れが2通りあります。一つは医師や看護師が患者さんの苦痛緩和のために鍼灸をすすめる場合、もう一つは患者さん自身から鍼灸の要望がある場合です。
才村  僕は2010年2月から医療法人社団花の谷クリニックに入職し、緩和ケア病棟に入院している患者さんへ鍼灸をしています。以前自宅で治療院を開業していまして、緩和ケアは実際に何をしているのかはほとんど知らない状態でした。2016年までにかかわった患者さんは147人です。医師や看護師、患者さんから鍼灸を依頼されることもありますが、基本的には私から患者さんへ「鍼灸を受けてみませんか」と声をかけることが多いですね。

座談会のなかから、才村氏の体験談をYouTubeに公開しました。

鈴木  私は1994年から国立がん研究センター中央病院緩和ケアチームで17年間と、同センター東病院緩和ケア病棟で6年間、新座志木中央総合病院で5年間緩和ケアに携わってきました。その間にかかわったがん患者さんは1350人ほどです。主に抗がん剤の副作用、終末期の呼吸困難、骨転移の痛みの緩和などに対して鍼灸を行ってきました。
高梨  ありがとうございます。それでは緩和ケアのなかでも、主に回復の見込みがない時期から、看取りの時期にある患者さんへの鍼灸の取り組みについてお話しいただきます。  
  まず、これまで先生方がかかわってきた緩和ケアの現場を振り返っていただいて、実践してきたことや考えてきたこと、感じたことなどを共有できればと思います。才村先生は緩和ケアの現場を知らない状態で今の職場に入職したとのことですが、実際に緩和ケアの現場に入って、すぐに順応はできたのでしょうか。
才村  最初から順応はできなかったですね。緩和ケア病棟で働くということは、がん終末期の患者さんを治療することだと分かっていたつもりでいましたが、実際に患者さんを前にしたときに、これまでの鍼灸師としての経験で何ができるのか、全く分からなかったです。また、自分の置かれている環境が個人経営の鍼灸院から、医師や看護師、ヘルパーといった他職種がたくさんいる病院に変わったこと、かつ鍼灸師が一人であること、そして本当に明日亡くなるかもしれないがん終末期の患者さんに触れること、これらの変化はとても大きかったですね。患者さんに鍼灸をするまでにいろいろな手順を踏む必要がありますし、病院側のスタッフも鍼灸師が初めて同じ職場に入ってきたので、「何ができるんだろう?」というように、お互いに理解し合えない部分もありました。  
  そんななかで、自分は鍼灸師として結果を出さなきゃいけないという気持ちが大きくなっていたんです。しかし、そう思えば思うほど、患者さんにとってはよい治療にはならなくなっていくように感じました。

高梨  結果を出したいというのは、具体的にはどのようなことでしょうか。
才村  終末期の患者さんに対しても、「鍼灸でその患者さんを治したい」と思っていました。でもやっぱり今まで自分の治療院でみてきた患者さんと身体が違うから、思っていたような結果、この場合は症状緩和ですが、それを出すことができない。できないというより、どうしたらよいのか分からなかった。何が有効なのか分からないという戸惑いがありました。
高梨  結果を出したいと思うことで、逆によい結果が出なくなる原因とは何でしょうか。
才村  入院している患者さんにはそれぞれのバックボーンがあるんです。しかし僕はその患者さんが一番悩んでいること、つらいことが何なのかを探ろうとせず、あるいは探ろうとしていたのに、どこか食い違っていて、ただ痛みやつらい症状を何とかしようとする治療をしていたのだと思います。
  でも、患者さんはすでにつらい思いをしてきているので、ぞんざいな治療というか、本当に寄り添っていない治療はよく感じ取るんです。そして身体も気持ちも閉ざしてしまい、受け入れてもらえなくなるんです。
鈴木  花の谷クリニックでは、才村先生が自身で患者さんに声がけをして鍼灸をしているそうですが、どの患者さんに鍼を行うのかの判断はどこでしているのでしょうか。
才村  今病棟のなかで一番つらいはずの患者さん。いってしまえば、予後が分かっているような患者さんですね。
細田  どういうきっかけで才村先生なりの鍼灸師の役割を見出しましたか。
才村  症状を緩和することに関してできることはあるけれど、いくらやっても患者さんは全員亡くなってしまうわけです。そこで、この場に自分がいる意味は何なのかと悩み、「俺が何をやっても無駄だ」と、気持ちがどん底まで落ちたんです。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2017年8月号」でお読みください。