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小説家兼鍼灸マッサージ師・松波太郎さん最新作
『本を気持ちよく読めるからだになるための本』

小説家で鍼灸マッサージ師の松波太郎さんが、新刊『本を気持ちよく読めるからだになるための本』を上梓しました。鍼灸や東洋医学をショートショートという短い小説の形式で表現した意欲作です。ここでは、本書のなかから編集部が選んだ"響くことば"を紹介します。


小説家兼鍼灸マッサージ師の松波太郎さんが、新刊『本を気持ちよく読めるからだになるための本』を晶文社から上梓しました。松波さんは、文學界新人賞や野間文芸新人賞などの受賞歴をもつ実力派の作家。と同時に、埼玉県さいたま市に鍼灸マッサージ院「豊泉堂」を構える治療家でもあります。月刊「医道の日本」2019年6月号 では、「ポートレート」のコーナーに登場。誌面では、患者さんの背中が原稿用紙に見えることがあるという独自の視点から、小説と鍼灸について語っていただきました。

今回の新刊は、副題に「ハリとお灸の東洋医学ショートショート」とあるように、ツボ、脈、美容鍼、養生といった多彩なテーマのショートショートが24本収録されています。鍼灸や東洋医学と聞くと、一般の人はどうしても堅苦しく感じてしまいがちですが、本書では松波さんならではの世界観と表現方法で、やわらかく伝えようという試みがうかがえます。

ここでは、鍼灸治療における得気のように、本書を読んでいい感じに"響くことば"を5つ選んで紹介します。


ことば1

肩コリなのになんで足にハリをするんですか?
臨床でありがちな患者さんからの質問。本書では、学生同士の鍼治療の練習場面で、患者役側が発します。治療者はどのように応じるのが適切なのか。東洋医学の理屈をどこまで噛み砕いて説明すればよいのか。実際の臨床では、あらゆる想定外の質問が飛んできますが、想定内の質問には基本の回答を用意しておきたいものです。



ことば2

身体のあちこちに「壺」があり、そこに刺激を与えると、響きがある。
響くためには空間が必要で、そのポイントを「経穴」つまり穴と言ったり、
内に空洞をもつ「壺」と言ったりすることに、身体的な合点がいく。

本書のショートショートの合間には、松波さんの治療を受けた作家、漫画家、映画監督らによるコラムが掲載されています。多士済々の書き手が綴る「体験のことば」からは、鍼灸の持つ多様な魅力が伝わってきます。
このことばは、芥川賞作家の滝口悠生さんによるコラムの一節です。経穴はなぜツボと呼ばれるのか、ツボを入れ物としての「壺」と捉えて考察を展開します。壺も穴も内部が空洞になっていて、だからこそ響く。経穴も響くからツボと呼ばれるのではないか。滝口さんは治療を受けながら、身体的な合点がいったようです。
ちなみに滝口さんの鍼灸体験談は、月刊「医道の日本」2019年8月号 にも掲載されています。



ことば3

東洋医学、鍼灸治療には不安を抱いてしまう人も多い。
けれど、一度ささやかな勇気を出して、鍼やお灸を体験してみてもらいたい。

作家・坂上秋成さんのコラムから。坂上さんは鍼灸治療を受けたことで長年悩まされていた自律神経の乱れが改善し、その経験をもとに、鍼灸師を主人公とした小説『夜を聴く者』(河出書房新社)を発表しました。
鍼灸を受けるきっかけは人それぞれ。病気の治療や美容目的、あるいはちょっとした興味だけの場合もあるかもしれません。動機は何であれ、初めての鍼灸治療は少し不安で、一歩を踏み出すにはささやかな勇気が必要でしょう。新しい患者さんは、勇気を出して来てくれている。この言葉を治療者目線で味わうと、忘れてしまいがちなことを思い起こさせてくれます。
坂上さんの鍼灸体験談も、月刊「医道の日本」で読むことができます。2020年2月号 をぜひご覧ください。



ことば4

特定のツボどころか、ハリ自体も打ってはいけない気持ちにだんだんとかられてきます......
ショートショート「禁断のツボ」に出てくる一文。実際に起こったあるニュースに影響されて、物語中の鍼灸師は治療に自信を失い、不安にかられてしまいます。
もし、超有名なスポーツ選手がいきなり来院して、選手生命を脅かしている原因を診てほしいと頼んできたら。もし、国民的人気歌手が突然やって来て、明日のライブに間に合うように喉を治してほしいと懇願してきたら。治療家としての栄光を掴むチャンスであると同時に、失敗のリスクは計り知れない。果たして自分に治せるだろうか......。
そんな「もしもの出来事」を、つい自分自身に置き換えて妄想してしまいます。



ことば5

本を気持ちよく読めるからだになるのって、
もしかしたら一番理想的なコンディションなんじゃないですか?

本書の冒頭で、ある患者さんが鍼灸師に問いかけたことば。本書のタイトルにも通じる一文です。
目がかすんで文字が見えづらい、長時間座っていると腰が痛い、本を持っている手が疲れる、そもそも頭がぼうっとして情報が入ってこない......。こうして挙げてみると、案外、読書に伴う身体の不調は多そうです。気持ちよく読書をするためには、小さい文字を読める目、長時間座っていてもびくともしない腰、本を持ち上げられる筋力を備えた手、内容を理解するための明瞭な頭というように、それなりの身体的コンディションが求められます。加えて、時間的なゆとりも必要ですし、落ち着いて読める精神状態と環境も欠かせないでしょう。
「本を気持ちよく読めるからだが、一番理想的なコンディションではないか」という患者さんの気づきは、心身の捉え方の核心をついているように感じられます。



以上、編集部が選んだ5つのことばを紹介しました。本書全体を包んでいる雰囲気は、どことなく不思議で、のんびりとしていますが、所々で心に"響くことば"と出合うことができます。外出自粛が呼びかけられ、研究会や練習会の開催が難しい現在、本を読んで鍼灸臨床について考えを深めてみるのもよいかもしれません。
なお、本書に出てくるコラムの一部は、松波さんの「豊泉堂」WEBサイト でも読むことができます。



本を気持ちよく読めるからだになるための本(晶文社刊) 書影.jpg

松波 太郎(まつなみ たろう)
1982年生まれ。小説家、鍼灸マッサージ師。大東文化大学中退、宇都宮大学卒業、一橋大学大学院言語社会研究科修了。東洋鍼灸専門学校卒業。中国・北京中医薬大学短期研修、都内の治療院数カ所での勤務・研修を経て、2018年に豊泉堂を開院。小説家としては2008年「廃車」で文学界新人賞受賞、2009年「よもぎ学園高等学校蹴球部」で第141回芥川賞候補、2013年「LIFE」で第150回芥川賞候補、2016年「ホモサピエンスの瞬間」で第154回芥川賞候補。『LIFE』(講談社)では野間文芸新人賞を受賞。

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