摂食障害と糖尿病を併発した症状に鍼灸治療と
ヨーガが著効した1例(※近日動画公開予定)

清水紀子 氏

【Ⅰ. はじめに】

現代人は暮らしのなかで、数多くのストレスを抱えている。このストレスは、心身症や精神疾患を引き起こす以外にも、不安や社会への不適合、教育現場での不登校、家庭内関係不和などの原因になる。「心身のホメオスタシス(恒常性)の維持に必要なのは、肉体活動と精神活動のバランスをとることである1)」といわれている。

当院では心身の調和を図るべく、鍼灸治療とともに患者自らが実践、体感できるヨーガ療法*1を取り入れている。ヨーガ療法は、鍼灸治療では介入しがたい失体感症(身体への意識や感覚を把握できない)や、失感情・言語化症(情動や感情を認知、表現することができない)、交感神経が優位なストレス状態を、患者自身の身体や呼吸の動きによって、「今、ここ」を意識化させることで、心も身体も客観視できるようにする。つまり、ヨーガの実習によって常に意識化とリラックスに努めることで、ストレス状態のなかでも、心の働きを自律的にコントロールできるようになる。これによって、症状の緩和、治癒のみならず、再発の可能性をも低くさせる。


1)日本ヨーガ療法学会. R .ナガラートナ先生に聞く. ヨーガ療法通信 2005(; 2): 27.
*1 ヨーガ療法(ヨーガ・セラピー)は、伝統的なヨーガを、科学的研究のもと、一般の人や疾患を持つ人でも安全に行えるように改良された人間教育法である。さらに身体や心の面のみならず、魂の領域までも扱うことができるといわれている。現在、インドをはじめ、南北アメリカ、カナダ、欧州、オーストラリア、アジアなど、世界50カ国にセラピストがいる。免疫系・内分泌系・循環器系・消化器系、運動器系、精神疾患系など、さまざまな疾病に適用され、多くの研究が行われている2)3)
2)ジョン・ケプナー. 基調講演 IAYTの認定・資格制度作り. ヨーガ療法研究 2019; (16): 13.
3)須田育. 摂食障害患者に対するグループレッスン法とその効果. ヨーガ療法研究 2019; (16): 142.

 

【Ⅱ. ヨーガとの出会い】

鍼灸学校卒業後、導かれるようにインド、ネパールへ一人旅をした。当初はヨーガを学ぶ目的など全くなく、ただインドへ行ってみたいという興味本位だけであった。たくさんの人に出会い、そこで初めて、「ヨーガの智慧」に触れた。当時、21歳であった筆者にとって、目から鱗が落ちるような教えであり、それまでの物の見方や考え方が180度転換した。

そのなかで特に印象に残った教えは、「人生の目的とは」「人生を生きていく方法(術)とは」「真の幸福とは」であった。1カ月もの間、ヨーガの教えに沿った生活をしながら、智慧の数々を学んだ。筆者自身の基盤となる、まさに「心の支柱」が立った実り多い旅であった。

1. ヨーガをどのようにとらえているか

ヨーガは、身体や呼吸器官を使うアクロバット、奇術のような見せ物、超能力のようなものではない。ヨーガとは「人間を動物的本能次元から、思考能力を発揮できる次元へ、さらには、内に眠っている無限の可能性を表現できるような高い次元にまで私たちを導いてくれる智慧である4)」といわれている。したがって、ヨーガ実習者は、身体の健やかさや活力を得るだけではなく、効率のよい生活の仕方やバランスのとれた感情、心の清らかさ、知性の鋭さなどがもたらされるようになる。筆者は、ヨーガの最終目的を「内に向かう心と外に向かう心をコントロールし、人間の潜在的資質である『真の本質』を知り、それを具現化させるための智慧である」ととらえている。

2. ヨーガのエッセンスをどのように治療に取り入れているか

まずは、ヨーガにおける身体観と病理観について述べたい。ヨーガの教えでは、身体は5層の鞘のような階層でできていると考える。各層は外側の肉体の層から、内に向かってより精妙な霊的な層へとつながっている5)


4)H. R. ナゲンドラ, R. ナガラートナ. ストレス・マネージメントのためのヨーガ・セラピー. 日本ヴィヴェーカナンダ・ヨーガ・ケンドラ, 2001. p.3.
5) ジュリエット・ぺグラム. ハタヨーガ. 産調出版, 2005. p.10

 

ヨーガは、人間をホリスティックな存在としてとらえており、病気は「無智から生ずる6)」といわれている。この無智がどこから生じ、何を意味するのか。

私たちの「物の見方や考え方・知識」は、身体の5つの階層のなかの理智鞘に当たる。無智は理智鞘で生じ、認知の歪み(誤った認知)を生み出す。認知の歪みによって「真の本質」から離れ、執着心(こだわり)、嫉妬心、自我(エゴ)、憎悪などの形となって現れる。また記憶(歓喜鞘)からの残存印象は、理智鞘で受けることで、その思考作用から種々の感情的な怒りや悲しみ、苦しみなどが生じ(意思鞘)、呼吸は乱れ(生気鞘)、病気(食物鞘)へと至る。さらに、心のなかに抑圧された感情がある場合には、その不調和は肉体へと染み込んでいく。しかし、この無智はヨーガの智慧をもって克服できるようになる。

当院では、問診のなかで患者の状態を把握し、どの鞘からアプローチするのが適切かを見極め、それぞれ必要な鞘の部分を組み合わせ、プログラムを決める。その日の体調など、状況に応じてプログラム内容は変えることもある。

(1)食物鞘に対するアプローチは、「ヨーガ・アーサナ」である
心の働きを静めるのに役立ち、肉体によい効果をもたらす各種の体位である。各関節の動きが硬くなり、筋肉も萎縮するといった肉体に蓄積されたストレスも解消させることができる。

(2)生気鞘、意思鞘に対するアプローチは、「呼吸法(プラーナーヤーマ)」である
ストレスの影響を受けている状況のなかでも、意識的に規則正しくゆっくりと呼吸をするよう、患者に促すことで身体の調和が維持できる。さらに、意思鞘の不調和をも正すことができる。

(3)理智鞘に対するアプローチは、「ヨーガの智慧によるカウンセリング」である
このカウンセリングをヨーガ療法では、ヨーガ療法ダルシャナ(双方向的コミュニケーションのための言語的かかわり)と呼ぶ。


6)木村慧心. ヨーガ・スートラ. 日本ヨーガ・ニケタン, 2011.

 

つづきは、雑誌「医道の日本2019年9月号」でお読みください。

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