――医師と理学療法士、それぞれの立場から徒手筋力検査をどのように用いているのかを教えてください。
斉藤 私は、スポーツ整形外科医としてスポーツ選手を診察する機会に恵まれてきました。スポーツ選手にとって怪我は、選手生命を左右するものです。診断をするうえで、MRIやX線検査などの画像所見も大切ですが、「筋がどういう状態」で、「どこまで機能するのか」といった詳細な機能的評価が当然必要になります。徒手筋力検査は、特に運動器の診断には欠かせない判断材料として使われています。
間嶋 徒手筋力検査は、筋疾患や末梢神経麻痺などの運動器の評価には必ず用いています。特に理学療法士は、リハビリによる治療経過を評価するために使い、評価ごとに記録も取ります。また初見の際には、リハビリテーションのメニュー作成の大切な要素となります。
――徒手筋力検査に関する書籍は他にもありますが、それらと比べて本書は何が違うのでしょうか。
斉藤 本書の特徴は大きく3つ挙げられます。
1つは、評価における筋力の段階づけが7段階であることです。これまでに用いられてきた徒手筋力検査では、0から5までの6段階の評価が主流でしたが、本書では筋の持久力を評価する「6」が設定されています。
筋力の評価(グレード)。本書ではグレード「6」が紹介されている。
2つ目の特徴は「クイックテスト」が紹介されている点でしょう。患者さんが診療室に入ってきて、椅子に座るまでの動作を観察し、さらにこのクイックテストを用いれば、詳細な検査に入っていく前に、患者さんの全体の筋バランスを把握することができます。そこで大まかな筋のバランスを評価し、MMTなどでさらに局所を評価し、どこに原因があるのかを絞ることができます。
筋機能の全体像を評価する「クイックテスト」。マチアス姿勢能力検査や片脚立位検査、スクワットなどを紹介。
3つ目は、各関節の動きに関与する「筋短縮」や「筋力低下」がある場合、筋の外見や触診、関節可動域などにどのような変化が見られるのかを「臨床症状」として、まとめている点です。臨床症状は、クイックテスト同様に筋のバランスや特有の疾患を鑑別する際に役立ちます。この辺の運動器の評価については、理学療法士が得意とするところです。
各関節の動き(屈曲、伸展など)に関与する筋の短縮や筋力低下によって現れる臨床症状を紹介。
――理学療法士の視点から臨床に生かすことができる本書のポイントを教えてください。
間嶋 筋短縮や筋力低下によって現れる「臨床症状」は、理学療法士の臨床で活用する機会は多いです。患者さんの主訴を聞いている段階で、「臨床症状」に書かれている内容をもとに病態について仮説を立てることができます。またクイックテストについては、斉藤先生がおっしゃられたように、全体像を先に掴んでから、細かい評価に入っていくことが可能です。
本書は1冊に徒手筋力検査の方法、クイックテスト、臨床症状といった評価について臨床に役立つ情報が詰まった書籍だと思います。
大塚 同じ筋の筋力低下を起こしている患者さんでも、筋力低下が原因で起こる代償動作には個人差があります。何度か来院している患者さんについては、リハビリをするうちに、その患者さん独自の身体の使い方が分かってきて、どういう代償動作が出るのかをイメージすることができます。「この筋が弱くなっているな。だからこういう代償動作になるだろうな」という評価です。ただ初見の患者さんは、イメージがありません。そして患者さんによっては代償動作をうまく隠すことができる人もいます。「臨床症状」の内容をあらかじめ把握しておけば、初見の患者さんに対して「この筋の筋力が低下しているから、この代償動作が出ているのでは」という視点でリハビリの計画を立てることができます。臨床経験の浅い人には、非常に参考になるのではないでしょうか。
※マッサージ情報関連サイト「シアナ」の記事&ニュースより転載
「シアナ」サイトでは、後編として『徒手筋力検査ビジュアルガイド』をもとに、間嶋氏と大塚氏による徒手筋力検査の実践を紹介していきます。