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編集部チャレンジ企画 鍼灸受療率アップ大作戦!

第10回 漫画に学ぶ鍼灸の伝え方

● 話し手 ●
東野柚子氏(漫画家)
加藤大氏(編集者)

   『モーニング』といえば、大手出版社の講談社が1982年に創刊し、毎号20万部近い発行部数を誇る漫画週刊誌である。そんな同誌では2018年18号(4月5日発売号)から24号(5月17日発売号)まで、鍼灸を題材にした『素直なカラダ』が連載され、5月23日には単行本を発売した。そこで今回は、著者であり鍼灸師の資格を持つ東野柚子氏とその編集者・加藤大氏に、「鍼灸を漫画で伝えること」について話を聞いた。他のメディアでは、一般読者に向けて鍼灸を発信する際、どんなことに気をつけているのか。業界にいると気づきにくいその配慮が、治療家と患者の距離をさらに縮める一助になるかもしれない。
   また、実は現在、とある大手メディアが鍼灸のリサーチを行っている。現段階で詳細を語ることはできないが、先月、その関係者が弊社を訪ねてきた。やがて鍼灸業界に大きな追い風が吹くかもしれない。その期を逃さぬよう、今のうちに伝え方について考えておきたい。

【「今日やらない後悔」をしない人生へ舵を切ったわけ】

――東野先生の『素直なカラダ』は、原因不明の頭痛に悩む主人公・栗原かのこが、フワフワしているが腕は確かな鍼灸師である曲直瀬巴と出会い、鍼灸の世界を知っていきます。鍼灸治療やその考え方が、魅力的なイラストとストーリーのなかで簡潔に表現されていて、とても分かりやすいですね。東野先生は鍼灸師のお仕事をしていたとのことですが、漫画を描き始めたきっかけは何でしょうか。

東野    子どもの頃から絵を描くことは好きでした。中学生のときは少女漫画が流行っていたこともあって、自分で漫画をつくって、共通の趣味を持つ友人と見せ合ったりしていました。

東野    でも高校生くらいになると、「漫画を仕事にするのは(技量などの面で)難しい」と思うようになり、だんだん絵を描いたり漫画を描いたりすることが恥ずかしくなって、自分で描くことはなくなっていきました。それでも、読むのは変わらず大好きでした。
   本格的に描き始めようと思ったきっかけは、2011年の東日本大震災です。当時、盛岡市の私が住んでいた地域はそれほど深刻な被害は受けなかったのですが、沿岸に住んでいた知人はもっとひどい状況で、なかには亡くなった人もいました。そのときに、「明日何が起こるか分からない、今日やらないで後悔して死んだらいやだ」と思ったんです。それで、幼少期からずっと好きで、でも仕事にはできないと思っていた漫画も、「駄目でもともとだと思ってやってみて、あわよくば自分がいた形を残せればいいな」と考えて、描き始めました。

――被災した経験が、漫画家の道を選ぶきっかけになったんですね。鍼灸師の資格をとったのはなぜでしょうか。

東野   鍼灸師の資格は被災する前に取得していましたが、初めから鍼灸師を目指していたわけではありません。高校卒業後は、いったん東洋医学と関係のない会社に勤めていました。しかし漠然と「この仕事をずっとやっていくのかな」という不安があって、そんなとき、近所の本屋さんに行ったんです。何かこれからのヒントになる本などを探すつもりでした。そうしたら、ちょっとオカルトチックな話になるかもしれませんが……突然知らないおじさんに話しかけられたんです、「あなたにはこの本がいいと思うよ。俺にはよく分からないけど」って。そのとき勧められたのが松田博公氏の『鍼灸の挑戦』(岩波書店)で、それを初めて見たときに何だかよく分からない確信が湧いて、「これだ」と思いました。

――鍼灸との出会いはそれこそ漫画のように運命的なものだったんですね。そして本作で鍼灸を題材にしたわけですが、鍼灸のことを漫画で描く際にどんな苦労がありましたか。

東野    鍼灸には流派がいろいろとあって、考え方も違いますよね。あまり偏りすぎると説明も極端になっていって、それを訝しがる読者もいますし、鍼灸師の方には特に「考え方が偏っているな」と思われてしまいます。なので、なるべくフラットに描こうと意識しました。また、曲直瀬が施術するシーンでは「手の柔らかさ」をすごく意識しています。名人と呼ばれる治療家の先生って、手の動きがとても柔らかいですよね。それを漫画でも表現できたらいいなと思って描きました。

   あとは、漫画として印象がなくては困るので、編集者の加藤さんと相談して、キャラクターを生かしたストーリーになるようにしています。例えば鍼灸師の曲直瀬は、あまり感情表現をするほうではないミステリアスなキャラなので、周りのキャラはわりと感情を出すタイプにして、バランスをとってみたり、読者層の幅も広げたかったので、小さい子からお年寄りまで登場させようと考えました。
   また、専門的な理論とか、小難しい話はほとんど省略しています。なぜなら初めて読む読者にとっては、ハードルを上げることになってしまうからです。全6回の連載、つまり単行本1巻分で鍼灸の奥深さや魅力を伝えきるのは無理だと思っているので、講談社という大きな出版社が鍼灸ネタを取り上げてくださったこと自体が重要なことで、読者の目に届き、「受療してみようかな」と思うきっかけになればうれしいです。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2018年6月号」でお読みください。