スポーツ研究の第一人者に聞く
膝の治療とケアに関する最新知見

中田 研 氏 聞き手:山口由美子 氏

「太陽の塔」がそびえる万博記念公園からモノレールで1駅の大阪大学吹田キャンパス内、同大学医学部附属病院に隣接して、革新的医療技術の基礎研究から実用化までの取り組みを産学連携で行う「最先端医療イノベーションセンター」の建物がある。同センターにて中田研氏は、一流スポーツ選手の競技復帰に向けたトレーニングを支援し、最近ではスポーツ選手が急に思い通りに動けなくなる「イップス」とジストニアの関連についても研究している。実用化に向けて臨床研究が進む半月板再生医療にも携わっており、幅広く活躍する中田氏に、最先端の研究の話題と、膝の治療において鍼灸マッサージ師が果たす役割を聞いた。

【消失して生まれ変わる新しい形の「医療機器」】

山口   中田先生の研究室で、コラーゲンを活用した半月板再生治療の臨床研究が始まるという記事が、2015年10月の新聞に掲載されました*1。どういった治療なのか、また、現在の研究の状況について教えてください。

中田   欠損した半月板の代わりに、ウシの皮膚からつくられたコラーゲンを移植する治療です。コラーゲンというと、普通は寒天みたいに柔らかいジェル状のものを想像しますよね。骨や軟骨にもコラーゲンはあります。


*1  日本経済新聞朝刊2015 年10月4日付
「半月板損傷に光 患者の細胞から、牛のコラーゲン活用」

中田   実際の材料をお見せしましょう。これは乾いている状態ですが、スポンジのように細かい穴が空いていて、プラスチックの消しゴムくらいの弾力性があります。濡れたらもっと弾力性が出てきます。

そして、こちらは実際に臨床研究で使ったコラーゲンです。使い終わったあとなので素手で触っていますけれども、手術の前には完全に滅菌された状態で密封されています。これを切り取って、手術で半月板の代わりに人の身体のなかに入れました。

山口   患者自身の軟骨を一部切り取って移植する手術の例は身近なところでも聞くようになりましたが、これはウシのコラーゲンですよね。拒絶反応は起きないのでしょうか。

中田   他人の組織を移植しても拒絶反応は起こりますし、ましてや種が違ったら普通は拒絶されます。このコラーゲンは鉛筆のように細長い分子構造で、その両側に、マッチ棒の頭のように別のタンパク質がついています。このタンパク質がウシとヒトでずいぶん違うのですが、それを全部削り取ってしまえば、残りの部分はウシもヒトもほとんど一緒なんですね。そうして、ウシ由来ですけれどヒトにも拒絶反応が起こらず、さらに、半月板に使える強度のあるコラーゲンを開発して特許を取得しています。

このコラーゲンを利用した半月板再生の臨床研究は、これまで大阪大学附属病院だけで行われていましたが、2019年からはほかの病院でも治験がスタートできる予定で、その結果によって、1~2年後には多くの病院で同じ治療が行えるようになる見通しです。このコラーゲンは、タンパク質という金属以外の素材でできた新しい医療機器という位置づけになります。
山口   どういう意味でしょうか。

中田   日本では治療に使うものを3つに分けています。1つは「医薬品」。もう1つは「医療機器」、例えば心臓のペースメーカーですね。眼鏡も、視力の低い人がかけることで見えるようになるという意味で医療機器の一種です。聴診器も診断用の医療機器。そして3つ目が「細胞を使った再生医療」です。

半月板を再生するためにコラーゲンを使うこの方法は、もともと身体に存在するタンパク質から新しい医療機器をつくるという点で、これまでの医療機器とは違います。人工関節や心臓ペースメーカーのように、一生身体のなかに金属が残るのではなくて、コラーゲンなので半年くらいで吸収されてなくなっていきます。そして、身体の細胞がつくる新しい半月板のコラーゲンに生まれ変わるというのがこの治療法です。ただ、今の3つのカテゴリーでいうと、細胞を使っていないし、薬でもないということで、今の段階では「医療機器」なんですね。

先ほど説明したように、コラーゲンはスポンジのように細かい穴が空いていて、そこに身体の細胞が入り込むようになっています。次の段階として、この穴に最初から幹細胞や、iPS細胞を入れた状態で移植する研究を今、当大学豊中キャンパスでも並行して進めています。そうすると3つ目のカテゴリーである「細胞を使った再生医療」になり、それを目指しているわけです。

【オーダーメイドの手術へ 保存治療や再生医療も進歩】

山口   人工関節や骨切り術といった、従来からある手術の手法も進歩しているのでしょうか。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2019年1月号」でお読みください。

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