夜尿症に灸治療が奏効した症例

阿古幸代 氏

筆者は透熱灸を始め、台座灸(長生灸)や棒灸などを用いた灸療法を行っている。台座灸や棒灸は、まだ鍼治療や直接灸を行うことができない小児の治療に効果的である。

臨床では、小児によくみられる疾患・症状、例えば夜尿症、喘息、アトピー性皮膚炎、発達障害などにおいても、灸治療だけで効果を示すことがある。本稿では、小学生男子の夜尿症に灸治療が著効を示した症例について報告する。

【Ⅰ. 夜尿症への基本的な灸治療】

小学生以下の小児は鍼を怖がることが多く、刺激量の面においても刺鍼は適さない。当院では打鍼を用いることがあるが、基本的には灸を主体とした治療を行っている。

夜尿症への灸治療も、そのほかの鍼灸治療と同様に、経絡のバランスを整えることによって症状の消失、寛解を目指していく。

小児には特に、棒灸の治療が適している。夜尿症の小児の場合、腹部全体が硬くなっていることが多い。腹部の筋が硬く柔軟性に乏しいと、肝、腎、膀胱の虚として内臓の働きが弱まり、それが夜尿症の一因になっていることが考えられる。図1(※雑誌「医道の日本2019年11月号」参照)のように、腹部を棒灸によって温めることで、腹部全体の緊張や硬さを緩ませていく。方法は、棒灸を鉛筆のように片手で持ち、腹部の上で円形や楕円形に回しながら、上下左右に動かしていく。もう一方の手で、腹部の温感や緊張の変化を確認する。体表との距離には十分に気をつける必要がある。
腹部の緊張や硬さがとれると、全身の血液の巡りもよくなり、そのほかの不調も改善されることが少なくない。経穴としては、募穴を意識する。また、棒灸だけでなく、水分、肓兪、陰交、関元といった経穴に台座灸を据えてもよい。

なお、この棒灸の治療は、小児だけでなく大人の患者にもよく用いる。大人の場合、腹部の脂肪燃焼を促進させるために行うことが多い。10〜15分程度の腹部への棒灸によって、患者自身が腹部の硬さの違いを自覚できる。

【Ⅱ. 症例】

今年、両親とともに来院した小学4年生の男児の症例を紹介する。主訴は夜間尿だったが、継続的に来院するなかで本人、両親とも信頼関係が構築でき、生活全般についても話し合い、アドバイスするようになっていった。本稿では治療の要点を抜粋して報告する。

【患者】
A君、10歳。

【主訴】
夜尿症。

【来院の経緯】
今年2月、当院の患者の紹介で、A君本人と両親、父親の母(祖母)の4人で来院。A君は夜間尿が止まらず、10年間、夜間のおむつを外すことができないとのことだった。そのほか、両親によると、夜寝るときに暴れてドスンドスンと床に音を立てることがある、朝起きてずっと一点を見て動かない、集中力がなく何をしてもすぐに飽きる、友人が少ないなど、A君の普段の様子に不安な面を抱えているところが多くあるという。両親の希望は「普通の子どもに育ってほしい」とのことだった。
【初回の診察】
夜間尿以外の症状としては便秘気味とのこと。姿勢は猫背、身体全体が年齢のわりには硬く柔軟性に乏しい。腹部は板のように張っており、硬い。両手バンザイができにくい。

鍼灸治療は初めてで、何をされるのか不安な様子でひどく緊張していた。「寝る子は育つ」というが、しっかり眠れていないので、成長ホルモンの分泌が悪く、自律神経が乱れ、また硬くなった身体は冷えており、さまざまな不調を生じさせていることが疑われた。さらに両親の話から発達障害の可能性も考えられ、本人、そして両親のストレスを緩和させるようなアプローチを重視した。

【初回の治療】
まず背臥位で腹部募穴への打鍼を行った。募穴に打鍼することで、経絡の気血の巡りをよくする狙いがある。気は肌肉を温め、血は筋の内を流れて皮膚を潤す。灸は、水分、肓兪(両側)、陰交、関元に長生灸(ハード)を3壮。また足部の五趾、足関節をゆっくり回す運動を加えた(小さな関節から、大きな関節を緩めるため)。

腹臥位では、身柱、肝兪(両側)、腎兪(両側)、膀胱兪(両側)に長生灸(ハード)を3壮。腹臥位で施灸している間に、A君は眠ってしまい、起こしても起きないので30分ほどそのままにしておいた。父親は「お腹って、緩むものなんですね」と驚いていた。

以降、この治療を基本に、週1回のペースで実施していくことになった。

【経過】
4月から、腹部への棒灸を治療に取り入れる。腹診では、期門と下腹部に圧痛を認める。熱くないので、A君も安心して施術を受けているようだった。当初は、板のように硬かった腹部が、治療前の状態でも柔らかくなってきた。この頃から、顔面部への台座灸も抵抗がないと考え、適宜、攅竹にも長生灸(レギュラー)を行う。自律神経を調整する狙いがある。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2019年11月号」でお読みください。

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