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医師が鍼を打つということ
石野尚吾氏(石野医院院長)インタビュー [2013.05.27]

はり師以外で鍼治療を業として行うことができる唯一の医療職、医師。臨床で鍼灸治療に携わる医師は、どのようなことを心がけているのでしょうか。長年にわたって北里大学東洋医学総合研究所において鍼灸治療の“実践”と“研究”の両方でご活躍されている、石野医院院長の石野尚吾先生にお話をうかがいました。

――石野先生は石野医院院長、昭和大学医学部客員教授などを務められる一方で、北里大学東洋医学総合研究所でもご活動されていますね。

石野 私が北里大学東洋医学総合研究所(以下、北里東医研)に入ったのは昭和59年4月のことです(当時は北里研究所東洋医学総合研究所)。北里東医研は、昭和47年に日本で最初の東洋医学の総合的な研究を行う機関として設立されました。WHO伝統医学研究協力センターの指定も、日本で初めて受けています。

 

研究機関ですから、今も、これまでも、多くの研究が行われています。私が携わった主な研究としては、経絡の流れや深さについて東京大学生産技術研究所と共同研究した「生体の電気化学的性質に関する研究」、厚生省長寿科学総合研究「老人医療における鍼灸治療の役割に関する研究」(主任研究員)、厚生労働科学特別研究事業「漢方・鍼灸を活用した日本型医療創生のための調査研究」(研究員)などがあります。

 

いま流行している美容鍼の研究も、いち早く行いました。北里研究所病院の美容医学センターとの共同研究で、鍼によって皮膚の血流がよくなり、しっとりしてくるといった結果を得ることができました。美容鍼が脚光を浴びる前のことでしたから、当時としては最先端だったと思います。

 


――北里東医研は研究機関としての機能だけでなく、漢方鍼灸治療センターがあり、患者さんの診察・治療も行っていますね。

石野 10年くらい前は、一日に私一人で100人くらい患者さんを診ていたときもありました(笑)。いまは、鍼灸外来の非常勤医師として、曜日限定で患者さんの診療に当たっています。
北里東医研の漢方鍼灸治療センターでは、現代医療を踏まえつつ、本治法と標治法を併用した、北里方式の経絡治療を行っています。鍼は細い鍼(寸三2番、3番)を使用し、浅い刺入を基本としています。

 

北里方式の治療法で、診療部門長として在任している間に私が力を注いだことの一つが、標治法での選穴の標準化です。「こういう病状のときには、この経穴を使いましょう」ということを決めていったのです。具体的な作業としては、『黄帝明堂経』『鍼灸大成』『柳谷素霊選集』など、古典から現代までの代表的な書籍34と現代の文献から、病名・病状名と使用経穴を抽出し、使用頻度の多い経穴に私たちの臨床での経験を加味して、選穴のルールをつくっていきました。

 

皆で手分けして行った文献の洗い出しは、「現在使用されているこの病名は、昔はどういう病名で呼ばれていて、どういう経穴で治療していたのか」ということが浮かび上がる、興味深い作業でした。選穴を標準化する意義は、チーム全体で治療方法を統一することにあります。例えば私が治療した患者さんを、私がいないときは他の先生が治療するというケースがあった場合、治療方法が定まっていなかったら、その患者さんは戸惑ってしまいます。ある一つの病状に対して、チームで治療方法が統一されていなかったら、臨床報告もできません。鍼灸を実践する上では、治療方法の統一がとても大切なことなのです。

 

 

――石野先生ご自身が鍼灸治療で心がけていることはどんなことですか。

石野 心がけていることは、大きく分けて3つあります。①悪化させないこと、②医療事故を起こさないこと、③症状や訴えに隠れている重大な病気を見逃さないことです。 「悪化をさせないこと」は、鍼灸でも漢方でも診療全般に言えることで、大原則です。2つ目の医療事故については鍼灸の場合、技術の未熟さや知識のなさがほとんどの原因だと思います。つまり技術を磨き、知識を深めることが大切になるわけです。

 

3つ目の「症状や訴えに隠れている重大な病気を見逃さないこと」。これは例えば、患者さんから「肩や背中がこっている」という訴えがあったら、実は心臓がわるいという可能性もある。愁訴から、重篤な病気、あるいは重篤な病気につながる症状を見逃さないということです。結局はすべて、「悪化させない」ことにつながっていますね。

 

日々の臨床でよく感じていることは「鍼と漢方の併用は非常に効果がある」ということです。鍼は即効性に優れていますが、持続性は漢方のほうがあります。ですから、鍼治療で足りない持続性を漢方で補ってあげる。逆に、漢方で足りない部分を鍼治療で補う。そうすることによって症状が軽くなり、早くよくなることを経験してきました。

 

また、鍼灸治療の効果検証は、西洋医学の見地から行うことにしています。鍼灸治療の効果の解明にも、EBMの考えが導入されつつあります。医師が鍼灸治療を行うメリットは、現代医学と鍼灸と漢方の3つの視点から診察・治療を行うことができること、そして西洋医学の観点から鍼灸治療の効果判定を評価できる点だと思います。

 

 

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――石野先生が考える鍼灸の魅力とは何でしょうか


石野 鍼1本あれば、さまざまな疾患に対応できる点が鍼治療のよいところです。そして副作用が少ないこと。西洋薬には副作用を表すものが多々ありますが、鍼灸には副作用がほとんどありません。鎮痛や自律神経の調節などに対して、即効性があるのも魅力です。

 

現在、医療は治す医療から予防する医療にシフトしてきており、また多職種が協力して病める人や悩める人を支えていくチーム医療の重要性が増してきています。鍼灸師は、予防医療、そしてチーム医療において重要な役割を担います。私自身は、父親(編集部注:石野信安氏。日本東洋医学会評議員・名誉会員、東洋鍼灸専門学校・校長を歴任。三陰交への灸による逆子治療を世界で初めて行う)が鍼灸治療をしていたこともあって、子どもの頃から鍼灸に親しんできました。ですが医師の中には、鍼灸のことについてよくわかっていない人が少なくありません。鍼灸師が本来の力と役割を発揮していくためにも、医師を含め、他の医療職と相互理解できるように働きかけていくことが大切だと思いますね。

 

――チーム医療の中でも鍼灸師は期待されているのですね。本日はありがとうございました。

 

 

●石野尚吾(いしの・しょうご)

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1966年昭和大学医学部卒業。医学博士。学生の頃から故丸山昌朗先生に直接師事。卒業後、日本医科大学産婦人科教室に入局、鍼による無痛分娩、手術を行う。これまで、日本医科大学産婦人科教室医局長、第18代日本東洋医学会会長、第1次・第2次日本経穴委員会委員、北里研究所(現北里大学)東洋医学総合研究所診療部門長(約20年間)、横浜薬科大学教授(現客員教授)など、多くの役職を歴任。

現在、石野医院院長、昭和大学医学部客員教授、北里大学東洋医学総合研究所非常勤医師、日本漢方医学研究所理事長などを務める。

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