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長野式における 脾のとらえ方と 脾の病証への対処法

大野倫史

  長野式治療の治療理念は、我々に生来備わっている自然治癒力の賦活と、その働きを阻害する因子を見つけ出し改善および除去することである。自然治癒力の阻害因子とは、例えば免疫の低下や不適正、自律神経や内分泌の不調、血液などの循環障害、筋肉ならびに緻密結合組織などの硬化、気の変調などである。それら阻害因子を脉診や腹診、火穴診、背候診、各局所診を用いて診断し、それぞれに適した処置を施してゆく。
  こうした長野式治療システムのなかで、脾にかかわる代表的な所見は以下の通りである。
・腹診においては、後世派腹診における臍部の圧痛、また脾の募穴である章門の圧痛をもって脾実とする。
・脾経の五行穴のうち、火穴の大都の圧痛をもって脾経の実と診る。
・背候診では、第11胸椎と第12胸椎の棘突起間の狭小が、脾臓および膵臓の循環代謝や機能の減退、変調を示唆すると診る。
・そのほか、各症状や脉状所見などにおいて脾にかかわる所見は現れてくる。  
  また、長野式の臨床において、脾に関する病態は大きく分けると、①(「脾は統血を主る」といわれるように)出血や充血、鬱血、虚血など血液の循行や血の固摂、調整にかかわるもの、②粘膜免疫にかかわるもの(長野式創始者である長野潔氏は、その臨床上の考察から、脾と粘膜における非常に密接な因果関係を指摘している)、③糖代謝障害、の3つに分類される。

【脾と統血】

1. 骨盤虚血(血虚)
  脾と統血に関する長野式処置において、増血や循環促進の補強などを目的とするとき、脾経とともに心包経を用いることが多い。
  まず脉状が細、血虚で、冷え症や低血圧、低体温、貧血や(更年期障害にも起こりやすい)肩こり、目のかすみ、倦怠感、易疲労、頭重、頭痛などの症状に対して、「骨盤虚血処置(細脉処置)」を行う。
【処置】
  三陰交または血海、内関または郄門への雀琢補鍼および施灸(半米粒大7壮)。

2. 弱・短の脉
  脉状が細よりさらに弱い「弱・短の脉」(弱い力で圧しても消えるような弱い脉)の場合は、血液の循環力が著しく弱り、全身倦怠、疲労困憊の様相を呈する。時には心機能低下、いわゆる「虚血性心疾患」状態の場合もあり、重篤なときは注意が必要である。この場合でも、心包経との組み合わせで循環促進を図る。
【処置】
  三陰交・陰陵泉・労宮へ20〜30分の留鍼(時間は脉状の改善を目安とする)。

3. 骨盤内鬱血症状
  そして、「骨盤内鬱血症状」が見られる場合も同様である。骨盤内鬱血症は心因的要素などのストレスが引き金となり、自律神経の血管運動神経が失調し、骨盤内にて鬱血を起こしたものである。その結果生じる仙骨子宮靱帯などの骨盤結合組織の増生や硬化によって、腰痛や下腹部痛、性交痛などを起こしやすい。別名「テイラー(Taylor)症候群」ともいう。この特徴的な症状として、めまいやふらつきを訴える場合を臨床上よく見かける。そのほか、頭痛や肩こりなど全身的な不定愁訴を伴うことも多い。  
  臨床上の診察所見としては、肩井の圧痛が現れ、同時に陰陵泉にも圧痛を伴うことが多い。
【処置】
  商丘・陰陵泉と間使または郄門に雀琢補鍼。特に陰陵泉への雀琢補鍼が重要で、肩井の圧痛の消失を目安とする。

4. 出血傾向がある場合
  このように、増血や循環促進を目的とする場合には、脾経と心包経を組み合わせるが、出血傾向のある場合では、肺経と組み合わせるのが有効である。例えば、婦人科の不正出血では、太白・陰陵泉・血海・衝門に加え、肺経の尺沢に補鍼する。  
  この稿の執筆中にあるニュースが目に留まった。「肺が全血中の過半数相当の血小板を生産していることを発見した」と、カリフォルニア大学の研究チームが科学誌「ネイチャー」に発表したという。これはマウスによる実験の結果だが、人間にも当てはまるとするならば、「脾経+肺経」による止血作用への考察がより深まるであろう。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2017年6月号」でお読みください。