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エコーガイド下刺鍼によるfasciaリリース
〜リスク管理から精密治療まで〜

吉村亮次・木村裕明・小林 只

【はじめに】

  本稿では、西洋医学的鍼治療であるドライ・ニードリング(dry needling)の主たる適応病態として世界的にも実践されている筋膜性疼痛および異常なfasciaの治療に関連して、その病態を概説したのち、その治療方法の一つであるfasciaリリース注射とfasciaリリース鍼治療の差異と相補性を述べる。次に、鍼灸師による超音波画像診断装置(エコー)の活用に関して、肺や腎臓という刺鍼危険部位を避けるリスク管理から、神経・血管近傍のfasciaの治療という精密治療まで、その幅広い活用方法を、症例を通じて提示する。

【筋膜性疼痛の病態と治療法】

  近年、痛み・しびれの原因として、fasciaが注目されている。現在、fasciaは腱や靱帯、胸膜、心膜などの内臓を包む膜など、骨格筋と無関係な部位の結合組織構造をも含むと理解されている。fasciaは、「筋膜」あるいは「膜」と訳されることが多いが、筋膜は「myofascia」、膜は「membrane」であり、「fascia」の適切な日本語訳の検討が急がれる。
  筋膜性疼痛症候群(myofascial pain syndrome:MPS)は、そのなかでも筋膜に着目した概念であるが、筋膜(myofascia)以外のfasciaも発痛源となるため、fascial pain syndrome(現時点では、この名称は正式な病名としては存在しない)とでもいうべき新たな診断基準が必要になってきている。

  発痛源となり得るfascia異常の原因は、いまだに解明されていない。我々は、筋膜性疼痛は炎症や虚血、そして機械的刺激が生じた部位において、myofasciaを中心としたfasciaおよびその周囲に何らかの機能解剖学的変化が起こることによって生じる疼痛であると推測している。MPSに罹患している筋外膜間(筋外膜と筋外膜の間で結合組織がネットワーク状に満たされている間隙)には、サブスタンスPやブラジキニンなどの痛み物質が多く、pHが低く、ヒアルロン酸の粘度が上昇していることが報告されている。また、筋外膜自体にも侵害受容器が密に分布しているという報告もある。さらに、異常なfasciaは組織の伸張性低下と組織同士の滑走性の低下、また水分量の低下との関連も示唆されている。そのような場所をエコーで観察すると、画像上は「層状かつ帯状の高輝度部位(hyper echoic stripe-shaped lesion いわゆる、白く厚く重積した像)」として観察される傾向があり、異常なfasciaを示す所見の一つとして注目されている。このような異常なfasciaを治療対象とすると、その治療効果が高いことが多い。

  「エコーガイド下fasciaリリース」とは、fasciaが原因と考えられるさまざまな病態に対して、エコーで観察しながら行う治療の総称である。そのfasciaの癒着(adhesion)や接着(cohesion)の程度やその広さに応じて、医師は低侵襲手術(minimum invasive surgery/incision)や注射(injection 国内では、ハイドロリリース hydrorelease、国外ではハイドロダイセクション hydrodissectionとも表現される)を、鍼灸師は鍼(dry needling/acupuncture)を、またある場合は徒手(manipulation)を用いて、相補的に治療を行う。なお、リリース(release)という言葉は、形態的な分離(separation/dissection)と、機能的な弛緩(relaxation/loosening)の両者を語源的に含む表現である。

【生理食塩水注入によるfasciaリリースと鍼治療との違い】

  fasciaの癒着のグレード分類と、鍼治療と注射治療を含む治療方法の特性を図1(※医道の日本2018年6月号参照)に示す。治療方法により、異常なfasciaの治療範囲と刺激強度、侵襲性(組織損傷)の程度、治療時の痛みの強さが異なる。鍼治療と注射治療にはそれぞれの得手不得手があり、その使い分けと、療法士なども交えた多職種間の連携が重要である。

1. fasciaの重積(癒着)をリリースする範囲の違い

  生理食塩水注射によるfasciaリリースは、1回の注射で広範囲に重積をリリースすることができる。また、液体が広がるため、必ずしも針先をリリースしたい部位に刺入しなくてもよい。一方、鍼治療では、必ず鍼先をリリースしたい部位に刺入しなければならないが、多部位を同時に治療することができる。

2. 侵襲性(組織損傷)の違い

  鍼治療で使う鍼は、神経ブロックで使う注射針に比べて、先が丸くなっていて、組織損傷が少ない。一方、注射針は針先が鋭角なため、組織を傷めてしまう場合があり、特に血管や神経、肺(気胸にならないように)などの部位は注意を必要とする。

3. 治療時の痛みの強さの違い

  刺鍼時に痛みが小さいことも鍼治療の大きな特徴である。また、上手な鍼灸師は鍼を刺してから鍼先を自由に曲げることができるため、注射針では届きにくい所でも、ピンポイントで治療が可能である。しかし、患部に正確に当たらないと効果が少ないため、高度な技術が必要となる。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2018年6月号」でお読みください。