鍼灸ミステリーの金字塔 続編刊行
鷹野鍼灸院に新たな謎!

乾緑郎氏

  鍼灸とミステリーをかけ合わせた乾緑郎氏の人気作『鷹野鍼灸院の事件簿』(宝島社文庫)の続編が2016年6月、ついに刊行された。鍼灸マッサージ師の経験と、作家としての確かな技量による乾氏ならではの緻密な描写で、今作もまた心揺さぶられる。鍼灸に携わっている人もそうでない人も、一様に魅了される傑作集、その制作秘話を聞く。

【約5300年前のミイラとツボ】

――先ほど編集担当の方から、2014年5月に発刊された『鷹野鍼灸院の事件簿』はすでに4刷の重版出来と聞きました。今回、約2年ぶりに刊行された待望の続編を拝読しましたが、さらに専門的な内容になっている印象を抱きました。
  鍼灸の知識がある人は専門用語の受け取り方が違うので、そう感じてしまうかもしれませんが、僕としては、むしろ専門的な知識は緩和された作品になっています。前作は鍼灸の世界にかかわる話が多かったので、今回は「ホスピタル・クラウン」という、主に病院の小児病棟で活動している道化師や、身元不明の高齢者、埋没鍼、約5300年前の男性のミイラで身体に彫られている刺青の位置がツボの位置と一致していた「アイスマン」といった、時事ネタと鍼灸を絡めて一般性を持たせようと思っていました。  
  第4話の「アイスマンの呼ぶ声」を書くにあたっては、オリジナルな部分を入れようと必死に考えました。「ICEMAN photoscan」という海外のサイトにアイスマンの写真が公開されていて、そこではアイスマンの身体をいろいろな角度から見ることや、3Dメガネを着用すれば立体的に見える画像を表示することができます。その写真を確認しながら必死に考えて、アイスマンは五輸穴を使って治療をしていたのではないかという話を思いつきました。たぶん、その部分は一般の読者は退屈するかもしれないなと思いながらも、オリジナルがないのはあるまじきことだという意地もありました。

――その“意地”とはどういったものでしょうか。
  もちろん、小説家としての意地です。アイスマンのことは資料をたくさん読めば誰にだって書けてしまうんです。いろいろな情報が出ていますし。例えば、刺青がツボの位置と合っているのではないかという説は、今作にも書いたオーストリアのレオポルド・ドルファーという医学博士が実際に調査した結果です。ただ、その説をそのまま使用するのではいかにも医療関係者が書きそうな内容になってしまうので、小説家として自分なりの創作を入れようと思いました。

――アイスマンを殺害した人物の設定もユニークです。どうやって思いついたのですか。
  アイスマン自体は結構前から知っていましたが、それを『鷹野鍼灸院の事件簿』と絡めるためには創作部分を十分に構想する必要があったので、前作では扱いませんでした。ただ、僕はSFやホラーなどの要素が強い小説を書くのが好きなので、どちらかというといつもの感じで書いたのが「アイスマンの呼ぶ声」です。それから、僕は手塚治虫先生の『ブラック・ジャック』が好きで、そのなかに発掘されたミイラをブラック・ジャックが手術する「のろわれた手術」という話があって、そんな物語を書きたい気持ちもありました。さすがにアイスマンに鍼を打っても仕方がありませんし、アイスマンはツボを使った治療を受けていたのではないかという展開にしました。だから、今作で一番書いていて楽しかったのは「アイスマンの呼ぶ声」なんです。

【『鷹野鍼灸院の事件簿』で やりたいこと、やりたくないこと】

――今作は全5話収載されています。作品1篇の制作期間はどのくらいですか。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2016年8月号」でお読みください。
読者プレゼントがございます。