男性の病を考える「メンズヘルス」
ーメタボ・糖尿病・うつを引き起こすLOH症候群とはー

辻村 晃 氏

男性ホルモンが関係する疾患を臨床研究する日本Men's Health医学会が発足されて、10年以上が経つ。「女性疾患」に比べると、「男性疾患」の認知度はまだ低いものの、街では、メンズヘルス外来を掲げるクリニックを目にするようになった。メンズヘルスには、どんな疾患があり、またどんな治療や予防法があるのか。専門分野の一つとしてメンズヘルスに取り組む辻村晃氏(順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科教授)にインタビューを行った。

【男性更年期障害での3つの症状】

――「男性に多い病気」が注目されるようになった背景を教えてください。

辻村   「男性の更年期障害」が浸透したことがきっかけです。2000年に、漫画家のはらたいらさんが『はらたいらのジタバタ男の更年期』(芳賀書店、2003年から小学館文庫)を出版し、ご自身の49歳からの体調の変化を赤裸々に書いたことで、多くの人に男性更年期障害の存在が知られました。そこから「実は男性にも更年期障害がある」とテレビ番組で取り上げられるようになり、「自分もそうなのではないか」と男性患者が医療機関を訪れるようになりました。

患者が増えると、診療のための手引きが必要になります。男性更年期は「加齢男性性腺機能低下症候群」(late onset hypogonadism: LOH症候群)の医学病名で統一され、2007年に手引きがつくられます。LOH症候群は男性ホルモンの低下から生じます。男性ホルモンは、精巣から分泌されるテストステロンと、副腎から分泌される副腎アンドロゲンで構成され、アンドロゲンと総称されます。アンドロゲンの約95%はテストステロンが占めるため、血中テストステロン濃度を測定することで、男性ホルモンの低下を推測することが可能です。

辻村   諸外国の報告によると、45歳以上の男性の約40%において血中テストステロン値が低下しているとされています。つまり、LOH症候群は、加齢に伴うテストステロン値の低下とそれに伴う臨床症状ということになります。

LOH症候群の手引きができる前年の2006年、日本Aging Male研究会を発展させるかたちで、日本Men's Health医学会が発足され、「メンズヘルス」という言葉が生まれました。2000年代前半から、男性疾患にだんだんと注目が集まり始めた印象を私は持っています。

――メンズヘルスには、どのような疾患が含まれますか。

辻村   メンズヘルスは、テストステロンなどの男性ホルモンの低下によって引き起こされるものが主となり、図1(※雑誌「医道の日本2019年5月号」参照)のような疾患が含まれます。もちろん、男性ホルモンは加齢に応じて自然に減少するものです。しかし、年齢基準よりも顕著に男性ホルモンが低下すると、メンズヘルスの疾患が現れやすくなります。

私は順天堂大学医学部附属浦安病院やメンズヘルスクリニック東京(東京都千代田区)の外来で患者を診ています。メンズヘルスについては、男性更年期障害の患者がほとんどで、大きく3つの問題に分かれます。

まずは身体的な問題です。男性ホルモンが低下すると、筋肉量が減ります。一方で、脂肪がつきやすくなり、メタボリック症候群へとつながっていきます。そのほかに、骨の密度が低くなり骨粗鬆症になることもあれば、血管年齢が衰えることもあります。男性ホルモンの低下だけが原因ではないかもしれませんが、大きく関与してくるところです。あとは肉体的な疲れです。これまで平気だった仕事量をこなしただけで、極端に肉体疲労を感じるようになるのは、男性更年期障害の症状の一つです。
辻村   次に、精神的な問題です。うつや不安、パニックなどが起こりやすくなります。また、怒りっぽくなったり、逆に無気力になってしまったり……。不眠に悩まされることも、男性更年期障害の患者には少なくありません。

3つ目は性機能の問題です。男性ホルモンが減少すると、勃起できなくなったり、射精がうまくいかなくなったりすることがあります。それ以前に性欲自体も低下しがちです。性機能障害に対する治療は、男性不妊症にもかかわってきます。

この3つの男性更年期症状に加えて、排尿障害などの症状も加えたメンズヘルスへの対応を行っています。罹患数が劇的に増えたのではなく、メンズヘルスの言葉が認知されるに従って「診察を受けてみよう」と考える人が増えたのではないかと思います。加えて性機能の問題はデリケートなため、「性機能外来」と掲げると、どうしても患者は受診しにくいです。「メンズヘルス外来」ならば、性的な悩みも含めてトータル的に受診しやすいために、患者が増えている面はあるのではないでしょうか。

――女性ホルモンが低下して起こる症状と男性ホルモンが低下して起こる症状とでは、どんな違いがありますか。

辻村   基本的には同じです。女性の更年期の症状がほぼ男性の更年期にも当てはまります。違いといえば、勃起力のような男性特有の性機能の問題くらいではないでしょうか。

ただ、マスコミの取り上げ方として、男性更年期の場合はうつや不安など精神的な面がクローズアップされることがほとんどです。外来で診ていると、精神的な問題がやや多い印象はあるものの、肉体的な問題や性的な問題と比べて極端に多いわけではありません。ほぼ3分の1ずつです。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2019年5月号」でお読みください。

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